「寄付規制法案(仮称)」等の慎重な議論を求める声明(弁護士有志)

弁護士有志

 代表 弁護士 鬼澤秀昌


「寄付規制法案(仮称)」等の慎重な議論を求める声明

 

意 見

 

拙速な「寄付規制法案(仮称)」等の制定に強く反対し、以下の観点から慎重に議論をすべきである。

 

① 法人格の違いに応じた規制とすること

② 寄附を取消又は無効とする場合の要件は公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(以下「認定法」という。)第17条の規定よりも厳格かつ明確にすること

③ 寄附を重要な収入源として公益的な活動をしている非営利団体(特定非営利活動法人、一般社団法人・一般財団法人、公益社団法人及び公益財団法人、その他の非営利法人)の意見を十分に聞くこと

 

理 由

 

今般、 「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)」の問題を発端として、政府では消費者庁において「霊感商法等の悪質商法への対策検討会」が設置され、 10 月 17 日に報告書(以下「報告書」という。)が提出された。霊感商法等により被害を受けた方々への救済措置は一刻も早くすべきである。しかし、その手段としての寄附に関する規制については、一律に規制するのではなく、①規制対象の妥当性、②要件の明確さ、③法制定のプロセスの観点から慎重に判断すべきである。以下詳述する。

 

① 規制対象の妥当性:法人格に応じた規制とすべきであること

今回の霊感商法については宗教法人による行為である。そして、宗教法人については、宗教法人法第25条第5項において「所轄庁は、前項の規定により提出された書類を取り扱う場合においては、宗教法人の宗教上の特性及び慣習を尊重し、信教の自由を妨げることがないように特に留意しなければならない。」と定められている通り、法律上、信教の自由の観点から、所轄庁による規制は極めて抑制的である。しかも、宗教法人に対して一定の書類や帳簿等の閲覧を請求できるのは、「信者その他の利害関係者」に限定されている。

他方、公益社団法人・公益財団法人(以下「公益法人」という。)では、財産目録等の公開も義務付けられており(第21条第4項)、また、第27条に基づき勧告・命令等(第28条)による所轄庁による監査も可能である。このような構造は、特定非営利活動法人についても同様である(書類の公開については特定非営利活動促進法第30条、報告・検査については同法第41条)。

このような法人格ごとのガバナンスの在り方の違いを無視し、宗教法人以外のすべての法人に対して規制を及ぼすことは妥当ではない。

 

② 要件の明確さ:認定法第17条の規定よりも厳格にし、要件を明確にすること

 報告書においては、「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律第 17 条(寄附の募集に関する禁止行為)の規定も参考としつつ」「より幅広く一般的な禁止規範を規定すべき」(6頁)と述べられている。

 しかし、認定法第17条については、行為規制であって、当該行為に違反した場合であっても、勧告(認定法第28条)の対象となるに過ぎない。もし、宗教法人を対象とする認定法第17条と類似の規制を定めた上で、当該規制の違反を無効又は取消という民法上の効果と結び付けるのであれば、取引の安定性の観点から、当該要件はより厳格に定めるべきである。過度な規制によって寄附募集を委縮させることは、「民間の寄付やクラウドファンディング等の資金・人材を呼び込む社会的ファイナンスの活用を促進する」[1]という政府の方針に逆行するものである。

 また、特定非営利活動法人や、公益法人に対する所轄庁の指導は、裁判により争われることも少ないことも影響し、恣意的な指導が散見される状況である(一般財団法人日本尊厳死協会に対する公益不認定処分に関する取消がされた東京高等裁判所令和元年10月31日判決参照)。そのような状況の中で、抽象的な寄附の募集の規制をすることで、行政による恣意的な指導の範囲が拡大し、公益的な活動をしている団体の活動がさらに委縮されることが強く懸念される。

 報告書においても、念頭に置かれているものは「正体隠しの伝道等の本人の自由な意思決定の前提を奪うような活動手法やマインドコントロール下にあって合理的な判断ができない状況が問題となる寄附の要求等への対応」(6頁)である以上、これに沿った要件の検討の明確化をすべきである。

 

③ 法制定のプロセス:寄附等を重要な収入源とするNPO等の意見を十分に聞くこと

 さらに法律の制定をする場合、その影響は広く社会一般に及ぶこととなる。そのため、国会においても審議を尽くして各関係者の意見を反映させた上で法律を制定すべきである。

 今回、国会では本法律の制定にあたって、旧統一教会の被害者の方のヒアリングをしている様子はうかがわれる。しかし、今回の法律により最も影響を受けるのは、寄附を重要な収入として活動している特定非営利活動法人及び公益法人をはじめとした、公益的な活動をしている非営利団体である。

 したがって、本法律の制定にあたっては、寄附を重要な収入源として公益的な活動をしている非営利団体(特定非営利活動法人、公益法人、その他の非営利法人)の意見を十分に聴取し、その法案の内容に反映させることが重要である。

 

以上


 

有志メンバー一覧

弁護士 鬼澤秀昌(おにざわ法律事務所、BLP-Network代表)
弁護士 岸本英嗣(公益社団法人MarriageForAllJapan )
弁護士 樽本哲
弁護士 瀧口徹(牛込橋法律事務所)
弁護士 宇治野壮歩(第一東京弁護士会)
弁護士 金山卓晴(あさひ法律事務所、NPOのための弁護士ネットワーク)
弁護士 草原敦夫
弁護士 黒川健(BLP-Network)
弁護士 今野佑一郎(NPOのための弁護士ネットワーク)
弁護士 日向寺司(弁護士法人TLEO虎ノ門法律経済事務所上野支店)
弁護士 小野裕貴(札幌弁護士会)
弁護士 吉江暢洋(岩手弁護士会)
弁護士 小島寛司(NPOのための弁護士ネットワーク)

※本声明に賛同してくださる弁護士の方がいらっしゃいましたら、以下のフォームよりご入力ください。適宜上記「有志メンバー」一覧に追記させていただきます。
https://forms.gle/bXJzaB4VE8xrcxaz5


[1]「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画 ~人・技術・スタートアップへの投資の実現」(令和4年6月7日)

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