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【書籍】部下の成長を引き出すリーダーの秘訣:褒め方とフィードバックの使い分けー冨山真由氏ー日経ビジネス記事より

 日経ビジネス2024/8/19の記事に『部下を伸ばせるのは「褒めとフィードバックの違い」が分かる上司』が掲載されていました。

 この記事は、リーダーとしての役割を果たす上で、部下の主体性を引き出し、成長を促すための効果的なコミュニケーション方法について詳細に解説しています。特に、「褒める」と「フィードバックする」の違いを理解し、適切に使い分けることで、部下が自発的に行動し、より大きな成果を上げるための土台を作ることの重要性が強調されています。内容を考察し、具体的なケースを考えてみたいと思います。


一方的な指示命令では部下は動かない

 リーダーとして部下を動かすには、単に指示を出すだけでは不十分であることが指摘されています。多くのリーダーは、自らが経験したように、「こうしなければならない」という形で業務を進めることが一般的です。しかし、この記事ではその方法が効果的ではないことを強調しています。人間は「しなければならない(Have to do)」という意識のもとでは、どうしても消極的になりがちであり、行動に移すことに抵抗を感じてしまうものです。

 例えば、経費精算のような仕事が苦手な場合、月末になると「早くやらなければならない」と感じることがあるでしょう。しかし、こうした義務感はストレスを生み出し、結果的に行動を先延ばしにする原因となります。同様に、仕事全般に対して「しなければならない」という意識が強いと、その仕事に対して嫌悪感や回避したい気持ちが生まれ、成果を上げることが難しくなります。

 そこでリーダーは、部下が「したい(Want to do)」と思えるような動機を引き出すことが求められます。つまり、義務感に駆られるのではなく、仕事に対して自発的に取り組みたいという意欲を引き出すことが重要です。この自発的な意欲こそが、部下の主体性を高め、仕事の質を向上させる鍵となります。

具体的フィードバックと肯定的フィードバックをセットで行う

 部下の行動を改善し、成長を促すためには、フィードバックが不可欠です。しかし、ただフィードバックを行うだけでは不十分であり、効果的なフィードバックには「具体的フィードバック」と「肯定的フィードバック」を組み合わせることが重要です。

 具体的フィードバックとは、部下の行動について具体的に何が良かったのか、どのように改善すればより良くなるのかを詳細に伝えるものです。
 例えば、「この会議では積極的に発言していたので、非常に良い影響を与えました」といったフィードバックが挙げられます。このように具体的なフィードバックを行うことで、部下は自分の行動がどう評価されているのかを理解し、次の行動に生かすことができます。

 さらに、この具体的フィードバックに加えて、肯定的フィードバックも重要です。肯定的フィードバックとは、部下が行った良い行動に対して、即座に適切に評価し、具体的に褒めることです。
 例えば、「会議で真っ先に発言していたのは素晴らしい積極性でした」と伝えることで、部下はその行動に対して自信を持ち、次回も同じように積極的に取り組もうとする意欲が生まれます。こうしたフィードバックの組み合わせが、部下の成長を促進し、リーダーシップを発揮するための基盤となります。

指示するくらいなら「選ばせる」ほうが効果的

 従来のマネジメントスタイルでは、上司が部下に対して一方的に指示を出し、その指示に従って部下が行動するという形が一般的でした。しかし、この方法は部下の主体性を引き出すには不十分であり、部下が本当に自発的に行動したいという気持ちを持つには至らないことが多いです。特に、現代の職場環境では、指示命令だけでは部下のやる気を引き出すことが難しくなっています。

 そこで、新しいマネジメントスタイルとして提案されているのが、「選ばせる」という方法です。具体的には、部下に対して複数の選択肢を提示し、その中から自分で選ばせることで、主体的に行動する意欲を引き出すのです。
 例えば、「A案とB案がありますが、どちらがやりやすいですか?」といった形で選択肢を提示し、部下に選ばせることで、部下は自分の意思で行動を選択したという感覚を持つことができます。

 このようにして部下の主体性を尊重しつつ、行動を促すことで、より効果的なマネジメントが可能になります。部下が自ら選択し、行動に移すことで、仕事に対する満足感や達成感が高まり、結果的に組織全体のパフォーマンス向上にもつながるでしょう。

まとめ

 リーダーとして、部下の主体性を引き出し、成長を促すためには、従来の指示命令型のマネジメントスタイルから脱却し、より効果的なコミュニケーション方法を取り入れる必要があります。「しなければならない」という義務感に基づく行動ではなく、「したい」という自発的な意欲を引き出すことが、部下のモチベーションを高め、成果を上げる鍵となります。また、具体的フィードバックと肯定的フィードバックを組み合わせて行うことで、部下の行動を具体的に改善し、成長を促すことができます。

 さらに、指示するのではなく、選択肢を提示して部下に選ばせることで、主体性を尊重しつつ、効果的な行動を促すことが可能です。これらのコミュニケーション方法を駆使することで、リーダーとしての影響力を高め、組織全体のパフォーマンスを向上させることができるでしょう。

 このように、リーダーシップの在り方を再考し、部下の主体性を引き出すためのアプローチを取り入れることで、より良いチームを作り上げることができるのです。

具体的ケースを考えてみる

 ここでは、部下の主体性を引き出すためのリーダーシップに関する具体例を考えてみます。
 以下のケースは、実際の職場で起こりうる状況を想定しており、リーダーがどのように部下と向き合い、適切なフィードバックや選択肢を提示することで、部下の意欲やパフォーマンスを向上させることができるでしょう。

ケース1: 新しいプロジェクトの取り組み

(状況)
 リーダーとしてのあなたは、新しいプロジェクトを立ち上げ、そのプロジェクトチームには、若手社員の田中さんが参加しています。田中さんは入社して数年経っており、基本的な業務はこなせるようになっていますが、新しい挑戦や責任を負うことに対して少し消極的で、会議の場でも発言が少ない傾向があります。特に、新しいアイデアを提案したり、他のメンバーと意見を交わすことに対して自信がないようです。

(従来のアプローチ)
 こうした状況において「もっと積極的に発言しなさい」と直接的な指示を出すことが一般的でした。この方法は、一見効果的に思えるかもしれませんが、田中さんのような性格や状況にある部下に対しては、「しなければならない」というプレッシャーを強く感じさせてしまい、さらに消極的になる可能性があります。結果として、田中さんは指示に従って表面的に行動するかもしれませんが、本質的な意欲や主体性は引き出されず、長期的な成長にはつながらないでしょう。

(新しいアプローチ)
 まず、田中さんの内面的な意欲を引き出すことが重要と考えます。そのために、田中さんと1on1のミーティングを設定し、まずは彼がプロジェクトに対してどのように感じているのかを丁寧に聞くところから始めます。具体的には、「プロジェクトについて何か不安に思っていることはありますか?」「どの部分に特に興味を持っていますか?」といった質問を投げかけ、田中さんが感じている不安や期待を共有する場を作ります。このプロセスで、田中さんが自分の意見を安心して表明できる環境を整えることが大切です。

 次に、田中さんに対して「このプロジェクトで特にどの部分を担当してみたいですか? A案とB案があるのですが、どちらがやりやすいと思いますか?」といった形で選択肢を提示します。これにより、田中さんは自分の意思で選択する機会を得ることになり、自発的にプロジェクトに取り組む意欲を持つことができるようになります。選択肢を与えることで、田中さんは自らの判断に基づいて行動を選択するため、責任感や達成感が生まれやすくなります。

(具体的フィードバックと肯定的フィードバック)
 田中さんがプロジェクトの中で自分から発言したり、提案を行った場合、その行動を見逃さず、具体的なフィードバックを行います。例えば、「田中さん、今回の会議での発言は非常に参考になりました。特に、〇〇のアイデアはプロジェクトに新しい視点を提供してくれました」といった形で、具体的に何が良かったのかを伝えます。これにより、田中さんは自分の貢献が評価されていると感じ、自信を持つことができます。

 さらに、「その発言があったおかげで、チーム全体が新しい方向性を考えるきっかけになりました。次回の会議でも、ぜひ積極的に意見を出してほしいです」と肯定的なフィードバックを加えます。このように具体的かつ肯定的なフィードバックをセットで行うことで、田中さんのモチベーションを高め、次回も積極的に発言しようという意欲を持たせることができます。

ケース2: パフォーマンス改善に向けた取り組み

(状況)
 チームに所属している佐藤さんは、最近、業務のパフォーマンスが低下していることが気になっています。以前は効率よく業務を進めていた佐藤さんですが、最近はミスが目立つようになり、納期に遅れることも増えてきました。佐藤さんは真面目な性格で、これまでの実績も高く評価されていただけに、この状況はチーム全体にも影響を及ぼしかねません。

(従来のアプローチ)
 従来のアプローチでは、このような状況に対して「もっと効率よく仕事を進めてください」「次回からミスをなくすように気をつけてください」といった指示を出すことが多いでしょう。しかし、この方法では佐藤さんに対して具体的にどうすれば改善できるのかが伝わらず、結局、漠然としたプレッシャーを与えるだけに終わる可能性があります。これでは、佐藤さん自身が何をどう改善すれば良いのか理解できず、パフォーマンスの改善が見られないまま時間が過ぎてしまう恐れがあります。

(新しいアプローチ)
 まず、佐藤さんと1on1の場を設け、現状のパフォーマンスについて率直に話し合うことが必要です。この場では、佐藤さんの気持ちや現在の業務の中で感じている課題について話を聞き出し、問題の原因を共に探ることが大切です。具体的には、「最近、仕事で何か悩んでいることはありませんか?」「どのタスクが特に難しいと感じていますか?」といった質問を通じて、佐藤さんが抱えているストレスや問題点を明確にします。

 その後、佐藤さんに対して「この部分を改善するには、どのような方法が考えられるでしょうか?」と問いかけ、彼自身の考えを引き出します。例えば、佐藤さんが「タスク管理をもう一度見直したい」と提案した場合、具体的なアクションプランを一緒に考え、「次の週までに試してみましょう」と具体的な期限を設定することで、実行可能な改善策として落とし込みます。このプロセスを通じて、佐藤さんは自分の意思で問題解決に取り組む意欲を持つようになります。

(具体的フィードバックと肯定的フィードバック)
 改善策を実行した後、佐藤さんのパフォーマンスに少しでも改善が見られた場合、その変化を見逃さずに具体的なフィードバックを行います。例えば、「佐藤さん、タスク管理を見直した結果、作業がスムーズになっているのがわかります。特に、〇〇の部分での効率が上がっていますね」と伝えることで、佐藤さんが自分の取り組みが正しい方向に進んでいることを確認できます。

 さらに、「この調子で他の部分でも同じ方法を試してみましょう。あなたの取り組みがチーム全体のパフォーマンス向上にもつながっています」と肯定的なフィードバックを与えることで、佐藤さんのモチベーションをさらに高めることができます。これにより、佐藤さんは自分の努力が報われていると感じ、さらなる改善を目指して主体的に行動を続けるでしょう。

ケース3: 部署間のコミュニケーション強化

(状況)
 あなたのチームは、他の部署とのコミュニケーションが円滑にいかず、プロジェクトが停滞している状況に直面しています。特に、チームメンバーの山田さんは、他部署とのやり取りに対して苦手意識を持っており、コミュニケーションが疎遠になりがちです。このままでは、プロジェクトの進行がさらに遅れ、全体のパフォーマンスにも悪影響が出ることが予想されます。

(従来のアプローチ)
 従来のリーダーシップスタイルでは、このような場合、山田さんに対して「もっと積極的に他の部署とコミュニケーションを取ってください」と直接的に指示を出すことが多いでしょう。しかし、この方法では、山田さんの苦手意識を考慮せず、むしろプレッシャーを与える結果となり、状況が改善されないどころか、さらに悪化する可能性があります。山田さんは「やらなければならない」と感じつつも、どうしても消極的な態度を取ってしまうかもしれません。

(新しいアプローチ)
 まず、山田さんとの1on1ミーティングを設定し、他部署とのコミュニケーションに対する具体的な悩みや問題点を聞き出します。「他部署とのやり取りでどのような点が特に難しいと感じていますか?」といった質問を通じて、山田さんが感じているハードルを明確にします。この段階で、山田さんがどのようなサポートを必要としているのか、具体的な解決策を一緒に考えることが重要です。

 その後、山田さんに「メールでのやり取りを増やす」「定期的なミーティングを設定する」「他部署との交流の場を設ける」といった複数の選択肢を提示し、どの方法が最もやりやすいかを選ばせます。このように選択肢を与えることで、山田さんは自分で最適な方法を選び、実行に移す意欲を持つことができます。また、選択肢を自ら選ぶことで、山田さん自身がコミュニケーションの改善に積極的に関与しているという自覚を持つことができ、主体的な行動につながります。

(具体的フィードバックと肯定的フィードバック)
 山田さんが選択した方法で他部署とのコミュニケーションを改善し、プロジェクトの進行がスムーズになった場合、その成果を具体的にフィードバックします。例えば、「山田さん、最近の他部署とのやり取りが非常にスムーズに進んでいますね。その結果、プロジェクトの進行も非常に良くなっています」と伝えることで、山田さんが自分の努力が組織全体に良い影響を与えていることを理解できるようにします。

 また、「この方法を引き続き続けていくことで、さらにプロジェクトが円滑に進むと思います。これからもこの調子で他部署とのコミュニケーションを続けていきましょう」と肯定的なフィードバックを行い、山田さんの自信をさらに深めます。このように具体的かつ肯定的なフィードバックを繰り返すことで、山田さんは次回以降も積極的に他部署とのコミュニケーションを取ることができるようになり、プロジェクト全体の成功に貢献するでしょう。

 これらのケースは、リーダーが部下の主体性を引き出し、彼らの成長を促進するためにどのようなアプローチを取るべきかを具体的に示しています。特に、選択肢を提示し、具体的なフィードバックを与えることで、部下が自発的に行動し、より高い成果を達成することが可能になります。
 こうしたアプローチは、短期的な問題解決だけでなく、長期的に見ても部下の成長をサポートし、組織全体のパフォーマンス向上にもつながる重要なリーダーシップの要素です。


マネージャーが部下にフィードバックをしている場面です。明るい自然光が差し込む現代的なオフィスで、リラックスした雰囲気の中、建設的な会話が行われている様子がリアルに表現されています。プロフェッショナルでありながら、親しみやすい環境が伝わってきます。


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