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組織内コミュニケーションを活性化させる人事の観察力

 「観察力」は、人事の専門家が持つべき最も重要な能力の一つです。組織内の個々人のパフォーマンス、チームの相互作用、さらには組織文化全体を理解し、改善策を講じる上で不可欠です。佐渡島庸平さんの『観察力の鍛え方』から、考えてみたいと思います。

人間は現実を見ないようにできている。なぜなら、世の中には多くのバイアスがあって客観的に観察することを妨げるからだ。ビジネスや人間関係を円滑につくり上げていくには観察力を鍛えることが欠かせない。仮説を立て、それを検証する意識を持って現実を観察し、その上で問いを続けていくことが大切と講師の佐渡島庸平氏は説く。観察力が上がれば自分の軸が生まれるようになり、観察する対象や観点などが変わってくる。ポジティブ感情やネガティブ感情も、自身を客観的に観察すれば別の方向へ導くこともできる。

番組紹介より引用

また、以下書籍も参考になります。
『観察力の鍛え方 一流のクリエイターは世界をどう見ているのか』(佐渡島庸平著、SBクリエイティブ、2021年)

観察力とは何か?観察をめぐる旅への誘い

 観察力は、単に目の前にあるものを見る能力を超え、深い洞察を引き出すための基礎です。人事の立場からすると、これは従業員の非言語的コミュニケーション、組織全体の「気候」を読み取る能力を意味します。観察を阻む最大の障壁は、自己中心的な視点や確立された信念体系です。これを打破し、オープンマインドでいることが重要です。例えば、人事が新しい採用プロセスを導入する際、既存のプロセスへの固執ではなく、新たな視点からアプローチを考える必要があります。

「仮説」を起点に観察サイクルを回せ

 人事における仮説は、従業員の行動や反応に対する予測が考えられます。例えば、特定の福利厚生が従業員の満足度を高めるという仮説から出発し、実際にその福利厚生を導入した後の影響を観察します。このプロセスは、人事政策の効果を評価し、必要に応じて調整するために不可欠です。問いを立て、仮説を立て、観察するこのサイクルは、組織の成長と進化に不可欠な反復プロセスです。

観察は、いかに歪むか(認知バイアス)

 認知バイアスは、観察を歪め、不正確な結論に導く可能性があります。人事の専門家として、これらのバイアスに注意し、可能な限り客観的なデータに基づく意思決定を心掛けることが重要です。例えば、採用プロセスにおける確証バイアスは、候補者の評価に影響を与える可能性があります。同様に、パフォーマンス評価におけるハロー効果は、全体的な評価に不公平を生じさせることがあります。これらのバイアスを認識し、制御することで、より公平で効果的な人事プラクティスを実現できます。

見えないものまで観察する(感情類型と関係性)

 感情は、組織内でのコミュニケーションと相互作用において重要な役割を果たします。人事としては、従業員の表面的な反応だけでなく、その背後にある感情や動機を理解することが重要です。これにより、従業員のエンゲージメントを高め、生産性を向上させることができます。また、個人間の関係性に注目することで、チーム内のコンフリクトを予測し、解決策を提案することができます。

あいまいのすすめ(正解を手放し 判断を保留する)

 人事として直面する多くの状況では、「正解」は存在せず、多様な解決策が考えられます。例えば、組織の再構築や人材の配置変更において、異なる選択肢を検討し、あいまいさを受け入れることが必要です。このプロセスでは、柔軟な思考とオープンなコミュニケーションが重要となります。観察を通じて得られる洞察をもとに、最適な策を選択し、組織の発展に貢献します。

まとめ

 人事の立場から観察力を鍛え、実践することは、組織とその構成員の最大の利益を導くために不可欠です。観察力を高めることで、より効果的な人事戦略の策定、従業員のエンゲージメントと満足度の向上、そして最終的には組織全体のパフォーマンスの最大化に貢献することができます。人事専門家としての観察力は、目に見える行動や成果だけでなく、従業員の感情やチーム間の微妙な相互作用を読み取る能力を含みます。これにより、個々の従業員が直面している挑戦を理解し、支援するための適切なアプローチを導き出すことができます。

 組織内の様々なレベルでのコミュニケーションの促進、文化の形成、倫理規範の強化など、人事は多岐にわたる役割を果たします。観察力を鍛えることで、これらの役割をより効果的に果たすことが可能となり、組織が直面する複雑な課題を解決するための洞察を提供することができます。たとえば、組織の変革期においては、従業員からのフィードバックや懸念を正確に把握し、適切な対策を講じることが特に重要です。観察力を通じて得られる深い理解は、このプロセスの助けになるでしょう。

 また、人事専門家として観察力を鍛えることは、組織内でのリーダーシップの発揮にもつながります。リーダーとして、チームや組織が直面する問題を早期に特定し、解決策を導くためには、高いレベルの観察力が求められます。従業員のモチベーションやエンゲージメントの変化を敏感に察知し、適時に介入することで、ポジティブな職場環境の維持とチームの士気の向上に貢献することができます。

 観察力の鍛え方には、実践を通じての絶え間ない学習と反省が含まれます。自分自身の観察のプロセスと結果を定期的に振り返り、どのように改善できるかを考えることが重要です。また、他者からのフィードバックを積極的に求め、自身の観察力に対する客観的な視点を得ることも、スキルアップには不可欠です。

 最後に、観察力を高めるためには、あいまいさを受け入れ、判断を保留することの重要性を理解することが不可欠です。すべての状況に「正解」が存在するわけではありません。多様な視点を受け入れ、開かれた心で異なる可能性を探求することが、人事としての観察力を深める鍵となります。

 人事専門家としての観察力は、組織と従業員の両方にとって価値のある資産です。このスキルを鍛え、実践することで、より健全で生産的な職場環境を創造し、組織の成功に貢献することができます。観察力を通じて得られる洞察は、人事が直面するあらゆる課題に対する効果的な解決策を導くための基盤となります。

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