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DESC法を用いた効果的なアサーティブコミュニケーション

 DESC法は、アサーティブなコミュニケーションを促進するための効果的なフレームワークであり、問題解決や人間関係の改善に役立ちます。この手法は、Describe(描写する)、Express(表現する)、Specify(提案する)、Consequences(結果を伝える)の4つのステップから構成され、それぞれのステップで具体的な行動をとることで、より円滑なコミュニケーションを図り、良好な人間関係を築くことができます。


1. Describe(描写する)

 このステップでは、問題となっている状況や相手の行動を客観的に描写します。感情的な言葉や主観的な解釈を交えず、事実のみを述べることが重要です。例えば、職場で同僚が自分の仕事を手伝ってくれない場合、「あなたはいつも私の仕事を手伝ってくれない」というように、感情的な言葉で相手を非難するのではなく、「今週、あなたが担当している資料作成がまだ終わっていないようですが、締め切りは明日です」のように、具体的な状況を説明します。

 また、顧客からのクレームに対しては、「なぜこんな不良品を売るんだ!」という感情的な言葉ではなく、「先日ご購入いただいた商品に不具合があるとのこと、大変申し訳ございません。具体的にどのような不具合でしょうか?」と、冷静に状況を確認する姿勢を示します。

 このステップで重要なのは、相手を責めるような言葉を使わず、あくまで中立的な立場で事実を伝えることです。そうすることで、相手も defensive にならずに、冷静に話し合いを進めることができます。例えば、子供が宿題をせずに遊んでいる場合、「どうしていつも宿題をしないの!」と叱るのではなく、「宿題はまだ終わっていないみたいだけど、今日の分の漢字ドリルは終わってる?」と、具体的に確認するようにしましょう。

2. Express(表現する)

 このステップでは、描写した状況や相手の行動に対して、自分がどのように感じているかを率直に表現します。「悲しい」「腹が立つ」「不安だ」など、具体的な感情を言葉にすることで、相手に自分の気持ちを理解してもらうことができます。

 例えば、同僚が仕事を手伝ってくれない状況に対して、「あなたの協力がないと、私は残業しなければならなくなるので、とても困っています」と、自分の気持ちを率直に伝えます。

 顧客からのクレームに対しては、「お客様にご迷惑をおかけしてしまい、大変申し訳ございません。貴重なご意見として真摯に受け止めさせていただきます」と、謝罪と感謝の気持ちを伝えます。

 このステップでは、「私は~と感じています」というように、「私」を主語にして話す「I(アイ)メッセージ」を使うことが効果的です。「あなたは~だ」という「You(ユー)メッセージ」を使うと、相手を責めるような印象を与えてしまうため、避けることが望ましいです。
 例えば、子供が夜更かししている場合、「いつも夜更かしして!」と叱るのではなく、「夜更かしすると、朝起きるのが辛くて、学校で集中できないんじゃないかと心配だよ」と、自分の気持ちを伝えるようにすることが重要です。

3. Specify(提案する)

 このステップでは、問題解決に向けて具体的な提案をします。相手に一方的に要求するのではなく、お互いにとって納得できる解決策を提案することが重要です。

 同僚との協力の問題であれば、「今週中に資料作成を終えるために、今日中にデータ収集を終わらせて、明日一緒に内容を確認しませんか?」といった具体的な提案をします。

 顧客からのクレームに対しては、「状況を詳しく確認させていただき、交換・返品・返金など、お客様にとって最適な解決策をご提案させていただきます」といった対応を提案します。

 このステップでは、複数の解決策を提示し、相手に選択の余地を与えることも有効です。例えば、「資料作成を手伝ってほしいのですが、今日か明日、どちらが都合が良いですか?」といったように、相手に選択権を与えることで、よりスムーズに合意を得ることができます。また、子供が宿題をしない場合、「宿題を終わらせてからゲームをするか、30分だけゲームをしてから宿題をするか、どっちがいい?」と、選択肢を与えて自主性を促すことも有効です。

4. Consequences(結果を伝える)

 このステップでは、提案を受け入れた場合と受け入れない場合に、それぞれどのような結果になるかを伝えます。ポジティブな結果とネガティブな結果の両方を伝えることで、相手に提案を受け入れるメリットを理解してもらうことができます。

 例えば、同僚との協力の問題であれば、「もし協力してもらえれば、明日中に資料を完成させることができ、週末はゆっくり休めます。しかし、協力してもらえない場合は、私が残業することになり、週末も仕事をしなければならなくなるかもしれません」と、結果を伝えます。

 顧客からのクレームに対しては、「ご提案させていただいた解決策にご納得いただければ、今後も安心して弊社をご利用いただけます。もしご納得いただけない場合は、大変申し訳ございませんが、他社製品をご検討いただくことになるかもしれません」と、正直に結果を伝えます。

 このステップでは、脅迫するような言い方は避け、あくまで事実を伝えるようにしましょう。また、提案を受け入れてくれた場合は、感謝の気持ちを伝えることも大切です。例えば、子供が宿題を終わらせた場合、「宿題を頑張って終わらせてくれてありがとう!おかげで安心して眠れるよ」と、感謝の気持ちを伝えることで、子供は達成感を感じ、次の行動にも良い影響を与えるでしょう。

人事の視点から見てみる

 人事の視点から考えると、DESC法は、従業員間のコミュニケーションを円滑にし、健全な職場環境を構築するための強力なツールです。DESC法の導入は、組織の生産性向上、従業員エンゲージメントの向上、さらにはハラスメントや差別といった問題の予防にもつながる可能性を秘めています。

意見や感情を伝える

 まず、DESC法は、従業員が自身の意見や感情を明確かつ建設的に伝えるスキルを習得するのに役立ちます。職場では、様々な価値観や考え方を持つ人々が共に働いています。そのため、意見の食い違いや誤解が生じることは避けられません。しかし、DESC法を用いることで、感情的な対立を避け、建設的な議論を促すことができます。

 例えば、あるプロジェクトで、チームメンバーの一人が締め切りを守らず、他のメンバーに迷惑をかけているとします。この状況で、DESC法を使わない場合、「あなたはいつも締め切りを守らないから困る!」といった感情的な言葉で相手を非難してしまうかもしれません。しかし、DESC法を用いれば、「今回のプロジェクトで、あなたが担当しているタスクの締め切りが過ぎていますが、他のメンバーの作業にも影響が出ています(Describe)。私は、プロジェクト全体の遅延が心配です(Express)。明日中にタスクを完了させることは可能でしょうか?(Specify)。もし明日中に完了できない場合、プロジェクト全体のスケジュールを見直す必要があるかもしれません(Consequences)」といったように、冷静かつ具体的なコミュニケーションを取ることができます。

 このように、DESC法を用いることで、相手を責めることなく、問題の解決に焦点を当てたコミュニケーションが可能になります。これにより、チームメンバー間の信頼関係が深まり、より協力的なチームワークが生まれることが期待できます。

コミュニケーションにも力を発揮

また、DESC法は、上司と部下間のコミュニケーションにも効果を発揮します。部下が上司に対して意見を伝えることは、時に勇気がいるものです。しかし、DESC法を用いれば、部下は自分の意見や感情を整理し、上司に伝えやすくなります。一方、上司も、部下の意見や感情を理解しやすくなるため、より良い意思決定や適切な指示を出すことができます。

ハラスメントや差別の予防にも

 さらに、DESC法は、ハラスメントや差別といった問題の予防にもつながります。ハラスメントや差別は、相手を傷つける言葉や行動が原因で起こることが多いですが、DESC法を用いれば、相手を傷つけることなく、自分の不快感や被害を伝えることができます。例えば、セクハラを受けた場合、「あなたの言動はセクハラに当たります。私は非常に不快に感じています(Describe, Express)。今後はそのような言動を控えてください(Specify)。もし改善が見られない場合は、しかるべき対応を取らせていただきます(Consequences)」といったように、毅然とした態度で相手に伝えることができます。

人事としてDESC法を理解し、活かす

 人事としても、研修やワークショップを通じて、従業員にDESC法の理解と実践を促すことが重要です。また、DESC法が組織文化として根付くよう、日々のコミュニケーションの中でDESC法を積極的に活用し、模範を示すことも大切です。

 DESC法は、単なるコミュニケーションスキルにとどまらず、従業員のエンゲージメント向上、職場環境改善、そして組織全体の成長に貢献する強力なツールです。人事担当者は、このDESC法の価値を深く理解し、組織全体に浸透させることで、より良い職場環境を構築し、組織の持続的な成長を促進することができるでしょう。


DESC法の4つのステップを現実的な場面で示しています。オフィスのシーンで、1人の従業員が状況を冷静に説明し、感情を表現し、具体的な提案を行い、その結果を説明する様子がリアルに描かれています。この手法を使うことで、職場でのコミュニケーションがより効果的になり、問題解決や関係性の改善が促進されることを示しています。




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