見出し画像

学び方革命ー人的資本経営と自律的キャリア形成ー高橋俊介氏

 BBTの番組・高橋俊介氏による「組織人事ライブ#701 人的資本経営と学び方改革」を視聴しました。その内容から考えること、人事企画にどのように活かすかを考えてみたいと思います。


人的資本経営における学び

 人的資本経営において、人は単なる資産ではなく、むしろ資本として捉えられるべきです。さらに、人は知的資本の投資家としての役割も担っています。従業員は自らの知識や能力に投資することで、企業の成長に貢献し、同時に自身のキャリアも向上させることができます。

 しかし、日本の問題点は、会社が人への投資を十分に行っていないこと、そして自己投資を行う人材を適切に評価・支援していないことにあります。企業は従業員の学びや成長を支援し、その成果を認識・評価する必要があります。一方で、従業員も自発的に学び、自己投資を行うことが求められます。

 人的資本経営における学びは、単に企業が提供する研修に参加するだけではなく、従業員自らが主体的に学ぶ姿勢を持つことが重要です。企業と従業員がともに学びに投資し、成長することで、持続的な企業の発展が可能となります。

日本における学びの問題点

 日本の学びの問題点は、正解主義と自論形成の軽視にあります。長らく、教育現場や職場では、正解を求める傾向が強く、自分の意見を形成し、表現することが軽視されてきました。その結果、第一線で正解のない問題に直面した際に、適切に対応することが難しくなっています。

 また、日本の学びは「タテ型」の指導伝承に偏りすぎています。上位者から下位者への一方的な知識の伝達に重点が置かれ、横のつながりや相互学習が不足しています。このような環境では、改善は進んでも、イノベーションが起こりにくくなります。

 さらに、学びの面白さや意味が軽視され、丸暗記主義に陥っている点も問題です。例えば、「英語を学ぶ」のではなく、「英語で学ぶ」ことに重点を置くべきです。言語は単なる知識ではなく、コミュニケーションのツールであり、実際に使いながら学ぶことが重要です。

 これらの問題点から、若者を含む多くの人々が受動的な学びに甘んじ、ミドル層やシニア層は変化に振り回され、学ぶ意欲が低下してしまっているのです。

変化と専門性の時代に求められる主体性の高い学び

 変化が激しく、専門性が重視される現代社会において、主体性の高い学びが求められています。その学びは、以下の3つの層で構成されます。

 第1に、仕事の主体的拡大と連動した、仕事に直結する学びです。自らの仕事を能動的にデザインし、それに必要な能力を学ぶことで、仕事と学びの好循環が生まれます。これにより、新しい視野や可能性が開けてきます。

 第2に、継続的に長期でコミットする専門性コンピタンシーを深めていく学びです。仕事内容は変化しますが、自身の専門性は一貫して磨き続けることが重要です。変化の時代だからこそ、長期的な視点を持った専門性の追求が求められます。

 第3に、普遍的で基盤的なリベラルアーツ的学びです。物事を本質的に捉える思考力を身につけ、多様な知識を蓄積することで、変化に柔軟に対応できる力を養います。固定観念やバズワードに振り回されることなく、自分自身で考える力が必要とされています。

 これらの3層の学びを通じて、主体性を高め、変化に適応しながら専門性を深めていくことが、現代社会で求められる人材の条件となります。

主体的学びを引き出すポイント

 主体的な学びを引き出すためには、以下の4つのポイントが重要です。

 第1に、顧客との関係性をアップグレードすることです。顧客のニーズを深く理解し、より良いソリューションを提供することで、自身の学びにも深みが生まれます。

 第2に、自分ならではの提供価値や勝負能力を意識することです。自分の強みを認識し、それを伸ばすための学びに取り組むことで、独自の価値を提供できるようになります。

 第3に、未開拓の分野や未開拓のやり方に取り組むことです。従来の枠にとらわれず、新しい領域に挑戦することで、学びの幅が広がり、イノベーションにつながります。

 第4に、自分の関わっている事業のビジネスモデルの賞味期限を意識することです。事業環境の変化を予測し、それに合わせて自身の能力を更新していく必要があります。

 これらのポイントを踏まえ、自己分析と1on1を通じて、仕事の拡大と学びのスパイラルを創出することが重要です。また、社内外の多様な人々との学び合いや刺激し合いを通じて、新たな気づきを得ることも欠かせません。

専門性の3層

 専門性は、以下の3つの層で構成されています。

 第1に、経験的専門性です。仕事の経験を通じて得られる知識や技能がこれに当たります。ただし、経験的専門性だけでは、既存の業務は遂行できても、変革や創造は難しくなります。

 第2に、体系的専門性です。学校などでの専門的教育や自身の勉強を通じて身につける、理論的な専門性です。これにより、応用力が養われますが、理論だけでは実践には不十分です。

 第3に、先端的専門性です。その分野の最新動向や先端事例を常に学び、先駆者との交流を通じて得られる専門性です。変化の激しい現代において、先端的専門性の獲得と維持が重要となります。

 これらの3層の専門性をバランスよく身につけることが、長期的なキャリア形成において不可欠です。特に、経験的専門性に偏りすぎると、成果につながりにくくなります。自律したキャリア形成の柱の一つは、自身の学びのテーマを追求し、社外の体系的学習や社内学会などに積極的に参加することです。

 欧米の階層社会では、自らの努力で階層を上昇するために、学位取得など外部での体系的学習に取り組む傾向が強いことも参考になります。

自論系の学びのポイント

 正解のない問題に対して自分の意見を形成し、アウトプットする「自論系の学び」においては、以下のポイントが重要です。

 第1に、問題意識を持ってインプットに臨むことです。ただ情報を収集するだけでなく、自分なりの問いを持ち、その答えを探す姿勢が求められます。

 第2に、ファクトに対して謙虚であることです。自分の意見を形成する際には、客観的な事実を踏まえ、それを尊重する必要があります。

 第3に、インプットをベースに自論を形成することです。収集した情報を単に並べるのではなく、自分なりの解釈や考えを加えて、オリジナリティのある意見を作り上げます。

 第4に、自論をアウトプットし、横の議論を通じて気づきを得ることです。自分の意見を他者に伝え、フィードバックを受けることで、新たな視点や選択肢の広がりに気づくことができます。

 自論系の学びは、同職種の社内メンバーとの議論から始め、徐々に越境学習や異業種交流へと範囲を広げていくことが効果的です。最終的には、社内外や立場を越えて、多様な人々と学び合うことが理想です。

問題意識の歯車が気づきを生む

 数学者のアダマールは、数学的発見のプロセスを、準備、孵化、解明、検証の4段階に分けました。このプロセスは、自論系の学びにも当てはまります。

 準備段階では、意識的な努力を通じて問題意識を深め、関連する情報を収集します。この段階での意識的な取り組みが、無意識の歯車を回転させる原動力になります。

 孵化段階では、無意識の思考プロセスが働き、異なる分野間の関係性に気づきが生まれます。一見関係のない事実が、意味のあるつながりとして浮かび上がってきます。

 解明段階では、睡眠中や散歩中など、リラックスした状態で突然アイデアが浮かぶことがあります。これは、無意識の思考が結実した瞬間です。

 検証段階では、得られたアイデアを意識的に吟味し、論理的に検証します。この地道な作業を通じて、自論の精度を高めていきます。

 このように、意識と無意識の歯車が連動し、問題意識を深めながら気づきを生み出すことが、自論系の学びにおいて重要なのです。

まとめ

 人的資本経営における学びは、企業と従業員双方の主体的な取り組みが不可欠です。日本の学びの問題点を克服し、変化と専門性の時代に求められる主体性の高い学びを実践するためには、仕事と学びの好循環を生み出し、専門性の3層をバランスよく身につける必要があります。

 自論系の学びにおいては、問題意識を持ってインプットに臨み、自分なりの意見を形成し、アウトプットとディスカッションを通じて気づきを得ることが重要です。意識と無意識の歯車が連動し、問題意識が深まることで、イノベーティブな発想が生まれます。
 
 これからの時代に求められるのは、学び方改革とキャリア自律の好循環です。個人の主体的な学びが組織の人的資本経営を支え、人的資本経営が個人のキャリア自律を後押しする。そのような企業と個人の成長の相乗効果が、持続的な発展の鍵を握るのです。

人事としての具体的展開

 あなたが示した内容は、人的資本経営と個々の従業員の成長に対する深い洞察と具体的な提案を含んでおり、これを基に組織と個人が共に成長するための戦略をさらに拡張し、詳細化することができます。以下に、提案内容をさらに深掘りし、具体的なアクションプランを示します。

人的資本経営の実践

組織全体での学習文化の醸成
 
組織が持続可能な成長を遂げるためには、全従業員が学習と成長を継続する文化が必要不可欠です。これを達成するためには、経営層からの強力なリーダーシップと、学習を促進するための環境整備が欠かせません。具体的には、リーダーが自ら学習のモデルとなり、定期的に学びの成果を共有することで、組織全体に学習の価値を浸透させていきます。また、学習支援のためのリソース(e-Learningプラットフォーム、書籍、専門講師等)を充実させ、従業員が容易にアクセスできるようにすることも重要です。

 加えて、学習への参加と成果を評価・報酬につなげる仕組みを導入することで、従業員の学習へのモチベーションを高めることができます。例えば、学習目標の達成度を人事評価に反映させたり、学習成果の共有や活用を表彰するなど、学習と業務の連動を明確にすることが有効です。

個々のキャリア開発と組織目標の連携
 従業員一人ひとりが自身のキャリアに主体的に関わり、組織の目標達成に貢献するためには、個人のキャリアプランと組織のビジネス戦略を連携させることが重要です。キャリア開発プログラムを通じて、従業員が自己実現を追求しながらも、その成果が組織全体の成長に貢献するような仕組みを構築する必要があります。

 具体的には、キャリアゴール設定のプロセスにおいて、個人の目標と組織の目標がどのようにリンクしているかを明確にし、定期的なレビューを行うことで、双方の目標達成を支援します。また、従業員が自身のキャリアビジョンを描き、それに向けて必要なスキルや経験を明確化できるよう、キャリアカウンセリングの機会を提供することも効果的です。

 さらに、組織内の異なる部門やプロジェクトへの参加機会を提供し、従業員が多様な経験を積むことができる環境を整えることも重要です。これにより、従業員は自身の強みや興味を見出し、キャリアの選択肢を広げることができます。

変化への適応と専門性の強化

変化に強い組織の構築
 
ビジネス環境の変化に柔軟に対応し、持続的な成長を遂げるためには、従業員一人ひとりが変化への適応力を高めることが必須です。このためには、従業員が新しいスキルを学び、既存の知識をアップデートする機会を提供することが重要です。

 具体的には、テクノロジー、デジタルマーケティング、データ分析など、現代のビジネスで求められるスキルを身につけるための研修プログラムを展開します。また、従業員が自ら学びたい分野を選択し、自主的に学習できるフレキシブルな学習環境を整えることも重要です。

 加えて、変化に対応するためには、従業員が自律的に問題を発見し、解決策を考案・実行できる力を育成することが欠かせません。このためには、従業員が自ら考え、行動することを奨励する組織文化の醸成と、そのための支援体制の整備が必要です。例えば、従業員が新しいアイデアを提案し、実験的に取り組むことができる機会を設けたり、失敗を恐れずにチャレンジできる心理的安全性を確保したりすることが有効です。

専門性の深化とキャリアの多様化
 
専門性の深化は、個人のキャリア成長と組織の競争力向上に直結します。従業員が自身の専門分野において高いレベルの知識とスキルを持ち、それを業務に活かすことができれば、組織全体のサービス品質やイノベーションの創出に寄与します。

 専門性を深めるためには、定期的な研修の提供はもちろん、業界の最新動向を学ぶための情報共有の場や、専門家とのネットワーキングの機会を提供することが有効です。また、従業員が異なる部門やプロジェクトに参加し、多様な経験を積むことで、自身の専門性を広げるとともに、キャリアの選択肢を広げることができます。

 さらに、専門性の深化と並行して、従業員が自身のキャリアを多様化させることも重要です。異なる分野の知識やスキルを身につけることで、変化に対応する柔軟性を高め、新たな価値創造の機会を生み出すことができます。このためには、従業員が自身の専門分野以外にも興味を持ち、学習・成長できる機会を提供することが必要です。

学習と成長を促進する環境の整備

学習支援の体系的な提供
 
従業員が主体的に学び、成長するためには、組織として学習を支援する体系的な取り組みが求められます。これには、個々の学習スタイルやニーズに応じた多様な学習方法の提供が含まれます。

 オンライン研修、対面研修、自習用の教材提供、メンタリングプログラムなど、従業員が自分に合った学習方法を選択できるようにすることが重要です。また、学習の成果を業務に活かすための支援も欠かせません。学んだ内容を実践する機会の提供や、学習成果を共有するためのプラットフォームの整備などが考えられます。

 加えて、学習に必要な時間と予算を確保することも重要な要素です。業務の合間に学習時間を確保したり、学習に必要な費用を補助したりするなど、組織としての支援体制を整えることが求められます。

パフォーマンスマネジメントとの連携
 
従業員の学習と成長を評価し、適切なフィードバックを提供することは、モチベーションの向上と目標達成の促進につながります。パフォーマンスマネジメントシステムを活用して、従業員の学習目標の設定、進捗のモニタリング、成果の評価を行うことが重要です。

 具体的には、定期的な1on1ミーティングを通じて、個人の成長に合わせたフィードバックやキャリアアドバイスを提供することで、従業員が自己実現に向けて努力を続けることができます。また、学習の成果を人事評価に反映させることで、従業員の学習へのモチベーションを高めることも可能です。

 さらに、従業員の学習と成長が組織全体のパフォーマンス向上につながるよう、個人の目標と組織の目標を連動させることも重要です。個人の学習成果が組織の成果にどのように貢献したかを可視化し、評価に反映させることで、従業員の学習と組織の成長を同期させることができます。

継続的な改善と更新
 
学習と成長を促進する取り組みは、一度で完成するものではありません。ビジネス環境の変化や、従業員のニーズの変化に合わせて、継続的に改善と更新を行うことが必要です。

 定期的に従業員の声を収集し、学習プログラムや支援体制の効果を検証することが重要です。また、外部の動向や先進事例を参考にしながら、新しい学習手法や技術を取り入れていくことも欠かせません。

 さらに、これらの取り組みを推進するための専任チームを設置し、継続的な改善活動を行うことも検討に値します。人材開発の専門家を中心に、各部門の代表者が参加するチームを組織し、全社的な学習文化の醸成と、個人の成長支援に取り組むことができます。

 以上の戦略とアクションプランを通じて、組織と個人が相互に支え合い、共に成長するための環境を整えることができます。人事としての経験を生かし、これらの取り組みを実行に移すことで、組織の競争力強化と従業員のキャリア成長を実現することが可能です。

 ただし、これらの取り組みを実現するためには、トップマネジメントの理解と支援が不可欠です。人的資本経営の重要性を訴え、必要な投資を確保することが、人事部門の重要な役割といえます。また、取り組みの効果を定量的に測定し、その価値を可視化することも求められます。

 人的資本は組織の最大の資産であり、その成長なくして組織の持続的な発展はありません。従業員一人ひとりの可能性を最大限に引き出し、組織の成長エンジンとなる人材を育成することが、これからの人事部門に期待される役割です。その実現に向けて、本提案を一つの指針として、各組織の状況に合わせた施策を展開していくことが重要であるといえるでしょう。

現代のオフィス環境で従業員が様々な形で学びと自己向上に取り組む様子を描いています。前景では、グループがインタラクティブなワークショップに参加し、もう一つのグループは大型デジタルスクリーンを囲んでアイデアを出し合っています。背景では、個々の従業員がeラーニングに取り組んだり、オフィス内の充実した図書室から本を読んだりしています。場は明るく開放的で、自然光がたっぷりと入り、リフレッシュできる雰囲気の中に植物が散りばめられています。このシーンは、組織内の学習文化の概念を体現しており、グループ活動と個人の取り組みの両方を強調しています。スタイルは柔らかく、招待感があり、継続的な学習と成長への積極的かつ前向きなアプローチを強調しています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?