見出し画像

【書籍】限界を超えてー坂東玉三郎の自己超越の旅

 『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(致知出版社、2020年)のp257「8月8日:苦を忘れるために夢中になる(坂東玉三郎 歌舞伎俳優)」を取り上げたいと思います。

 玉三郎氏は、日本の歌舞伎界において際立った存在感を放つ俳優であり、特に女形としての彼の演技は、その繊細さと力強さで多くの人々を魅了してきました。彼の人生と芸道に対する深い思い入れと、それを支える精神的な強さは、彼の言葉からも強く感じ取れます。

 玉三郎氏は若い頃は体が非常に弱く、常に舞台でのパフォーマンスを最後まで完遂できるかどうかに不安を抱えて生活していました。毎日のように「明日もまた舞台に立つ」という目標を掲げることで、その不安と戦ってきたのです。彼にとって、舞台に立つことはただの仕事ではなく、生きがいであり、自己実現の場でした。そのため、どんな困難があっても、毎日舞台に立つことを心の支えとしてきました。

 また、女形として大柄であるという身体的特徴は、彼にとってさらなる挑戦でした。小さく、繊細に見えるように努めることは、肉体的にも精神的にも大きな負担となりました。しかし、彼はこの負担を乗り越え、その制約を芸術的な表現の一部として取り入れることで、観客に強い印象を与えるパフォーマンスを創り出してきました。

 玉三郎氏の芸道への取り組みは、決して楽な道のりではありませんでした。体のメンテナンスと十分な休息が不可欠であり、舞台が終われば、すぐに家に帰って休む必要がありました。彼の人生は、芸道に対する絶対的な献身から成り立っており、これは若い頃から変わらない生活態度となっています。その一方で、彼は肉体的な限界を意識しながらも、「まだ足らぬ」という思いを持ち続けています。これは、芸術家としての彼の情熱が、肉体的な限界を超えても尽きることがないことを示しています。

 人生を「修行」と捉える玉三郎氏は、苦楽が入り混じる人生の中で、苦を忘れるために夢中になることの大切さを語っています。彼の場合、夢中になることは舞台に立ち、演技をすることです。この過程で、彼は自分自身の限界を超え、苦しみを乗り越え、人生と芸道の中で成長し続けてきました。彼の言葉からは、苦しみと向き合い、それを乗り越えることの重要性が伝わってきます。これは、彼がどれだけ強い意志を持って人生と芸道に向き合ってきたかを示すものであり、多くの人々にとって大きな鼓舞となるでしょう。

人生って修行なんです。それぞれが天からいろいろな課題が与えられていますが、それは全然楽なものではない。よく「苦楽」といいますが、そんなちょうどよく五十%ずつではないです。たぶん分量としては「苦楽苦」。楽があるとすれば一割か二割です。ただ、幸いなことに苦も楽も定着するものではありません。一瞬一瞬刻々と変わっていきます。苦しみの中にフッと楽しみがあったり、楽しみの中に苦しみがあったり。私は苦を感じたくないの。だから一所懸命になる。一所懸命になっている時って苦を忘れるんですよね。苦を忘れるために夢中になる。そうなれば夢の中ということです。

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(致知出版社、2020年)p257より引用

 玉三郎氏の人生と芸道への姿勢は、単なる歌舞伎俳優としての彼の成功を超えて、人間としての彼の深い内省と、人生の苦難に立ち向かう強さを示しています。彼の言葉からは、人生の困難に直面しながらも、情熱と意志の力でそれを乗り越え、自己実現を遂げることの可能性が伝わってきます。これは、すべての人にとって大きな学びとなるでしょう。

人事の視点から考えること

 玉三郎氏の言葉と経験は、人事領域だけでなく、様々な業界や役職にある人々にとっても深い示唆を与えます。彼の人生哲学は、職場での人材管理、モチベーションの維持、個人のキャリア開発、そして組織文化の構築において、重要な考察材料を提供します。

モチベーションとエンゲージメント

 玉三郎氏が仕事に対して持つ情熱は、職場でのモチベーション維持において重要なヒントを私たちに与えます。従業員が自分の仕事に夢中になれるような環境を作ることが、人事管理の重要な課題の一つです。職場で従業員が情熱を持てるようにするためには、彼らの興味や強みを理解し、それらを仕事に活かせる機会を提供することが不可欠です。これは、彼らが自分自身の限界を超えて成長し、困難に直面したときにも前向きな態度を維持するのを助けることになります。

健康とウェルビーイングの管理

 玉三郎氏の体を大切にする姿勢は、従業員の健康とウェルビーイングを管理する上での教訓です。現代の職場では、長時間労働やストレスが常態化している場合が多く、これが従業員の肉体的、精神的健康を害することがあります。人事管理者は、労働者が適切な休息を取り、健康を維持できるような環境を提供することに注力すべきです。これには、柔軟な勤務体系の導入、健康を促進する職場環境の整備、メンタルヘルスのサポートなどが考えられるでしょう。

キャリア開発と後継計画

 玉三郎氏が自身の限界を認識し、将来に備える姿勢からは、キャリア開発と後継計画の重要性が浮かび上がります。従業員に対して、彼ら自身のキャリアパスを考え、自己実現に向けた準備をするための支援を提供することが、人事管理の役割の一つです。これには、個々の従業員のスキルと興味を考慮に入れたトレーニングプログラムの提供や、キャリアカウンセリング、メンタリングの機会の提供が含まれます。

組織文化の構築

 玉三郎氏の人生と芸道への取り組み方は、組織文化の構築においても重要な示唆を与えます。困難に直面しても前向きな姿勢を保ち、継続的な学習と自己改善を求める文化は、組織が持続的に成長し続けるために不可欠です。人事管理者は、このような文化を促進するために、組織内でのコミュニケーションを活性化させ、従業員の成果を認識し、適切なフィードバックを提供する体制を整える必要があります。

 玉三郎氏の経験は、単に芸術の世界におけるものではなく、あらゆる業界において人々が直面する挑戦とそれに対する取り組み方に関して、豊かな教訓を提供します。人事管理の観点からこれらの教訓を取り入れ、実践することで、組織と従業員双方の成長と成功を促進することができるでしょう。


歌舞伎の世界を繊細かつ力強いタッチで捉えています。女形の役を演じる俳優の存在感が、その脆さと強さを通じて表現されており、彼の芸術への深い献身と、演技を続けるために必要な肉体的および精神的な規律が際立っています。俳優の大柄な体格と、衣装や化粧の繊細なディテールとの微妙な対比は、芸術性を通じて物理的な挑戦を克服していることを示唆しています。背景には、歌舞伎劇場の時代を超えた美しさを感じさせる装飾や古典的な建築など、伝統的な日本のセッティングがほのめかされており、穏やかな夕暮れの空がシーンに深みと内省の雰囲気を加えています。


1日1話、読めば思わず目頭が熱くなる感動ストーリーが、365篇収録されています。仕事にはもちろんですが、人生にもいろいろな気づきを与えてくれます。素晴らしい書籍です。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?