初夏のある朝
いきなりの着信音に、思わず目覚めた。
見ると彼女の名。
どうも電話というのは気にくわない。
すなわち、「時間泥棒」のような気がしないでもないのだ。
着信音は、時を選ばず鳴り響くからだ。
だからどうしても、第一声は不機嫌になる。
「ねえ、その出だしの声って良くないよ。」
彼女はよく言うが、余計なお世話だ。
そういう事情があるからどうしようもない。
「ねえねえ、今日時間ある?」
「う~ん・・。」
時間はあるのだが、わざと勿体をつける。
こいつは、考えれば悪い癖だ。いわゆるやせ我慢だが、
以前、この癖のおかげでこっぴどい目に遭ったことがある。
さから、極力気をつけてはいるが、なかなか直らない。
バカだなぁと思うが、やっぱダメなのだ。
「実は、目の前にいるのだな。出てきなさいよ。」
「え?」
思わず窓の外を見る。
・・・いない・・
どこから電話してるんだ?
すっかり彼女のペースに乗せられている。
まぁ、とにかく、身支度して玄関のドアを開けた。
「ばぁ!」
「わ!」
「あはは。不用心なヤツ~。」
いつもこんなだ。すっかり彼女にしてやられてるのだ。
彼女は公園を歩きたいという。
理由を尋ねても、ふふんと鼻で笑う。
「なんとなく一緒にいたかったんだよ。」
実に曖昧だ。
「わぁ、お花きれいだよ。」
彼女はしゃがみ込んだ。
フレアースカートから、無造作にのぞく太ももに目のやり場に困る。
「あれ?」
いたずらっぽく彼女はのぞき込む。
これは罠か?
「ふふ~ん。」
ちょっとはにかんだ風を見せたあと。
「大丈夫です、ちゃんと履いてます!」
おまえは芸人か!
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