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能力を持った者には、それを正しく行使する責務がある
これは、白い巨塔のラストで、末期がんとなった財前が、ライバルの里見に送る遺言の一幕の言葉である。同じような言葉で、スパイダーマンでは、「大いなる力には、大いなる責任が伴う(With great power comes great responsibility.)」というものがある。実にそうである。
欧州では、これをノブレス・オブリージュ(noblesse oblige)と呼ばれ、貴族や上流階級などの財産・権力・地位を持つ者は、それ相応の社会的責任や義務を負うという欧米社会に浸透した道徳観のことを指す。英語では「noble obligation(ノーブル・オブリゲーション)」という。
さらに古くは、日本古来から存在する武士道や精神性に通ずるものがある。
残念ながら、現代では、力を持つものであっても、それを家族や仲間また社会のために奉仕しない姿勢の者を数多く見る。決して否定はしない。
しかしながら、今、40歳を超え、子を持ち、その未来を憂いて終えるより、私たちはこの子の将来のために、ひいては私たちを育んでくれた日本のために、何が残せるのだろうかと、そう考えることが増えてきた。未だ何も成しているわけではないが、可能な限りそのような姿勢で日々過ごしたいと思うところである。家族に対して、コミュニティに対して、仕事仲間や従業員のみなさんに対して、そして、これから出会うであろう次世代を担う若者に対して。
願わくば、いづれ茶室でお茶をたてながら、人の悩みにそっと手を差し伸べられるような人になりたいと思う。
そういう意味で、久しぶりに目にしたこの一幕の言葉を、また多くの人に目を通して頂きたいと思い、掲載させて頂きたい。心に何か触れるものを感じて頂ければありがたい。
里見へ
この手紙をもって、僕の医師としての最後の仕事とする。
まず、僕の病態を解明するために、大河内教授に病理解剖をお願いしたい。
以下に、癌治療についての愚見を述べる。
癌の根治を考える際、第一選択はあくまで手術であるという考えは今も変わらない。 しかしながら、現実には僕自身の場合がそうであるように、発見した時点で転移や播種をきたした進行症例がしばしば見受けられる。 その場合には、抗癌剤を含む全身治療が必要となるが、残念ながら、未だ満足のいく成果には至っていない。
これからの癌治療の飛躍は、手術以外の治療法の発展にかかっている。
僕は、君がその一翼を担える数少ない医師であると信じている。
能力を持った者には、それを正しく行使する責務がある。
君には癌治療の発展に挑んでもらいたい。
遠くない未来に、癌による死が、この世からなくなることを信じている。
ひいては、僕の屍を病理解剖の後、君の研究材料の一石として役立てて欲しい。 屍は生ける師なり。
なお、自ら癌治療の第一線にある者が早期発見できず、手術不能の癌で死すことを、心より恥じる。
財前五郎
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