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偶然の再会

確か19歳の夏、アルバイトをしたお金で新しいレコードプレーヤーを買った。新しいといっても安い中古のもので、どこかの古道具屋で見つけたものだったと思う。

他にも欲しい機材を買うために、巨大な駅の地下駐車場にあるレンタカー会社で、しばらく毎日朝から晩まで働いた。最寄りの駅から壮絶な朝の通勤電車に押し込まれ、半分宙に浮きながら通うのは大変だったが、子供の頃から車が好きだったので自動車電話(当時の最先端)付きの高級セダンや、小型トラックやマイクロバスまで、何でも運転することが出来たのが楽しかった。もちろんスマートフォンやナビなどなかったので、自分で買った地図を頼りにいろいろな場所に車を運んだり、引き上げに行ったりした。

時折顔を出す部長さんに「音楽なんて無理だぞ、うちの社員にならないか?」と何度か呼び出されて説得されたが、断った。

バイト代で手に入れたそのプレーヤーで、大切なレア盤から3枚1000円の中古盤屋のコーナーで買ったレコードまで、とにかくひたすら聴きまくった。聴き疲れると文庫本を片手に公園に行った。お金はなかったけれど、それと引き換えにした時間はたっぷりあった。

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