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『ネオンサインと朝日』 第2話


どうも、Apple MusicでゆずとMISIAと宇多田ヒカルと安室奈美恵とミスチルと平井堅が聴けるとことを知り、最近、Apple Musicのポテンシャルの高さに驚愕している上神です。Apple Music、神です。


今週は小説をアップします。『ネオンサインと朝日』 第2話です。


▼前回のエピソードはコチラ


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『ネオンサインと朝日』 第2話


外が眩しい。目が覚めるとお店の中にいた。
どうやらお店のソファで寝てしまっていたらしい。
何時だろうか、スマホを見ると11時を過ぎていた。
完全に遅刻していた。2限目の授業は10時半からスタートなのに。
またお店で寝てしまったことに対する罪悪感、不快感もあったが、それ以上に昨日の記憶が全くない。
とりあえず大学に向かわなければならない。急げ急げ急げ……。

昨日の記憶は自転車を漕ぎながら思い出すことにしよう。思い出せる自信は全くないが。
外に出ると、目がやられるほど朝日が眩しかった。
でも、一つ覚えていることがある。

それは数時間前に、お店で自分の誕生日を迎えたことだ。
果たして誕生日は盛り上がったのだろうか。全然覚えていない。お酒を飲んだ記憶はないが、お酒臭いから結構飲んだのだろう。

「イタッ……」
後頭部が痛い。何かぶつけたのか。
なぜ痛いのか全く分からないが二日酔いとは違う頭痛だということは分かる。

とりあえず同僚に連絡をしてみよう。授業が全て終わる頃に。
今電話しても電話は取らないだろうという推測から、夕方ぐらいに電話をすることに決めた。リマインダーをしておこう。
それより一刻も早く、昨日のことを思い出したい。
朝起きたらお店の中にいたのだから、とりあえず知らない女性との”接触事故”はないことは分かる。接触事故って何だ。

大学に着いた。
急いで自転車を降り、授業が行われている教室へ。
そっと教室の扉を開けると、友達が目の前の机に。
「出欠取った?」とボソッと聞くと、「まだ、大丈夫」とボソッと。
よし、ギリギリセーフ。

最後方の席に座る時、教室の最前線にいる教授とふと目が合ったような気がしたが、「え?ずっと前からいましたけど?ちょっとトイレに行ってましたけど?」っていう自然体な雰囲気を醸し出しながら、席に着く。
しかし、席に着くと、安心したのが原因か、二日酔いだからか、睡魔が確実に襲ってくることが分かった。
睡魔とお酒を抜くために、トイレに駆け込む”朝帰り”の僕。
教授は「アイツ、前からいたか……?」という疑いの目で見てくるが、気のせいだろう、と知らないふりをする。

トイレでお酒を抜いている時、昨日の出来事を思い出すためのアイデアがふと思い浮かぶ。
そうだ、そうだ、昨日のLINEを確認してみよう。
後輩やお客さんとのやりとりを確認するが、別にこれといった事実はない。
次に、お店のオーナーとのLINEを確認した時、僕は携帯画面を見て、頭が真っ白になった。その斜め上すぎる返信を見たからだ。

誕生日前日のオーナーとのLINEのやりとりはこうだった。
オーナー「明日も(お店に)入る予定になっているけど、学校大丈夫なんか?」
僕「明日は僕の誕生日で予約もあるので、入ります」
オーナー「ちゃんと営業したんか?」

そのLINEがきっかけで僕はお店を辞めることを決意したことを今改めて思い出した。
別に僕は誕生日に営業するのがイヤとか、自分勝手にわがままで仕事を放棄したいワケじゃない。
僕はただただ”身近な人”に、誕生日を祝ってもらいたかった。

子供の頃、僕は母親に『いつも通りで定番の、でもちょっと味付けされた、誕生日プレゼント』を毎年もらっていた。
ある時は黒の靴下、ある時は白のシャツ、ある時は黒のパンツ。今思えば、服ばっかり。
でも、そのモノとしてのプレゼント以上に、誕生日の時のおもてなしが何よりのプレゼントだった。

わざわざケーキを買ってきてくれたり、夕食を手巻き寿司にアレンジしてくれたり、何よりも「おめでとう」という何気ないありふれた言葉、それが一番のプレゼントだった。
プレゼント自体は高価なモノではないし、特別なモノではないけど、でもどのプレゼントよりもスペシャルな贈り物だった。
そこで気付いたのが、「何をもらうかが大事なのではなく、誰からもらうのかが重要」だと。
もっと言えば、プレゼント自体の質はどうでもいい。報酬(バック)も欲しいけど、別になくてもいい。いただけるのであれば、もちろん貰うけども。
「そっか!明日誕生日か!おめでとう!」
ただ、それだけ。その一言が欲しかった。

まさか「おめでとう」を遥か上に飛び越えて、「ちゃんと営業したんか?」というキレた感じの”業務連絡”が来るとは……。僕は3年間オーナーの元でバーテンダーとして働いていたが、オーナーにとって僕は身近な人間ではなかったのだろう。だからこのお店を辞めよう、そう決断した。

いや、もしくは、オーナーは僕のことを『丁寧な接客ができるAI』か何かと勘違いしているのだろうか。
そうか、そうか。それなら納得だ。AIに誕生日おめでとう、って言っても反応しないもんな。
iPhoneのSiriに「誕生日おめでとう」と言ってもAIだから反応しないもんな、やってみようか。トイレで一人、スマホにボソッと呟く僕。
僕「誕生日おめでとう」
Siri「ワタシノタンジョウビハキョウデハアリマセン。デモウレシイデス」
僕「……」
どうやら僕はSiri以下らしい。AIって漢字で書くと”愛”だもんな。そりゃ勝てないわ。人間って、AIって何なんだろうか。
そしてどうやら僕は二日酔いで頭がおかしいようだ。なぜか後頭部も痛いが。

「あれ…?」
僕は携帯を見ながら、ここで重大なミスに気付いた。


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ここで、第2話の終了です。

来週(6/24)は脚本の11話をアップします。乞うご期待〜!


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