PNGイメージ

『3.0 / 5』 第8話

どうも、最近自分の髪型の分け目の正解が分からず髪のセットがめんどくさすぎていっそ坊主にしてやろうかと謎に発狂している上神です。

オリジナル脚本『3.0 / 5』の第8話です。


▼前回(第7話)までのあらすじ

就職活動中の大学生・黒羽透は、同級生の美咲奈々が気になる存在。しかし、思うように自分の気持ちも伝えられず、就職活動も上手く行っていない状況。
ある日、ひょんなことから奈々の家に訪れることになった透だったが……。


▼第1話から読みたい方はコチラ


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『3.0 / 5』 第8話


※第7話の内容が一部、含まれます。

◯美咲家・玄関〜リビング

玄関の前に着く、透。
透、一呼吸置き、そっと呼び鈴を鳴らす。
ピンポーン、と呼び鈴が鳴る。
奈々の声「はーい」
玄関のドアが開くと、エプロン姿の奈々。
奈々「あ、いらっしゃい」
透「(照れながら)こ、こんばんは」
奈々「どうぞ、中へ」
透「お邪魔します」
靴を綺麗に脱ぎ、美咲家に入る、透。
透、散らかった洗濯物、洗い物をチラッと見る。
奈々「ごめんね、ちょっと散らかってて」
透「ううん」
奈々「あ、そうだ、黒羽くんって何か食べれない物ある?」
透「いや、特にないけど……」
リビングに入る奈々、透。
奈々「そこのソファでゆっくりしててね」
透「うん、ありがとう」
透、横の部屋のベッドで寝ている奈々の母、美咲奈緒(52)が目に入る。
奈々、冷蔵庫を開ける。
奈々「あ!やばっ!」
と、突然、大きな声を出すと、ビクッとする、透。
透「どうしたの?」
奈々「いや、醤油がなくて……」
透「(ホッとして)あ、なんだ、醤油ね」
奈々「ちょっと買ってくるね」
透「えっ?いや、いいよ」
奈々「いや、醤油がないと作れないの」
透「そ、そう……」
奈々「じゃあ買ってくるから、他に必要なものある?」
透「いや、ないけど……。ってか僕も一緒に行くよ」
と、立ち上がると、
奈々「大丈夫、すぐ近くだし。ゆっくりしてて」
透「(残念そうに)……うん」
奈々、玄関のドアを開け、
奈々「じゃあ、いってきます」
透「いってらっしゃい」
と、ソファに座る、透。
透、横の部屋のベッドで寝ている奈緒を、チラッと横目に見る。
奈緒「ん……、誰?」
透「!」

ぼんやりと目を開けた奈緒と目が合い、ビクッとして思わず立ち上がる透。
透「あ、すみません、お邪魔してます。美咲さんの同級生の黒羽です」
奈緒「(思い出したように)あ〜、黒羽くんね。いつも奈々から聞いているわ。奈々と仲良くしてくれてありがとね」
透「いえいえ、こちらこそ」
と、お辞儀をする透。
奈緒「そういえば、奈々は……」
透「買い物に行きました、すぐ帰ってくるそうです」
奈緒「そう、ごめんなさいね、寝てしまってて」
と、ゆっくりと起き上がろうとすると、
透「いえいえ、お気遣いなく、何か言ってくだされば僕が動きますよ」
と、起き上がるのを制止する透。
奈緒「そう?じゃあ甘えちゃおうかしら。冷蔵庫から水を取ってきてくれる?」
透「はい」
奈緒「あと、黒羽くん、勝手にジュースでもコーヒーでも飲んでいいから、ゆっくりしてね」
透「はい、ありがとうございます」
透、冷蔵庫から水を取り、奈緒に渡すと、
奈緒「ありがとう。あれ?黒羽くんの飲み物は?」
透「あ、冷蔵庫にこれしかなくて……」
奈緒「え、そうなの?本当にごめんね」
透「いえいえ、大丈夫です」
奈緒「そうだ、奈々に買ってきてもらおうかしら」
透「いや、それなら僕が買いに行きますよ」
奈緒「それは悪いわよ」
透「いえいえ、本当に大丈夫ですよ」
奈緒「まぁでも、奈々にメールした方が早いし、奈々にメールするわ、何が飲みたい?」
透「……すみません。じゃあブラックのコーヒーで」
奈緒「うん、分かった」
奈緒、奈々にメールする。
透「ホント、すみません、わざわざ……」
奈緒「何言ってんのよ。そんなに気を遣わなくていいのよ」
透「はぁ」
奈緒「……噂通りのイイ人ね、黒羽くんって」
透「えっ?」
奈緒「奈々がよく言ってるの。黒羽くんは真面目で誠実ですごいイイ人って。でも……」
透「……?」
奈緒「でも、何でもっと自信持たないんだろうって。何でもっと本心を出さないんだろうって」
透「……」
奈緒と奈々が笑顔で写っている写真立てが部屋に飾られている。
写真立てに目を向ける、奈緒。
奈緒「あの子はさ、父親いないし、母親もこんな感じで頼りないし、ひとりで色々と背負うことになっちゃってさ。本当は誰かに甘えたいのよね」
透「(写真立てを見つめながら)……」
奈緒「あの子、実は小さい頃からアイドルが好きなの」
透「え?意外!」
奈緒「でしょ?将来の夢はアイドルって小学校の卒業文集にも書いてたの。でも色々とあってね……」
透「(察するように)……」
奈緒「今は安定した公務員になりたいって言ってるけど、本当はどうなのかな。私には絶対に言ってくれないし」
透「……そうなんですか」
奈緒「黒羽くんさえ良ければ、奈々の話し相手にでもなってくれない?」
透「はい、もちろん……」
奈緒「本当は私がもっとね……」

ガチャ、と玄関の扉を開ける、奈々。
奈々「ただいま〜、ごめんね、待たせたね」
透「いいよ、全然」
奈々、部屋に入ると、奈緒と目が合う。
奈々「あ、お母さん、起きてたんだ」
奈緒「(呆れたように)あんたさ、ちゃんとメール見た?」
奈々「メール?いや、スマホの充電ないから見てないけど」
透・奈緒「(お互いに目が合って)……」
フフッと笑い合う、透と奈緒。
奈々「え?何よ、二人共」
透「いや、何でもないよ。(奈緒の方を見て)あ、僕が買いに行きますよ」
奈緒「ごめんね、本当に……。あ、ちょっと待って」
奈緒、財布から千円札を取り出す。
奈緒「黒羽くん、これで奈々の分も買ってきてくれない?」
透「分かりました。(千円札を受け取りながら)ありがとうございます」
奈々「ん?私の分ってどういうこと?」
奈緒「説明するの面倒だから黒羽くんに聞いて。奈々、あんたもついて行って、道を教えてあげて」
奈々「は……?」

◯コンビニ〜道路

コンビニから出て、道路を歩く、透と奈々。
奈々「ハハハ、何だ、そういうことね」
透「そう、結局自分で買いに行くことになったって話」
奈々「ホントごめんね、充電切れてて……」
透「いいよ、全然。むしろ、ありがとうございますって感じだし」
奈々「え?何で感謝?」
透「(焦って)いや、何でもない……」
奈々「……?」
透「(話題を変えようと)あ、こんな所に公園あるんだ」
奈々「うん、私よく来るよ」
透「へぇ〜、いいな」
奈々「ちょっと公園でゆっくりする?さっき買ったアイスも食べたいし」
透「うん、そうだね」

◯公園

公園のベンチに座ってアイスを食べる、透と奈々。
奈々「そういえばさ、お母さんと何話してたの?」
透「え、何って……?」
奈々「いや、仲良さそうにしてたから」
透「ん、別にコレといったことは……」

◯(回想)美咲家・玄関〜リビング

奈緒と奈々が笑顔で写っている写真立てが部屋に飾られている。
写真立てに目を向ける、奈緒。
奈緒「あの子はさ、父親いないし、母親もこんな感じで頼りないし、ひとりで色々と背負うことになっちゃってさ。本当は誰かに甘えたいのよね」
透「……」
奈緒「黒羽くんさえ良ければ、奈々の話し相手にでもなってくれない?」
透「はい、もちろん……」

(回想終わり)

◯公園

公園のベンチに座ってアイスを食べる、透と奈々。
奈々「でもさ、久しぶりにお母さんのあんな笑顔見たかもしれない……」
透「(何かを察して)……何かあったの?」
奈々「……ちょっと暗くなってもいい?」
透「いいよ」
奈々「実はお母さん、病気でもう長くなくて……」
透「……病気?」
奈々「うん、ステージ4の胃ガンなの」
透「!」
透の持っていたアイスがポトリ、と落ちる。
奈々「ウチ、全然お金もなくてさ。お父さんが何百万と借金作って離婚しちゃってね。それで抗がん剤治療も出来なくて……」
透「そう……」
奈々「私がお金のために夜の仕事やるって言ったら、お母さんが猛反対してさ、奈々はちゃんと自分のやりたいことをやりなさいって。自分を大事にしなさいって」
透「……」
奈々「どっちがよ、って思った。自分を大事にしてないの、お母さんじゃんってね」
透「……」
奈々「やりたいことなんかどうでもいいのにさ、私は……」
透「……」
奈々「私はお母さんさえいてくれればいいのに……」
透「……」
涙をこらえ、下を向く透。
涙をこらえ、上を向く奈々。
奈々「何で神様ってさ、真面目に生きてる人にまでこんな悪魔のような試練を与えるのかな……」
透「……」
透、落ちたアイスをぼんやりと見つめる。
奈々「ごめんね、私の話ばっかり」
透「(首を横に振り)全然」
奈々「帰ろっか」
透「うん……」
公園を出ようとする透と奈々。
透「でもさ……、何か上手く言えないけど、今日初めて美咲さんの人間っぽい所が見れた気がする」
奈々「(フフっと笑い)何それ、まるで私が人間じゃないみたいに言うじゃん」
透「(焦ったように)いや、そういう訳じゃ……」
奈々「いいよ、どうせ私はサイボーグですよ」
透「ごめん、そういうつもりじゃ……」
奈々「(遮って)うそうそ、ちゃんと分かってるから。黒羽くんに色々と話したら、何かスッキリしたし。ありがとね」
透「(照れ臭そうに)……うん」
奈々「ホント、黒羽くんっていい人よね……」
透「別に、そんなことないけど……。あ、そういえば、美咲さんって先生になりたいって言ってた前はアイドルだったの?」
奈々「え、何でそれを?」
透「ハハハ、やっぱりそうなんだ」
奈々「ちょっと何で知ってるのよ、もしかしてお母さんに聞いたとか?」
透「(ニヤニヤして)さぁ?」
奈々「ちょっと教えてよ、どこまで聞いたのよ、ちょっと!」


<第8話、終了>

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

※第9話は5月27日(月)に公開予定です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?