見出し画像

小説の中の地球科学#3 『バクテリア・ハザード』

 少し地球科学から離れますが、広い意味では地球に関する科学の話です。現在、世界中でコ〇ナウイルスが猛威を振るっていますが、この小説はバクテリアの話です。ウイルスは生物と非生物の中間にいる曖昧な存在ですが、バクテリアはれっきとした生物の1グループです。生物を大きく二つに分けると、原核生物真核生物に分けられます。私たち哺乳類は真核生物のグループですが、細菌(バクテリア)と古細菌(アーキア)というのが原核生物に含まれます。

 この本の中には、石油を生成するという細菌『ペトロバグ』が登場します。この本は、出版当初は『ペトロバグ』という題名でしたが、文庫化の際に『バクテリア・ハザード』と改題されたようです。このスペシャルな細菌は、作中の天才科学者・山之内明が発明したのですが、世界の石油市場を根本から覆し、戦争にまで発展しかねない脅威を感じた石油メジャーは、彼の殺害とペトロバグ略奪の指令を発します・・・。という、サスペンス物の内容になっています。ペトロバグは、莫大な富を生むバクテリアですが、実は大きな秘密が隠されています。ネタバレになるので、気になる人は本を読んで確かめてください。

 石油そのものを生成するバクテリアはまだ見つかっていませんが、最近ではミドリムシを使って石油に近い油を生成する技術が実用化の一歩手前です。また、メタンガスを生成する菌なら、昔から知られています。ただし、こちらの菌は正確には古細菌(アーキア)なので、細菌(バクテリア)ではありません。メタン生成菌は酸素を嫌う嫌気性の菌で、水田・沼・地下・牛の胃などの酸素のない環境に住んでいます。実は、私たちのお腹の中にも住んでいるので、オナラの成分にはメタンが含まれています。オナラに火が点くのも、お腹の中でメタン生成菌がメタンを作っているからなのです。

 メタン生成菌の起源は古く、35億年前の地層の石英中から、生物由来と思われるメタンが発見されています。メタン生成菌は、古細菌の仲間だけあって、かなり昔から地球にいたようです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?