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ハイテク遺跡探査

 考古学と聞くと発掘作業を思い浮かべる人が多いと思いますが、最近では科学的手法が取り入れられ、発掘された遺物の成分分析や年代測定などに最先端の機器が利用されています。このようなハイテク機器の利用によって、これまで発掘だけでは分からなかった考古学的な多くの知見が得られるようになりました。文系と理系の研究が融合したこの学際分野は、文化財科学と呼ばれています。

 文化財科学の中には、化学分析や年代測定の他に、地球物理学的手法を用いて遺跡を壊さずに調べる方法があります。掘らずに探すこの方法は物理探査と呼ばれ、これまで主に地下資源の探査に利用されてきましたが、最近では遺跡を調べる目的にも利用されています。物理探査には種々の方法がありますが、遺跡探査には、地下に電気を流して調べる電気探査、電磁波のエコーを利用する地中レーダ探査、鉄製品などの検出能力に優れた磁気探査などがよく使われています。

 外科手術の前に患部の詳しい検査が必要なように、遺跡発掘にも事前の調査が必要です。掘る前に遺跡の概要が分かれば効率的な発掘調査ができますし、発掘できない貴重な遺跡でも、遺跡の地下にある遺物の有無や遺構の規模を調べることができます。もちろん考古学の研究には発掘は欠かせませんが、見方を変えれば発掘は遺跡の破壊にもつながります。現在では、遺跡はできるだけ掘らずに保存する方向にあるといいます。

 遺跡探査に携わったおかげで、佐賀県の吉野ケ里遺跡や長崎県の原の辻遺跡などの有名な遺跡を探査する機会にも恵まれました。20年前になるが、継体天皇の陵との説が有力な大阪府高槻市の今城塚古墳を探査したこともあります。その翌月には福岡県八女市にある岩戸山古墳を探査しました。この前方後円墳は、継体天皇と争って滅ぼされた筑紫君磐井の墳墓とされています。偶然ですが、同時代のライバル同士の前方後円墳を続けて探査することになったわけです。岩戸山古墳では電気探査を実施して、後円部に存在する横穴式石室の3次元形状を可視化することができました。

 最先端の機器を駆使した遺跡探査にも技術的な課題はあります。地下に遺物があれば、どこにあるのかまでは分かりますが、それが何であるかまでは分からないのです。また、遺跡探査に取り組む国内の研究者が極端に少ないのは将来的な課題です。古代の人々の生活や文化に触れることができ、考古学的な新発見の可能性もある遺跡探査は魅力的な研究分野です。文系や理系に関係なく、多くの研究者に遺跡探査の分野に参入してほしいと願っています。
(平成27年1月16日の西日本新聞の記事を改変)

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