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方言と標準語 方言で”人垣を割る”

 高校までは大分で育ったので、大学に入るまでは”緩やかな”大分弁でした。大分弁のアクセントはフラット型なので、アクセントは比較的標準語に近い(と勝手に)思っています。ただし、アクセントの位置が明らかに違う単語もあります。鰻は標準語アクセントでは”なぎ”ですが、大分弁では”うぎ”です。私は大学生になるまで、自分が使っている鰻のアクセントが正しいと思っていました。

 九州の方言は、大きく分けると3つのグループに分けられます。一つは北九州市から大分・宮崎までの東九州エリアです。もう一つのグループは、福岡市から佐賀・長崎・熊本などの西九州エリアです。最後のグループが鹿児島県の南九州エリアです。私は帰省時には博多駅から最寄り駅の宇佐駅まで電車に乗っていましたが、小倉駅を過ぎて日豊本線に入ると、乗客の方言が急に変わったことを何度も経験しました。西九州と東九州でもかなり言葉が違いますが、南九州の鹿児島弁は独特です。鹿児島弁はアクセントの位置が標準語と大きく違うので、鹿児島県人が標準語を喋っているつもりでも、標準語には聞こえません。

 方言に関する話を2つ紹介します。

 博多弁の語尾「・・・げな」は、”・・・なんだって”と推量を意味する言い回しですが、言い方によっては”人を小馬鹿にする”表現でもあります。福岡の高校生が修学旅行に行った時、ある観光名所で「・・・づら」といっている修学旅行生を見かけました。福岡の学生はすかさず、「づら、げな」と揶揄やゆします。それを聞いたもう一方の高校生は、「げな、づら」と反撃しました。

 もう一つの話は鹿児島出身の後輩から聞いた話です。その後輩の妹がバスガイドをして、東京に行った時の実話だそうです。ある場所でバスを降りた鹿児島の高校生の一人が、遠くに見える東京タワーを見つけました。その高校生が同級生に「東京タワーだ」と言うと、周りの高校生たちが一斉に「けよ、けよ」と言い始めました。これは”退け!”という意味ではなく、”何処どこだ?”という意味です。標準語のアクセントなら「どよ、どよ」ですが、これを聞いた東京の人たちは、高校生たちに気圧けおされて、道を空け、人垣が割れました。この光景は、まるでモーゼの十戒に出てくる”海を割るシーン”のようだったと聞きました。 

 ちなみに”海を割るシーン”は、旧約聖書の『出エジプト記』に書かれています。モーゼは、奴隷のように扱われていたユダヤ人たちを率いてエジプトから脱出します。その逃避行の途中で、下図のように海が割れます。

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