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メタンハイドレート開発の近況

 石油天然ガス石炭は古くから利用されていたので、在来型炭化水素資源と呼ばれています。少し前に大注目されたシェールガスやシェールオイルなどは非在来型炭化水素資源に分類されます。しかし、まだ資源として利用されていない炭化水素資源があります。それが、今回紹介するメタンハイドレートです。本来は、利用されていないものは資源とは言いませんが、”まだ利用していないが将来利用される可能性があるもの”を未利用資源と呼んでいます。

 メタンハイドレートは、天然ガスの主成分であるメタン分子が分子と結びつくことでできた水和物(ハイドレート)で、タイトル図のような氷状の物質です。火を近づけると、メタンハイドレート内から出るメタンガスが燃えるため、”燃える氷”とも呼ばれています。メタンハイドレート1立方メートルから取り出すことのできるメタンガスは、約160立方メートルですから、小さな体積のメタンハイドレートから多くのガスを採集することが可能です。また、メタンハイドレートを燃やした場合に排出されるCO2は、石炭や石油を燃やすよりも約30%ほど少ないことも特徴のひとつです。こうした特徴から、メタンハイドレートは石油・石炭に代わる次世代エネルギー資源として期待されています。

 メタンハイドレートは、陸上ではシベリアの永久凍土の中などから見つかります。また、海では水深500 mよりも深い海底やその下の地層の中でも見つかっています。これは、メタンハイドレートの存在条件が、温度が低く圧力が高い環境であるためです。少し専門的になりますが、弾性波探査の海底疑似反射面(BSR)がメタンハイドレートの下限深度と考えられています。このメタンハイドレートは、実は日本の周辺海域にも大量に存在していることが分かってきました。

 資源エネルギー庁がおこなった調査では、太平洋側には海底下の地層の中に砂と混じりあった砂層型(すなそうがた)と呼ばれるメタンハイドレートが、日本海側には海底の表面や真下にある表層型と呼ばれる塊状態のメタンハイドレートが存在していることが分かっています。エネルギー自給率が10%以下で、エネルギー資源のほとんどを輸入に頼っている日本にとって、自国の領海内にある資源は貴重な存在です。

 メタンハイドレートは固体であるため、液体の石油のように井戸を掘れば噴き出すわけではありません。メタンハイドレートを取り出すためには、これまでにない新しい技術が必要となります。またメタンハイドレートは、存在する場所が深い海底などであるために、その場所を探すためにも高度な探査技術が必要となります。

 こうしたメタンハイドレートの研究については、日本が世界の先端を走っています。地球深部探査船ちきゅうを使い、愛知県渥美半島から三重県志摩半島の沖、水深1000 mの海底下にある地層から、6日間連続で合計約12万立方メートルのメタンガスを取り出すことに成功しています。これは世界で初めてのことでした。また、2017年にも同じ海域で2回目の試験をおこない、24日間連続で合計約20万立方メートルのメタンガスを取り出しています。

 しかし、ビジネスとして成り立たせるためには、陸上で天然ガスを採掘するより高くなるコストが大きな問題になっています。また、メタンハイドレートの開発が周辺の環境にどのような影響をもたらすかなどの調査も必要となります。というのも、メタンはCO2の20倍の温室効果があるからです。

 メタンガスの採集方法には、表層型のメタンプリュームから出てきたガスを海中の大きな膜で受け止める方法も検討されているようです。メタンハイドレートをエネルギーとして利用できるようになれば、日本におけるエネルギー面での安全保障には大いに貢献できます。ただし、カーボンニュートラルに舵を切った日本にとって、CO2を排出するメタンハイドレートの開発は微妙な立ち位置にいます。今後のメタンハイドレートの動向に目が離せませんね^^。


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