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ちっちゃなマウント

複数の人間が居れば、老若男女を問わず、人はマウントを取りたがるります。どうしてなのでしょうか?。もちろん自尊心を満足するためや、自己肯定感を高まるためなのでしょう。しかし、わざわざそんなことをする必要があるのでしょうか?。ひょっとすると、類人猿から現生人類への進化の過程で、遺伝的に獲得した人類の特殊能力なのかもしれません。

おろらく最初のマウント経験は、大学入試の試験成績でのマウントでしょう。共通一次試験⇒センター試験⇒大学入学共通テストと名前は変わりましたが、国公立の大学を受験するためには避けて通れない試験です。このテストの成績は二次試験にも加味されますし、場合によっては足切りにも使われます。そのため、試験の点数は自己採点で把握できます。

年齢がバレてしまいますが、私は共通一次試験の一期生でした。当時は、国語(200点)・英語(200点)・数学(200点)に加えて、社会二科目(各100点)・理科二科目(各100点)の合計7科目(1000点満点)の試験でした。大学に合格してしまえば、1位も最下位も関係ないのですが、受験生のプライドがそれを許しません。

私が大学1年生の時には、賄い付きの下宿に住んでいました。その下宿には20人くらいの学生が同居していました。私は工学部でしたが、文学部、理学部、薬学部、歯学部、医学部などの学生がいました。各部屋は4畳半の広さで、作り付けの簡易ベッド(畳が敷いてあった)と備え付けの机がある質素な作りでした。建物自体が古く、窓はサッシではなかったので、冬には隙間風が入ってきました。ある冬の朝には、ふと窓を見ると内側に雪が積もっていることがありました。

下宿に住み始めて2-3日したころ、食事時によく顔を合わせる数人で話す機会がありました。最初の話題は想像通りで、共通一次試験の点数でした。「共通一次は何点だった?」。積極的にマウントを取るつもりではないでしょうが、お互いの点数を知り、自分の方が点数が高いと”ちっちゃなマウント”が取れます。私は成績もそんなに良くないし、あまり点数を披露したくなかったのですが、仕方なく教えることもありました。

1週間くらい経った頃、私の部屋に近かった文学部・理学部・歯学部・医学部の学生が集まって話す機会がありました。医学部の学生は、イケメン君で見るからに頭の良さそうな感じでした。文学部の学生は、初日から私に話しかけてくれた親切そうな人でした。最初は出身地や方言の話など、他愛もない話をしていましたが、誰かが共通一次の話を始めました。こうなると、点数開示は必然的な流れです。「嫌だなぁ」と思いながら、会話は進んで行きました。最初に答えた理学部の学生はまずまずの高得点だったと記憶しています。次は歯学部の学生でしたが、あまり良い点数ではありませんでした。その人は「俺は二次試験に絶対の自信があったんだ!」と弁解していました。

三番目は文学部の人でした。見た目で判断するのは悪いとわかっていましたが、お世辞にも頭が良さそうには見えませんでした。しかし、その人から告げられた点数は、驚きの高得点でした。今までワイワイ話していた全員が一瞬固まりました。医学部の学生が「僕より高得点だ」とすかさず言いました。その後、共通一次の点数の話題はフェードアウトしていきました。

人は見た目では判断できませんし、頭の良い人ほど謙虚です。あとで知った話ですが、その高得点の人は、出身高校で断トツの学年トップだったそうです。東大でも楽勝な成績なのに、近くの大学が良いということで九大を選んだみたいでした。


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