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サンシャイン計画

1973年の第一次オイルショックを機に、エネルギー問題とそれに付随する環境問題を抜本的に解決するため、長期エネルギー開発計画が開始されましたた。その国家プロジェクトが『サンシャイン計画』です。サンシャイン計画の基本方針には、「新エネルギーについて、1974年から2000年までの長期にわたり総合的、組織的かつ効率的に研究開発を推進することにより、数十年後のエネルギーを供給することを目標とする」という目標が掲げられていて、太陽・地熱・石炭・水素エネルギーの4つの重点技術の研究開発が産官学によって進められました。

サンシャイン計画は新エネルギーの開発という前向きなプロジェクトですが、1978年にはサンシャイン計画に関連して、省エネルギー技術の開発を目的とした『ムーンライト計画』も発足しました。さらに1979年からは、地球環境技術開発にも着手しました。当時、これらの計画を策定し、所管していたのは通商産業省工業技術院(現・独立行政法人産業技術総合研究所)です。これらの国家プロジェクトは大規模プロジェクトだけに、予算規模は大きく、1992年までに、サンシャイン計画に4,400億円、ムーンライト計画に1,400億円、地球環境技術開発にに150億円が注ぎ込まれました。

私が大学に入学したのはムーンライト計画の年ですが、サンシャイン計画も活気があって、九州大学では新エネルギーの一つである地熱の研究が盛んに行われていました。当時の地熱研究の中心は九州大学で、特に物理探査学研究室が主導して研究を進めていました。当時の私の指導教授は、国から巨大な予算を任されていて、その金額は1億円を超えていました。どうしてそんなことを知っているかというと、その教授の先生が予算を管理している通帳を見せてくれたからです。

当時の研究費は、個人の預金口座に振り込まれることも珍しくありませんでした。私は生まれて初めて、100,000,000円という数字が印刷されている通帳を見ました。この予算は全てがその先生のものではなく、それから何人かの先生に分配するプロジェクト全体の予算でした。私も今年はJOGMECから1億円超の予算を頂いていますが、40年前の1億円とは価値が全然違います。

このような多額の予算をかけたプロジェクトの成果がどうなったかというと、ほとんど成果はあがっていません。太陽・地熱・石炭・水素エネルギー技術のうち、太陽というのは”太陽熱発電”です。しかし、出力が計画値を大幅に下回ったため、最終的には廃棄されました。石炭というのは”石炭の液化”だったと思いますが、商業的な成果は得られませんでした。現在は、サンシャイン計画は終わっていますが、石炭については”ガス化”がトレンドです。この中の地熱だけが、唯一商業的に成功したプロジェクトです。ただし、地熱開発には長い年月がかかり、サンシャイン計画が幕を閉じると新規の地熱発電所は作られることが無くなりました。

最近は新しい形の中型や小型の地熱発電が登場してはいますが、まだまだ普及はしていません。また、人工的に地熱貯留層を作る高温岩体発電も研究されましたが、商業化には至っていません。

それでは、サンシャイン計画は失敗だったのでしょうか?。もちろん、研究開発費用という投資に見合った成果が上がっていないので、失敗だったのかもしれません。しかし、多くの人が誤解していますが、研究はお金をかけたから必ず成功する性質のものではありません。アイディアは優れていても、実用化(商業化)までには至らない研究が数多く存在します。しかし、全く無駄だったかというとそうではありません。その研究過程で開発した技術や材料が別のところで活用される場合も少なくありません。

研究成果は宝くじに似ています。研究しなければ成果は現れませんが、研究したからと言って必ず大成功するものでもありません。残念ながら、研究には運が大きく左右します。私は運が良い方だと思うのですが・・・。今後の研究に乞うご期待です。

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