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ぶったん四方山話#7 「測点まで移動できません!」

 熊本県の阿蘇南外輪山の大自然の中に、アスペクタと呼ばれる世界最大級の野外ステージがあります。この劇場は、1987年に熊本県が県民の文化施設として設置しました。”アスペクタ”とは世界の『アソ』の景観の中で体験する『スペクタクル(壮大な光景・景観)』という意味の造形語です。この野外ステージは、ホテルグリーンピア南阿蘇の敷地内にあります。バブル真っ最中の頃、年金のお金が余っていましたから、グリーンピアホテルがかんぼの宿として各地に作られました。ここも、その一つです。

 丁度、このこけら落しの野外コンサートの時に、グリーンピア南阿蘇で、温泉の探査をしていました。グリーンピア南阿蘇では、既に温泉が掘られていましたが、温度や湯量が十分ではないので、もう一本掘削する計画でした。我々の研究室では、温泉の有望地を探すための探査を、流電電位法で実施することになっていました。

 グリーンピア南阿蘇の敷地は広く、敷地は芝生で覆われています。探査をするのに、こんな快適な場所は滅多にありません。また、敷地を離れると、自然の森になっています。私は見ていませんが、電線を設置するときに、樹上で野生の日本猿を見たと後輩の学生から聞きました。

 広大な敷地ですから、頂いた地図を頼りに測点を決めて、事前にあらかじめ杭を打っておきました。この杭の場所で電位を測定します。私は博士課程の2年生で、測定全般を任されていましたから、本部でトランスミッタを使って電流を流し、ペンレコーダを使って電位を測定していました。

 測点と本部は離れているので、トランシーバを使って連絡を取ります。最初は、順調に測定が進んでいましたが、ある測点で「これ以上進めません!」と連絡が入りました。地図で見ると、そんなに大変そうな場所ではありません。「どうしたの?」と聞くと、「女湯が真正面にあって、これ以上進めません」とのことでした。

 グリーンピア南阿蘇には大浴場があって、大浴場からは阿蘇の雄大な景色が一望できるようになっています。ホテルは少し丘の上に建っているので、通常のルートでは大浴場は見えないのですが、測点は地図上で適当に決めていたので、偶然、女湯の真正面に測点が設定されていたのでした。測点を設定した時は、まだ午前中で宿泊客のチェックイン前だったので、女湯の存在に気が付かなかったのです。

 測定中には、アスペクタに出演中の中村雅俊さんの歌が、遠くから聞こえてきました。様々なハプニングがありましたが、楽しい調査でした。

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