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10万円の数え方 アナタならどうする?

 その昔、ある学会の懇親会(研究者たちの飲み会)で、受付&会計係を任されました。もちろん一人ではできませんから、当時の学生さんをアルバイトで雇って、手伝ってもらっていました。小規模な学会でしたが、懇親会費用は5000円(?)で、受付での当日支払いだったので、見る見る一万円札が貯まって行きました。

 あとあとのお金の集計のことを考えて、すぐ隣にいた学生さんに「十万円は、こういう風に束にしてまとめるんだよ」と、例を示して優しく教えました。そうです。タイトル画にもあるような、一枚だけ横にして挟むヤツです。ごく簡単な説明でしたが、これで理解してくれると思っていました。しかし、”私の常識は他人の非常識”だったことが、すぐ後で判明しました。

 懇親会も無事スタートし、遅れてくる参加者もいなかったので、お金の勘定(集計)をすることになりました。合計でウン十万円ですから慎重に集計しないといけません。10万円の束と残りのお札を数えましたが、合計金額と全然合いません。5000円の違いなら数え間違いもあるでしょうが、全然足りないのです。私は大慌てで再集計しましたが、やはり全然足りません。まさか盗難?。

 少し気分を落ち着かせてから、10万円札の束を数えてみると、何ということでしょう、”10万円プラス1万円”の11万円の束になっていました。慌ててチェックしてみると、どの束も11万円でした。私が丁寧にチェックしなかったのも悪かったのですが、私は当然”10枚目の1万円札を帯に使ってくれる”ものと勝手に考えていました。私もまだ若かったので、瞬間的に頭に血が上り、その学生を強い口調で𠮟責していましたが、怒られた学生さんは”何で怒られたかがわからない”みたいでキョトンとしていました。近くにいた別の先生が、「まぁまぁ」といってその場を収めてくれました。

 ”新しい”10万円の束に再構築して、数えなおすとピッタリ勘定が合いました。これで気持ちが随分落ち着きました。釈然としない私は、11万円の束を作った学生さんに「10万円の束にした方が数えやすいとは思わなかった?」と聞くと、「僕は11万円の束とわかっているので、全然問題ありません」と答えました。「ウーン、何だかモヤモヤする」と心の中で思いました。

 しかし、この後にもショックなことが続きました。少し後で、”笑い話のつもりで”この話を別の学生にすると、その中の一人が「僕も同じようにしたかもしれません」と言うのです。私は頭の中で、「ガーン」という大きな鐘が響き渡りました。自分では常識/当たり前と思っていても、そうとは限らないことを身をもって経験しました。おそらく、「数えやすいように10万円の束を作りましょう。その時には、10万円をひとまとめにして、その中の一枚で帯を作りましょう」と丁寧に説明すべきだったのでしょう。言わなくてもわかるだろうと期待した私の方が間違っていたのかなぁ・・・?。

 と、ここまで書いて私の過去の行いが不適切だったことが判りました。この時の私には、学習障害(Learning Disability:LD)というキーワードが頭に無かったのです。学習障害とは、全般的な知的発達に遅れがないものの、聞く・話す・読む・書く・計算する・推論する、といった一部の能力に困難が生じる発達障害のことです。この時の学生さんがLDだったかどうかは不明ですが、”推論する能力”が低かった可能性はあります。

 LDの人たちは頭が悪いのではなく、一部の能力が低いために、困難な状況に直面します。「コップに少しだけ水を入れて下さい」と指示する場合には、もう少し具体的に「コンプの半分まで水を入れて下さい」や「コップの1/3程度まで水を入れて下さい」のように、具体的な数値を入れる必要がありそうです。”10万円の束”には色々な教訓が含まれています。まだまだ、学ぶべきことがたくさんあることを知りました。

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