hideichi tanaka

池波正太郎、山本周五郎、藤沢周平、横溝正史など。 特に絶筆のままの池波小説の続きを書い…

hideichi tanaka

池波正太郎、山本周五郎、藤沢周平、横溝正史など。 特に絶筆のままの池波小説の続きを書いてみたいと思い、 自分の年齢が満ちていくのを待っています。

マガジン

  • 煉獄召喚〜新陰流、魔界ニ入ル。〜

    【柳生十兵衛死す】   古今無双の兵法者として名を馳せた柳生十兵衛が急死した。   『利厳殿に伝えよ!赤い空の夢に気をつけよとな!』   十兵衛を兄と慕う女武芸者の茜は、 夢の中で謎の伝言を託される。 茜は十兵衛の残した言葉の謎を解くべく、 従甥の柳生厳包と共に奔走する。 やがて二人は赤々と空が燃える魔界に踏み込んだ! そして続々と現れる歴代の柳生武芸者達。 果たして茜と厳包は元の世界に戻れるのか? ・・・ 追悼:親愛なる千葉真一様。 映画『魔界転生』の世界からスピンアウトした異色剣豪小説です。

  • 座頭市、最後の旅。

    座頭の市は、どこへ行った。 すっかり、噂を聞かなくなっちまった。 どこにいるのか? まだ生きているのか? 生きているならもう 七十をひとつやふたつ超えているはずだ。 めくらの博打打ちで、居合い切りの名人だとさ。 本当に、そんな化け物みたいなやつが、 いたのかねぇ・・・ * 季節は巡る。命もまた廻る。 座頭市と一緒に、最後の四季を歩く旅

  • ツレヅレグサ

最近の記事

煉獄召喚

七、弱さ 日本、最強の武芸者の突然の死。 鷹狩りに付き添っていたのは将軍家のお付きの名医たちだ。その名医たちがまったく十兵衛の死の原因がわからぬという。 不審死であった。が、毒を盛られた様子もない。体に傷ひとつない。 原因はどうやら心の臓の発作であろうということになった。 しかしなにか、有害なものの散布などが原因ではないとは言い切れぬ。 十兵衛の死骸はすぐにその場から運ばれ、悪質な疾病などの場合を考えてすぐに荼毘に付された。

    • 煉獄召喚

      六、柳生十兵衛の死 慶安三年の三月二十一日。 十兵衛は京の南東部にある弓淵まで将軍家のお忍びの鷹狩りに付き添い出かけていった。 「十兵衛よ、久しぶりではないか。お主はいつでも雲隠れしておるのにこの度は珍しいことじゃ。」 将軍家光は十兵衛よりも五つ年上であった。十兵衛も今は将軍家指南役を退き、その立場を宗冬に譲っていたが、お忍びの鷹狩りとなると公務として旗本を動かすこともできず、十兵衛のような者を連れて行くのである。 十兵衛は将軍家光が幼少の頃よりよく知っている。

      • 煉獄召喚

        五、魔界 十兵衛は広大な芒の野原を歩いていた。 振り向けば自分が歩いてきた道すらもわからぬ。 不思議な野原であった。 夜明け前であろうか、空は薄暗い。 いつからここにいるのか。自分はどこからきたのか。 ぼんやり考えてみるのだが思い出せない。 十兵衛は笠をあげて遠くの空を見た。

        • 煉獄召喚

          四、乱心 「して・・・その後はどうなのですか、およし殿?」 あれから半年。 宗冬は赤い空の夢を見なくなったらしい。 六助は相変わらずだ。しかし十兵衛の屋敷には恐ろしくてあれ以来、足が向かない茜であった。 だがそうも言ってはおられぬ。 茜は思いきって十兵衛の屋敷におよしを訪ねて行ったのだ。

        マガジン

        • 煉獄召喚〜新陰流、魔界ニ入ル。〜
          7本
          ¥100
        • 座頭市、最後の旅。
          4本
        • ツレヅレグサ
          0本

        記事

          煉獄召喚

          三、煉獄 まだ秋の始まりだと言うのに妙に肌寒い薄曇りの朝であった。 茜は緊張の面持ちで十兵衛の屋敷に向かった。十兵衛は妻子とは別居しているために煮炊きをする下女一人、下僕一人との質素な暮らしぶりであった。 柳生家は大名として将軍家指南役の栄華を誇ったのだが、父の宗矩が死亡した折に兄弟で遺領が分地され、旗本に戻った。 十兵衛は、 「大名などと言うはわしには堅っ苦しくて向かぬわ。なんならわしの分の遺領も宗冬に与えてもらえれば柳生家も安泰であったものを・・・」 と残念が

          煉獄召喚

          二、異変 ある朝、 朝餉の時刻になっても起きてこない六助の部屋に茜は立ち入った。 「六助殿、どうなされた?起きておいでなさい。」 茜は襖を開けて六助に声をかけたのだが返事がない。 「これ、六助殿。」 もう一度声をかけた。 すると・・・

          煉獄召喚

          一、不穏 颯爽と、美しい剣士が歩いてくる。だがこの剣士、男ではない。 茜は剣豪であり将軍家剣術指南役、柳生宗矩の娘である。 妾腹であるが持ち前の負けん気で子供の頃から兄達と一緒になって剣術を学び、いつのまにやら嫁入りの機を逸していた。 長兄は世に名高い兵法者の柳生十兵衛。早世した次兄は柳生友矩。三男はこれも柳生新陰流折紙つきの腕前の宗冬。 日本中に名前が轟く剣豪の血筋の三兄弟が兄とあっては、茜にとってそこいらの男どもなど眼中に入るはずもない。 このような茜が嫁入り

          4-死神

          梅雨の合間の湿っぽい夜だった。 市はにぎやかな街を抜けた。 お白粉の匂いと、男たちの酒臭い汗の匂いが入り交じった騒がしい道を抜けると、 堀端の材木置き場の横に出た。 沢山の材木が立てかけてある木場にさしかかった市は、 何か、妙な胸騒ぎがした。 (なんだ?) 常人の能力を遥かに超えた市の嗅覚、聴覚は、 時には半里も先に待ち構える悪いことまでも感じることがある。 目が見えないから故の『第六感』は歳を取るほどに研ぎすまされていくようだった。 その、市の鋭い勘が、この先の

          3-暗闇地蔵

          「 ・・・ってぇ話なんだよ。びっくりするじゃねぇか。なぁ?」 大工道具を横に置いたその男は、徳利を引き寄せながら相方に言った。 「しかしそりゃおめぇ、まゆつばな話じゃねぇのかい?」 大工の相方らしき男が徳利を取り返しながら言葉を返した。 「おい、ねぇさん、もう一本つけてくんな。」 蒸し暑い夜であった。 忙しそうに動き回っていた女中が、いいかげんにしてくれといいたげな声を上げる。 「ちょいと熊さん、あんたさ、この長雨で大工の仕事もないんでしょ?いつまでもだらだらとお尻

          2-山猫

          「あんまさん、俺が手を引いてやるよ、ほれ。」 朽ちかけた小さな橋の前で、市は若い男に声をかけられた。 「こりゃ・・ありがとうございます。でも大丈夫でございますよ。」 「遠慮すんねぇ。俺ぁ困っている人を見るとほってはおけねぇ性分なのさ。」 「いえ、ですからね、大丈夫ですと・・・」 「いいってことよ、ほれ。」 困惑する市をよそに、 その男は市の右手をつかんで橋を渡った。 「ようし、あんまさん、もう大丈夫だ。橋は渡ったぜ。」 「は、はい、さようですか。そりゃどうも。」 「

          1-街道の怪物

           子牛のように大柄なその男は、もっそりと飯を口に運んでいた。 頭はほとんど白髪であったが、その髪の毛はいろんな方向に伸び放題に伸び、髭もいつから剃っていないのかわからないほどむさ苦しかった。 顔は彫りが深く、鼻筋が太い。そして、その深く沈んだ眼は、ずっと閉じたままだった。 この男、目が見えないのである。 しかし器用に魚を骨からむしり食べている。 梅の木の芽が、香ばしく香るような穏やかな早春の日である。 (おっ、飯に茶をぶっかけやがったな。そろそろ腰を上げるにちげぇねぇ。

          1-街道の怪物

          ひでいち

          ひでいちというのは変な名前らしい。 ほとんどの場合、人は秀一という名前を見ると、『しゅういちさんですね。』とおっしゃる。 ちがいますというと、『あ、ひでかずさんでしたか。』と言うわけだ。 僕は秀一という名前は立派だと思っていた。 なんせ秀才の秀。優秀の秀である。 名前を聞かれたら、 『優秀の秀に一番の一。』そう説明するのが常である。 一番優秀だから、秀一。 僕の名前は大きな期待が込められている、そう思っていた。 親父がもう随分と歳を取った時だ。 なんの集ま