煉獄召喚

三、煉獄 れんごく


まだ秋の始まりだと言うのに妙に肌寒い薄曇りの朝であった。

茜は緊張の面持 おももちで十兵衛の屋敷に向かった。十兵衛は妻子とは別居しているために煮炊きをする下女一人、下僕一人との質素な暮らしぶりであった。

柳生家は大名として将軍家指南役の栄華を誇ったのだが、父の宗矩が死亡した折に兄弟で遺領 いりょうが分地され、旗本に戻った。

十兵衛は、

「大名などと言うはわしには堅っ苦しくて向かぬわ。なんならわしの分の遺領も宗冬に与えてもらえれば柳生家も安泰であったものを・・・」

と残念がった。

最近の十兵衛は渡り歩いていた道場にも姿を現しておらぬようだ。

茜もそのことを知らぬではなかったが、体調がすぐれぬのならゆっくり休んでもらった方が良いと思いむしろ喜んでいたのだ。

ここから先は

4,164字
追悼:親愛なる千葉真一様。 映画『魔界転生』の世界からスピンアウトした異色剣豪小説です。

【柳生十兵衛死す】   古今無双の兵法者として名を馳せた柳生十兵衛が急死した。   『利厳殿に伝えよ!赤い空の夢に気をつけよとな!』   …

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?