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「直感の七割は正しい」とはどういうことか

はじめに

このたび、日本将棋連盟新役員として、羽生善治会長が就任されました。誠におめでとうございます。

羽生会長といえば、これまでの実績は言うに及ばず、現役のトーナメントプロとしても、いまなおTOPの実力を発揮されております。近いところでは、

2022年度の王将リーグを全勝で突破→藤井王将とのタイトル戦

は記憶に新しいところです。

第72期王将戦の記念扇子(我が家の兜と共に)

そんな多くの実績を残されている羽生会長ですが、多くの名言も残されています。その中でも、特に有名なものは

直感の七割は正しい

ではないでしょうか。このテーマに関しては昨年も書いたのですが、

私の中で、仕事を行う際はいつもはこの言葉を大事にしています。また、この七割という数字についていろいろな解釈(誤解?)をされることがある言葉でもあるので、今回は原典を引用しながら、解説をしていきます。

直感の正体

そもそも直感とはなんなのでしょうか?

直感の正体とは何か。
たとえばひとつの局面で、「この手しかない」とひらめくときがある。100%の確信をもって最善手が分かる。論理的な思考が直感へと昇華された瞬間だ。
以前、カーネギーメロン大学の金出武雄先生と対談をさせていただいたときに「論理的思考の蓄積が、思考スピードを速め、直感を導いてくれる。計算機の言葉でいえば、毎回決まったファンクションが実行されているうちにハードウェア化するようなものだ。それまでは毎回発火していた脳のニューロンが、その発火の仕方がいつも同じなので、そこに結合が生まれ、一種の学習が行われたということではないか。」と指摘してもらったことがあった。
つまり、直感とは、論理的思考が瞬時に行われるようなものだというのだ。

直感力: 羽生善治 著, PHP研究所, 2012.

引用中にある金出先生の話を組み合わせると、以下のようなイメージになります。

「直感」=論理的思考の高速化 #一枚絵図

つまり、毎回毎回考えて、あるプロセスを実行していくことにより、脳の中が最適化され、やがて同じ局面に出会ったときに「瞬時にその結論までたどり着くことができる」というようになるのではないか?ということです。

「三割の失敗」を受け入れない限り、直感力は鍛えられない

この七割という数字を見た時に

  • 直感で七割も正解するのか!それならすぐ実行しよう!

  • 直感で三割も外すのか…それは怖くて直感では動けないな

と思う人が分かれそうです。数値だけで捉えると「3回に一回は失敗する」と解釈できるわけですから、「3回に一回も失敗するなら直感では行動できない」と誤解してしまうタイプがいるのも仕方ないかもしれません。

先ほどの文章の続きを見てみましょう。

勝負の場面では、時間的な猶予があまりない。論理的な思考を構築していたのでは時間がかかりすぎる。そこで思考の過程を事細かく緻密に理論づけることなく、流れの中で「これしかない」という判断をする。そのためには、堆く積まれた思考の束から、最善手を導き出すことが必要となる。直感は、この導き出しを日常的に行うことによって、脳の回路が鍛えられ、修練されていった結果であろう。

直感力: 羽生善治 著, PHP研究所, 2012.

ここで大事な点は

なんらかの時間的制約がある中での判断

という点です。「時間的な猶予がない」ので、すべては探索できず、その結果は失敗するかもしれないという状況であることが重要です。そのような場面であるからこそ、判断を繰り返すことで脳の回路を鍛えることができるということです。

つまり、逆に言うと、一回一回の勝負の結果・勝ち負けにはこだわりすぎると直感力を鍛えるための失敗が経験できず、結果的に直感力は鍛えられないということになってしまうのです。

おわりに ~ 直感力を上げるには経験値を積むのが一番良い

1年前の記事と同じ結論なのですが、

結局直感力を上げるには経験値を積むしかない

のです。その結果、多くの無駄や失敗をするかもしれませんが、それ自体が脳の回路を鍛え、次に同じような状況になった時の直感力を高めます。

逆に言うと、直感で判断しなければならない状況で、かつ最初は上手くいかないことを受け入れられる環境があれば、それが「直感」の精度が高い人材を育成できる環境であるといえるでしょう。

(おわり)

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