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クリニックのスタッフ研修

スタッフ間のスムーズな連携に研修は必須

内装工事が終わり、真新しい院内に什器や医療機器が運び込まれてくると、とたんにクリニックとしての体裁が整ってきます。なんだかすぐにでも診療を始められるような気さえしますが、もちろんそんなことはありません。何しろ新規に開業するクリニック内のスタッフは、ほぼ全員が初めて同士のはず。各人がそれなりにキャリアを積んできていたとしても、初対面ばかりで構成されたチームではスタッフ間のスムーズな連携は難しいものと言えます。

開院までの期間にしっかりと研修や診療シミュレーションを行って、そのクリニックに応じた実践的なスキルを身につけてもらうようにしましょう。研修のスタートは、開院のおよそ2〜3週間前が良いでしょう。つまり各スタッフには、勤務開始がその時期になることをあらかじめ伝えておくことが必要です。研修期間を、医療機器や電子カルテ・レセコンなどのレクチャーを受ける時期と、実際に使用して訓練する時期に大別して、その合間に適宜ミーティングや接遇マナー講習などを行うようにすれば、研修全体の進行度合いが把握しやすいでしょう。

オリエンテーションでモチベーションアップ

また、機器の操作同様に大切とも言えるのが、スタッフのモチベーション醸成。その第一歩として、研修初日のミーティング時、先生方にぜひ行っていただきたいことがあります。それはスタッフ全員を集めてのオリエンテーション。開業に対しての思いや経営理念、診療方針などを、院長である先生自ら説明なさって下さい。たとえこういう機会が苦手で思ったように話せなかったとしても、熱意さえ伝わればこれからのクリニック運営がやりやすくなるはずです。また、スタッフにそれぞれ自己紹介をしてもらうのも忘れずに。院長先生だけが一方的に喋る会にならないよう気をつけましょう。また、ちょっとした備品や消耗品など、どれを選んでもそう大差ないようなものについては、製品の選別をスタッフの皆さんにまかせてしまっても良いでしょう。小さなことに思えるかもしれませんが、何でも院長が決めてしまうクリニックに比べ、運営への参加意識が高まるものです。

実践力を鍛える診療シミュレーション

研修の最終仕上げとなるのが模擬診療、いわゆる診療シミュレーションです。知人や出入り業者の中から有志を募り、患者役として受診してもらいましょう。窓口での受付に始まり、問診票記入・診察室への誘導・カルテ作成・レセコン入力・会計と、実際の診療時に沿って“通し稽古”を行う中で、実践力の不足した点が見えてくるはずです。例えば、患者の名前をどう呼ぶのか? 院長の名前は? 初診と再診での受付・案内手順の違いは? 保険証を忘れた患者がいたら? などなど、初歩的なだけに曖昧にしていた約束事が意外とたくさんあることに気づくでしょう。

一通りシミュレーションが終わったら反省会を開き、スタッフ間の連携や患者接遇、機器の取り扱い、必要備品等について確認することも重要です。シミュレーションを繰り返せば、診療の流れはどんどんスムーズになっていきます。全体を通す時間がなければ気になるシーンのみでも結構ですし、患者役を集めるのが難しければスタッフの代役でも構いません。一度と言わず二度三度と診療シミュレーションを行い、より洗練されたチームワークを目指して下さい。

人間関係のトラブルは起こって当然

「どの新人スタッフもすぐに辞めてしまうと思っていたら、古参スタッフの高圧的な態度が原因だった」「○○さんにだけ院長が優しいという噂が流れ、影でそのスタッフへのイジメが行われていた」「2人のベテランのもとスタッフが分裂し、何をやるにしても派閥間で反発し合う」などなど…。無事開業に漕ぎ着けたと思っても、このように開業後はスタッフ同士のトラブルでてんてこ舞い、という状況は珍しくありません。この手の揉め事は想像するだに気が滅入るため、思わず独立を躊躇してしまう先生もいらっしゃるのではないでしょうか。ですが一般的な企業と同じくクリニックもまた、それまでは他人同士だった人々が集まって毎日仕事をする場所です。開業しクリニックを経営していけば、遅かれ早かれ何らかのスタッフ間トラブルに見舞われることは間違いありません。ですから「諍いはあって当然」というように、開業の準備段階から割り切ってしまうことが大切です。嫌だ嫌だと悩んでいるだけでは、イザという時に立ち往生しかねません。開業準備にあたりスタッフを募ろうと決めたその時から、トラブル対処は始まっているのです。

トラブルのすべてはスタッフが原因?

そもそも「同じ職場で働く仲間」であるはずのスタッフ同士が、なぜトラブルを引き起こすのでしょうか。性格の不一致? コミュニケーション不足? もし本当にこれらが原因のすべてであれば、診療や経営に多忙な院長は「忙しいんだから皆で話し合って自分達で解決してくれ!」と、医師だけにサジを投げたくなることでしょう。しかし、ちょっと立ち止まって考えてみて下さい。というのも、クリニック内で起こるスタッフ間のトラブルの多くは、院長自身の心がけやスタッフへの配慮で防げた可能性があるのです。新米スタッフが定着しないクリニックでは、古参スタッフに新人教育を任せっきりにしていたのかもしれませんし、イジメがあったクリニックでは、院長自身にそのつもりはなくても不公平と受けとられかねない不用意な態度・発言があったのかもしれません。また、派閥抗争が勃発したクリニックでは、院長のリーダーシップが少々足りないことでベテラン2人を増長させてしまったのかもしれません。

院内の雰囲気への配慮がトラブル回避の近道

つまり院長の言動にわずかでも迂闊な点があれば、それが毎日積もり積もってトラブルの起こりやすい雰囲気をクリニック内に生み出してしまう、ということです。このことは、クリニックを熱帯魚の水槽に例えると分かりやすいでしょう。それぞれ個性を持ったスタッフたちは、色とりどりの熱帯魚。クリニックという水槽内を元気よく泳いで働いてもらうためには、管理をしている院長が水質(=院内の雰囲気)をチェックする必要があります。水が汚れていないか常に気を配ることで、トラブルの多くは早期発見・解消できるものなのです。とくに開業の準備期間中はスタッフ同士も互いをよく知らず、ちょっとしたことでストレスが溜まりがち。わずかなことでも見逃さないよう、目を光らせておきましょう。ただし、「院長は管理者だからワンマンでいい!」という意味ではもちろんありません。厳し過ぎても、逆に甘過ぎても、院内の雰囲気は徐々に悪くなります。本当に大切なのは、水の汚れに敏感であること。そして、その汚れの遠因を自身の言動に見つけられる客観的な観察力だと心得て下さい。

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