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診療報酬改定とは

2016 年度の診療報酬改定が決定

2016 年の今年は診療報酬改定の実施年度です。昨年末にはチラホラと各メディアでも報じられ始め、「またこのシーズンがやってきたな」と2年に1度の恒例行事を迎えたような気分になった医療関係者も多いことでしょう。そして年が明けた2月10 日、中医協=中央社会保険医療協議会が4月から実施される診療報酬の改定案を厚生労働大臣あてに答申し、その具体的内容が決定しました。この改定のポイントについては今後のコラムでも数回に分けて取り上げていきますが、今回はそもそも診療報酬の改定が開業医にどのような影響を及ぼすのかについて、クリニック経営上とくに気になる収入面にフォーカスしてお伝えします。まずはおさらいも兼ねて、クリニックの収入構造を確認していきましょう。ご自身が行っている医療行為の一つひとつがどれだけの収入に繋がるのか、開業後は今以上に意識せざるを得ないことがお分かりになるでしょう。

診療報酬点数は医療行為の価格表

クリニックの収入を大づかみに算出する式は「患者単価×患者数」で表されます。この患者単価を決めるのが、今年度改定される診療報酬点数。患者に対する医療行為の対価が書き示された“価格表”と考えてよいでしょう。式をご覧になればお分かりになるように、患者単価の元となる点数が引き下げられれば収入維持のためには患者数を増加させる必要がありますし、引き上げられれば仮に患者数が横ばいでも収入が増えます。

また、改定によって診療報酬を請求する際の要件が変わることもあります。改定前は請求できていた診療が改定後は請求できなくなったということも起こりうるため、開業医の先生方にとっては死活問題です。もちろん勤務医の先生方の中にも、日頃から改定情報をチェックしている方は多いでしょう。ですが開業後はそれ以上に注意深く、その推移を見守る必要があります。ご自身が行う医療行為が「今いくらなのか」、そして「今後いくらになりそうなのか」、また「請求は今まで通りできるのか」という視点が欠かせなくなるのです。

長期的視点で診療報酬改定を読み解く

診療報酬の改定は2年に1度のペースで行われます。では、その年にだけ改定情報を注目していれば済む話なのでしょうか。1年や2年の短期的視点で見ればそれで良いかもしれませんが、先生がクリニックを末永く経営していきたいと考えていらっしゃるなら話は別です。そもそも診療報酬改定には、「日本の医療をどこへ向かわせるか」という厚労省の思惑、つまり医療政策の潮流が色濃く反映されるもの。今年度の改定で言えば、かかりつけ医に対する評価の充実や、大病院とクリニックとの機能分化、在宅医療推進などにそのシナリオが垣間見えます。この気運はわずか数年で覆ることはないと考えられるため、診療報酬改定の傾向を長期的に予測する材料となります。今年度の改定から10 年後20 年後の日本医療の姿を想像することは、開業前の先生にとっても決して無駄ではありません。経営者としての眼力を養うトレーニングだと捉え、関連するニュースの“その先”を読み解くようになさって下さい。クリニック開業後に必ず「役に立った」と思える日が来ることでしょう。

医療の質を高めるために病院ごとの役割を分担

診療報酬改定については「開業医はとくにその動向に注視すべき」と以前にお伝えしました。昨年から議論されてきた今回(2016年)の改定もこの4月から施行に至ったわけですが、その内容にはこれからのクリニックのあり方を示唆する部分が見受けられます。近い将来、開業を志す先生方にとって無視できない医療政策の大きな流れですので、今回と次回の2回に渡って取り上げ解説していきます。

今回のテーマは「主治医機能の評価」についてです。主治医機能とは、体に不調を覚えた患者がまず最初にかかる、いわゆる“かかりつけ医”の役割。前回の改定でもこの主治医機能を持つ医療機関に高い評価を与えよう、という流れはありましたが、今回はそれをさらに押し進めた形です。日本の医療を効率化し、その質をもっと高めるために、医療機関の規模や有する設備ごとに機能を分化・強化し連携させる狙いがあるのです。

かかりつけ医に高い評価が与えられる今回の改定

前回2014年の改定で新設されたのが、「地域包括診療料・加算」。これらは高血圧症・糖尿病・脂質異常症・認知症のうちどれか2つ以上にかかっている患者を総合的にサポートしている医療機関を評価するものですが、今回の改定では認知症患者への診療をさらに高く評価する「認知症地域包括診療料・加算」のほか、3歳未満の子供が継続して受診する場合に算定できる「小児かかりつけ診療料」も新設されました。現代の日本においてかかりつけ医を最も必要とするのは、お年寄り(認知症を患っているのであればなおさらです)と子供たち。彼らをしっかりと診てくれる医師にはしっかりと報酬を払おう、というわけです。

さらにもう一つ、かかりつけ医を重点評価する改定がなされました。紹介状を持たずに大病院へやってくる外来患者に最低5000円(歯科は3000円)の特別負担を課す、という改定です。今までも200床以上の大病院については特別料金を病院の判断で任意に徴収してよいことになっていたのですが、今後は特定機能病院と500床以上の地域支援医療病院ではかならず徴収することになったのです。

診療報酬改定のタイミングは増患のチャンスでもある

この改定が意味するところも、やはり医療機関の機能分化にあります。大病院は専門性・重症度の高い患者を中心に受け持ち、中小病院やクリニックが一般的な患者を受け持つようにと、改定によって誘導していく意図があるのです。軽症の外来患者が大病院に押し寄せてしまっては重症患者の診療を阻害しかねませんし、そこに勤める医師たちの負担も重くなるばかりです。しかるべき患者を優先的に大病院へ導くために、クリニックをはじめとする“町のかかりつけ医”に地域医療の窓口としての活躍が期待されています。

だからといって「これからはクリニックが有利だな」というような単純な考え方は禁物です。というのも、医療機関の機能分化を図りたいという医療政策の都合は個々の患者にとっては関係のないこと。不調を感じ始めた人の身になってみれば「大きな病気かもしれないから最初から大病院で診てもらいたい」と不安がる気持ちも理解できます。ですからそのような心情を患者が抱くことのないよう、いかなる時も頼れる医師となる必要があるのです。「これまでにどんな病気にかかってきたか、今どんな薬を服薬中かを知ってくれている」「日常の健康管理や体調変化も相談できる」「まずは○○先生に診てもらおう」そんなふうに患者が思ってくれるような“真のかかりつけ医”を目指すようになさって下さい。大きな改定が行われるタイミングは、増患のチャンスでもあります。こういう時こそ、患者の満足度を上げるため何ができるか考えるようにしましょう。

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