2024年の働き方トレンドvol.2 - Alternative Work Lab Letters -

先日掲載したvol.1に続き、2024年の働き方で起こる変化、トレンドについて議論していく。

従業員のリスキリング

2つ目のトレンドはリスキリングである。リスキリングの重要性はここ数年叫ばれてきたが、いよいよ企業が従業員のリスキリングに対しての投資が本格化する年になるのではないかと思っている。

先日デロイト社が発表した「スキルベース組織」によれば、企業はジョブ(職務)ではなく個人のスキルを中心にした新たなモデルに移行していると述べられている。少しわかりにくいので、スキルベース組織の例としてユニリーバの例を挙げていく。上述したデロイトのレポートには以下のような記述がある。

ユニリーバ社では、社内の人材マーケットプレイスを通じて、正社員として、あるいは「U-Worker」として、スキルを持った人材が組織全体のプロジェクトやタスクを流動的に渡り歩くことができます。
「U-Worker」とは、短期プロジェクトでユニリーバ社と契約し、基本的な福利厚生と給料の最低保障が与えられた労働者のことです。ユニリーバ社の”Future of Work“担当副社長であるPatrick
Hull氏は次のように述べています。
「私たちは、多くの組織と同じように各領域がサイロ化していたことによって、これまで考慮せずにいたかもしれない人々に対して、門戸を開くことができます。」
ユニリーバ社では、部門単位の仕事が、プロジェクトやタスク、成果物に細分化されつつあります。Hull氏は、将来的にはサイロ化した部門はもっと細分化され、労働者の貢献を評価す
る方法はよりきめ細かい方法になるだろうと考えています。それは、勤続年数や役職ではなく、アウトプットとスキルにフォーカスし、それぞれの労働者が何を貢献するか理解する評価の
方法です。
「このような詳細なレベルまで把握できれば、外部からの採用や社内人材マーケットでよりターゲットを絞ることができるようになり、タスクやプロジェクトに適所適材な人材配置ができるようになります。それが業績の向上につながると考えています」

https://www2.deloitte.com/content/dam/Deloitte/jp/Documents/human-capital/hcm/jp-hcm-skills-based-organization-report.pdf


欧米企業では、今までジョブ型雇用モデル、つまりロール(役割)やジョブがあり、それを満たす人材を外部ならびに内部から探し、アサインされた人材は担当するロールやジョブを行ってきていた。しかし、今後は1人の従業員がジョブやロールに固定されることなく、その従業員のスキルによって社内にあるさまざまなジョブやロールを行き渡るようになる、ということだ。

これは一見新しいようで、実は日本企業には馴染みのある仕組みである。日本企業で以前より行われてきたジョブローテーションの発想に近いからである。もちろん日本型企業で行われてきたジョブローテーションは従業員の経験やスキルなどをあまり考慮せず、定期的に異動させることでさまざまなスキルを獲得することを目的としてきた。欧米、特にアメリカで今後注目される「スキルベース組織」は、社内にいる人材があらゆるポジションを渡り歩くことができる点は同じだが、異動する際に異動先の職務において必要なスキルを身につけていることは前提となっている。

そういった経緯から企業が従業員が新しいスキルを身につける、いわゆるリスキリングに対して投資を積極的に行うことが予想されている。つまり「リスキリング」と「社内異動」をセットで行うことが増えてくるということだ。しかし、アメリカ企業を中心になぜそのようなことが起きているのかを以下で考察する。


採用競争からの脱却

スキルベース組織の根底にあるのは、外部人材を採用し続けることが難しくなっていることが挙げられる。単純に人手不足という話ではなく、生成AIの台頭や普及などによりテクノロジーの進化のスピードが上がっており、そういった現在のビジネスにおいて必要なテクノロジーのスキルや経験を持った人材が採用市場に多くないことが背景にある。だからこそ社内の人材にリスキリング、アップスキリングを促し、新たに獲得したスキルを用いて社内の別の仕事にアサインできるような戦略が生まれている。

2023年の年末のForbes の記事でも、2024年のHuman Management & Recruitmentの領域のトレンドの1つとしてUpSkillingが挙げられている。これはForbesに限った話ではなく、アメリカの経済メディアでHuman Management関連のトレンド予測を見ると、UpSkilling、ReSkillingは必ずといっていいほどトレンドの1つに挙げられている。

実は、アメリカの人材領域の市場規模は約30兆円ほどあり(日本は約9兆円)、非常に大きなマーケットである。日本同様、Recruiting、つまり採用領域での規模は大きいが、そういった市場の中でも社内人材のリスキリングやアップスキリングへ注目が集まっている。日本では大企業がリスキリングの取り組みは少しずつ進んできているが、いまだに採用に比べると研修や能力開発領域に関しての投資比率は大きくない。しかし、日本も人手不足はもちろんだが、専門人材の不足はこれから顕著になってくるはずである。その時に会社の外ではなく社内を労働市場と捉え、その市場に対して投資を行うことが求められるようになるだろう。

一部では、上述したように社内の人材の集まりを「社内労働市場」と考え、その中から優秀な人材を確保したり、人材に対してリスキルやアップスキルの機会を提供することを「Internal Recruiting」と呼ばれ始めている。2024年はこのInternal Recruitingに対しての注目と投資が集まり始める年になるのではないだろうか。


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