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弁護士1年目の事件 国を相手にした【釧路村山牧場事件】が私に与えた使命

【証拠収集が何より肝腎】
釧路事件で裁判が始まる前から毎月1週間程度は釧路に駐在して、古老の牧場主を尋ね回り教えを請い、ついには北海道庁の地下に保存されていた古文書の山から、本件国有未開地の貸付や付与処分の公文書を探し出し、牧畜業の実態を研究しました。

釧路にいる間の全ての移動は、村山さんが運転するセンチュリーに同乗し、朝から晩まで釧路の馬産の歴史と、本件土地の変遷を聞き取りました。

訴訟の相手方が保管している文書を、相手よりも先に見つけようというのですから、隠密裏に進めなければなりません。

道庁での閲覧も、弁護士とは名乗らず職印ではなく三文判を用い「北海道牧畜史研究家」として、閲覧申請地域も本件地域に限定せず、釧路国全体に広げました。27才の弁護士1年生としては賢い対応だったと自負しています。

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【裁判と森綜合の怒濤の合議】
釧路地裁で裁判が始まりました。国や道、振興公団の代理人は、法務省の訟務検事や東京や釧路の大物弁護士、札幌や現地の関係官僚など、20人ほどが法廷に詰めかけました。

こっちは、私と村山さんしかいません。たまに応援に福田先生や古曳先生が来てくれますが、弁論は私一人でやるしかありません。

新米なればこその尋問の失敗や、虚偽で固めた相手方証人など、苦境は度々訪れました。しかし、明治時代から現代までの自主占有という大きなストーリーは揺るがさずに済みました。

逆に私が老練な弁護士になった今、訴訟の優劣は代理人の人数や年期とは無関係で、調査を自ら行い、脳みそを絞り尽くして考え、眠らずに彫心鏤骨の書面をしたためる、若い弁護士こそ恐るべしと50年前を振り返って思う次第です。

勿論、提出書面や訴訟方針は事務所で徹底的に全員合議して決定します。

みんな新米の私が心配なので、項目見出しの付け方から「てにをは」に至るまでボコボコにされて、私の原案は影も形もなくなります。取得時効の要件事実ばかりにこだわっていると、先輩弁護士から怒鳴られます。


「事件はストーリーが全てだ。明治時代から戦中戦後を通じて、この牧場の建設と維持、牛馬の肥育のための牧場主たちの苦労の集積を占有の事実として論証すべきだ。裁判官の心を動かせない限り、裁判官に原告勝訴・国敗訴の判決を期待することは出来ない。

準備書面は自己満足のためでも、依頼者を喜ばせるためでも、相手方をやっつけるためでもない。裁判官が膝を叩いて「そうか。この事件はそういう話なのか。」と得心する書面と証拠が必要なのだ」と。

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【完全勝訴判決とその教訓】
地裁で3年かかりましたが、完全勝訴の判決を頂きました。国に勝つにはエネルギーが必要だが、裁判官が「そうか、この事件はそういう話なのか」と納得する書面と証拠が出せれば1年生弁護士でも正義の実現は可能なのだと自信を頂きました。

司法が行政の過ちを是正することにより、国民は司法権を信用し、国家総体への信頼感は向上します。司法が常に行政に追随し総理大臣に忖度する国では司法権のみならず国家そのものへの国民的信頼感が減退し、結果として国家は弱体化します。

弁護士は司法に正しい判決を出させるための民主主義のエンジンの役割を果たすべく、技量を錬磨し、勝つまで戦う闘魂を持ち続ける必要があることを1年生弁護士である私はこの事件で学んだのでした。

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