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短笑物語”究極のバイオテクノロジー ドジョウの蒲焼”

究極のバイオテクノロジー 「ドジョウの蒲焼」


 プッツン・バイオ株式会社の開発部長A氏は、夕食後ウィスキーのビール割りを飲みながら、テレビを見ていた。連続テレビ番組「あなたも尻過ぎた世界」でこわい思いをした後、気象情報を見ているうちにある戦略を思いついた。

翌朝A氏は、部下のB氏を会議室へ呼び出した。
「B君、突然なんだが、ドジョウをウナギにしてくれないか」
「A部長、お言葉ではございますが、ドジョウはドジョウでありまして、ウナギではありません。その逆もまた真なりでありまして、ウナギは食べたいけれど、ドジョウは食べたくありません」
「3年後の夏前に大量販売するから、それで開発計画を立ててくれ」
「ウナギの養殖を始めてはいけないんですか」
「そんなことは、とっくにみんなやっている。今からそんなことをしていては、競争に勝てるわけがない。バイオテクノロジーでも遺伝子組換えでもいいから、ドジョウをウナギにするのだ!」
B氏が会議室を出ると、A部長は頭の中でもう一度、自分の論理にエラーはないかと考えた。

①3年先の夏は長く、気温も著しく高くなるだろうとの長期気象予報が出た
②つまり残暑もきびしいわけで、人々は夏バテに悩まされるだろう
③夏バテ対策にはウナギが効くと**さんが昔決めて以来、今でもそれを信じて誰もが食べている
④だから3年先もきっとウナギが売れるだろう。それも大量に
⑤3年先に大量に売ろう
⑥しかし養殖ウナギでは、すでに出遅れている
⑦だからドジョウからウナギをつくるのだ
⑧ドジョウは原材料費が安い、たぶん
⑨開発費が多少高くつくことは覚悟している
⑩売れ始め、開発費がペイできれば、あとはもうかる一方ワッハッハ
⑪次の段階では、オタマジャクシからドジョウをつくればいい
⑫原価はただみたいなものだ、近所のナマズ池から拝借してくればいい
⑬従って笑いが止まらない
⑭笑いすぎて、あごが痛くなったらどうしよう
⑮しゃべるのが辛くなるかも知れない、そうだ手話を習おう

 かくしてA氏は、3年後を夢見て手話を習い始めた。

 B氏はドジョウとウナギの違いについて考えてみた。その時初めて、ウナギをそのままの姿で見たことがなかったことに気付いた。オヨヨ、私は串に刺さった「炭火焼き-蒲焼き状態」でしか、また夜のお菓子「ウナギパイ」の状態でしかウナギを知らない。しかしながら蒲焼きにした時、見た目にも、味にも大差なければヨシとしよう。
 さっそくナマズ池に行ってみよう。 ? ナマズはいるがドジョウはいたっけ?

 B氏の軌跡と世の中の動向…
①最初の段階、ドジョウをウナギ並の大きさにする。ビール酵母入りサプリを餌にする
②表面の色を黒っぽくする、日焼けさせてメラニンの生成を促進させる
③当り前だが顔が違う。幼魚のうちに顔型をはめてしまう。これはまっすぐキュウリと同じ原理
④ひげもなんとなく違う。なんとかなるべ
⑤3年の間に、プッツン・バイオ株式会社が買い占(し)めたドジョウの量は、全国の九割となった
⑥ドジョウの価格は、軒並みウナギをしのぐ勢いとなった
⑦SNSから端を発し、美食家の間でドジョウの人気がウナギ昇り
⑧だからドジョウは不足している
⑨不足してくると、益々ドジョウを食べたくなる巷の心理
⑩逆にウナギの価格が徐々に下がってきた
⑪蒲焼きにした時、やはり味がいまいちだ。蒲焼きのタレの研究も必要と、B氏はテーマに入れた
⑫そうだ、タレの中にウナギエキスを入れればいい
⑬ウナギが安くなったので、好都合だ
⑭3年後の夏前、発売にこぎつけた「ウナギの蒲焼き「特性タレ付」」は、人々の関心を呼ばずであった
⑮やっぱり嘘はよくない、不正競争防止法違反になる
⑯プッツン・バイオ株式会社は、販売戦略を変えた
⑰変更 「ドジョウの蒲焼き…特性タレをつければ限りなくウナギに近い風味を楽しめます」
⑱世間では、「ドジョウの蒲焼きがこんなに大きいはずはない、安くなったウナギでごまかしてんだろう」と評判が悪くなった
⑲経営難になったため、解決策として自社の「ウナギの顔をしたドジョウ」を市場に大量流通させた

 A部長は、再びB氏を会議室に呼び出した。
「ウナギをドジョウにしろ」
「A部長、お言葉ではございますが、ウナギはウナギでありまして、ドジョウではありません。その逆もまた真なりでありまして、ドジョウは食べたいけれど、ウナギは食べたくありません」
「君ならできる!」
「ウナギの顔したドジョウなら、そこらのスーパーで安売りしてます。買ってきてもいいですか」
「そんなことは、とっくにみんなやっている。今からそんなこと…」

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