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読書「誰が農業を殺すのか(新潮新書)」

※単に書籍の読後の感想を述べるものであって、筆者等の主義主張に依るものではありませんのでご留意下さい。

1.本書の概要

日本の農業はどこへ向かうのか。ジャーナリストである窪田新之助氏、山口亮子氏の共著となる本書。
我が国の農業において”大切に”されてきた「保護農政」の考え方、その一方で軽んじられてきた「知的財産」の考え方を主な切り口として、”農産物”輸出、種子法・種苗法改正、コメ政策、有機農業やスマート農業など、今までの政府や国会で取り上げられてきた農業政策や農業現場の課題や問題点に切り込む。
ややセンセーショナルなタイトルではあるものの、日本の農業の課題や改善点について考えさせられる一冊。

2.読み終えて

農業は”産業”であること、例えば電機産業など製造分野での技術・人材流出問題と同じようなレベルまでに、思いが十分に至っていなかったと気付かされました。

今の飽食の時代、常に一定の品質のものが安定的に、そして比較的安価に手に入れられますが、生産の現場はなかなか厳しい状況だということは秘書時代から各地元で聞いてきました。そのことは国会でも都度話題にあがるのですが、なかなか状況は変わらず、むしろ打ち出される政策はピントがずれている気がしていました。
本書の中の、「日本が長年にわたって保護農政を続けられたのは、商工業の経済成長により農業の面倒をみるだけの余裕があったから」であり、例えば現在進めている目玉政策の『スマート農業』について「農水省の説明に違和感を抱く理由は(中略)手段と目的が画一的かつ短絡的であり、個々の農業経営が直面する課題をすくい取るだけのきめ細やかさがないから」であるというところで『確かに』と頷きました。言葉を選ばずに言えば、農政も多くの現場も「良い時代」の「非合理・非効率的」なやり方が続いていて、目先の事象に小手先での対応に終始してしまっているのかもしれません。
もちろん独自で販路開拓やブランディングなどを進めて成功している農家・営農者や産地もありますが、当然のことながら全ての方がこのようなことを出来るわけではありません。収益性が低くても我々の生活に欠かせない品や、加工用の原材料などを作っておられる方々も多くおられます。
大きく変化している消費傾向や需給と、産業としての政策、現場を支援する政策に大きな乖離が生じていると言わざるを得ず、それが”ピントがずれている”と感じる原因であったのだと思います。

さて、このような現状の中で、先日、自民党が政府に対して、国の責任のもと農地確保や、適正かつ効率的な利用を図ることや、「地域ぐるみの生産・流通の転換による輸出産地の形成や、知的財産の保護・活用の強化等の必要性を明記」して、農産物・食品輸出について、「農業生産基盤の維持を図るために、不可欠なものと政策上位置付けること」とした食料・農業・農村基本法改正を申し入れました。

これを受けて、国民民主党も農水大臣に対して、「所得の向上」や「多様な担い手」の位置付けなどを盛り込んだ提言の申し入れを行っています。
個人的な意見ですが、国民民主党は経済やエネルギー政策に比べて、個別政策については明瞭なものの農業政策についての柱(ビジョン)があまり見えなかったと感じているので、具体的に目指す農政の全体像を示した上で個別の政策や法案への落とし込みを行っていくべきかと思います。(などと、偉そうなことを言ってしまいましたが、私自身は学ぶことだらけなので、精進せねばなりません。)

また、国民民主党は本年2月に「総合経済安全保障法案」を提出しています。政府が提出した経済安全保障推進法では射程が狭すぎるため、生産設備、エネルギー、食料、医薬品等、国民生活と日本の経済を守るために必要な事項も付加してより広義に、総合的に定める法案です。
昨今の世界情勢不安定化や新型コロナ禍で、日本国民にとって必要な農業(食料)、エネルギー、産業インフラや医薬品等を国産で供給できることの必要性を皆さんも身に染みて感じたことと思います。
この観点からも、農政分野においては本書にあるような課題や障壁をクリアにしていく必要があるのではないでしょうか。

自民党の提言にせよ、国民民主党の各提出法案にせよ、これから様々なご意見が出てくるでしょうが、しかし、少子高齢化による人口減少に真正面から向き合って構造を変えていかなければなりません。農業分野をはじめとして、国家基本に関わる分野については特に、新たな制度や社会構造へのシフトは一朝一夕に成し得ません。過渡期への目配せを行いながら、目先の利害関係や政局に捉われないよう中長期的な政策を打ち出すべきです。

農家、就農者の方側から見ても、さまざまな営農のあり方が出てきています。収益性を上げるために創意工夫されている方もおられれば、所得だけではないスローライフ的な観点からの価値を見出している方もおられます。
国民や消費者の側も古い「農業」「農家」のイメージから脱却しなければならないし、産業としての「農業」を新たに作り上げていく必要もあるなと感じされられました。

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