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アニソンは作曲家で聴け!♯3「志倉千代丸(株式会社MAGES.)」

歌詞が重要視されない昨今の邦楽市場。
多少「うっせぇわ」の歌詞が風刺的だと一部では話題になりましたが
多くの人はいい声と耳あたりの良い歌詞が乗ってれば
それ以上の価値は求めない傾向にあります。

一昔前の歌謡曲と呼ばれていた時代は少し様相が違っていました。
小説のような独特の言い回しで叙情を表現していた時代。
恋愛、愛憎、そういったものをねっとりと描いていて
大人は口を揃えてあの頃は歌詞が良かったと嘯きます。

ポジパンが席巻していた時代もそれに含めていいでしょうか。
陳腐とも形容されるほど真っ直ぐな言葉に
若者は大人にはわからない言語で対抗します。

そりゃあ中には「歌詞がいい!」ってラブソングに泣く女子とか
ヴィジュアル系の歌詞に共感するメンヘラもいましたけどね。


恋心と反骨心をどこかに忘れてきた私にはどちらも馴染めませんでした。
(※大概どれも曲は好きですけどね)
一つの音楽という作品を、
一つの創作物として私も嗜みたかったのかもしれません。

もっとこう、バラードじゃなくてかっこいいBPM高めな曲に
心を踊らせてくれる物語が紡がれている楽曲はないものか……

それを叶えてくれるジャンルが、たった一つだけあります。
それはアニソン、またはゲーソンと呼ばれているジャンルでした――



かつて交わした志倉と

これまで好きな作曲家を二方語ってきましたが、
志倉千代丸との出会いは段違いで早いです。

中学までは生粋のスポーツ人だった私のヲタク歴は高校から始まってまして
休み時間に集英社の小説やアーティストの歴史みたいなものを読んでたら
右隣のやつに【スレイヤーズ】、左隣のやつに【ブギーポップは笑わない】
というラノベを薦められてしまったことに起因します。
(後ろのやつからは同人誌の存在を教えてもらいます。
このクラスはオタクしかおらんのかい)

ここで二次元への偏見がとっぱわれた私は
いわゆる"美少女ゲーム"と呼ばれるAVGに手を出すわけです。
それまでRPGとパワプロとスパロボしかやったことなかったのにね。

その中で最もハマったゲームが【DEVICE REIGN】デバイスレイン

ゲーム性も頭をこねくり回しながら対策せねばならない
なかなかの難度のシュミレーションRPG
ストーリーも裏切り者があっと驚く位置にいて、
実は最初っからその伏線が張られているというアハ体験も味わえる。

そしてどのキャラも魅力的。
園宗寺要とかめっちゃ好き。
だと思ってたら実は女性だった、で二度美味しい。

そうです、少し前に紹介した、私が一番好きだというキャラが登場する
そう豪語したゲームと同じイラストレーターを起用した作品ですね。

こちらのEDを坂本真綾が演じる夕凪汐音というキャラが歌っており、
劇中での使い方も相まって彼女のファンになるほどハマってしまいます。
(まぁこの曲に加えて【ラーゼフォン】及びヘミソフィアにハマったのが大きいですが今は割愛)

teens / 坂本真綾

これが当時どのCDにも収録されてなくてですね……
なんとか録音したCD-Rで文字通り擦り切れるくらい聴いておりました。
その音源自体もゲームソフトをCDプレイヤーに入れたら流れるという
当時としてはやってはいけない行為の一つとされながらも横行していた
オマケ的裏仕様でパッケージされたもの。
エンディングのドラマパートが一部かぶってるのも厭わず聴いてましたね。


その数年後、私がこの世で最も一番おもしろいと思うゲームに出会います。

今でもこの記録は破れていません。
誰がなんと言おうと今のところこれより衝撃を受けた作品はございません。

【Ever17 -the out of infinity-】

LeMU~遥かなるレムリア大陸~ / KAORI

伝説と名高いこのゲームについてはいつか熱く熱く語りたいと思いますが
当然主題歌であるこちらもいたく気に入ります。

作ったのは誰だ……志倉千代丸。
よし覚えておこう。
特に、歌詞。
そりゃあ恋愛アドヴェンチャーなんて(表向きは)謳ってるわけですから
不思議な空間で出会う恋愛のことなんだろうなとか思うじゃないですか。
ゲームクリアしたあとに読み直すわけです。

おや、最初から全部ここに書かれてあるんだけど?

ガラス越しに笑った……だと!?
視線を感じた……まじか!?
See it together……うん、一緒に見たよ!!

ゲームコンプリートした人は
もれなく歌詞でもう一回泣ける特典がつくわけです
これは、私(プレイヤー)へ向けての歌詞だった!?

初見でも意味深な言葉はたしかに並んでるんですけど
ゲーム主題歌として訴求するドキドキワクワク感に満ちていて
普通にいい曲に違いはありません。
何より単純にシリアスでかっこいい

このシリーズは、プレイした人からは大大大太鼓判、
だけどまったくの無名、という相反した評判、
今で言うところの"もっと評価されるべき"があまりにも多かったのか
幾度も移植されいろんな媒体で発売されることになります。
その歴代のテーマソングもどれもかっこよくてですね……

It's fine day / 今井麻美

後に【STEINS;GATE】でヒロインを務める今井麻美の詠うLeMUは
前回よりもポップに、切なさを演出。
ゲーム自体いろいろ深堀りできる要素が増えたので
間口を広げたかった意図が見えます。

そしてさらに数年の時を経て、装いを新たに完全補完版が登場。
追加シナリオで全てを強引にハッピーエンドに持っていくので
自分的には大満足の代物でした。(酷評のほうが多いけど)

レムリアに捧ぐ / KOKOMI

一気に開放感も感じられる曲調に転換しつつ
ただKOKOMI(ex-Asriel)の声質でファンタジックさも絶妙に保った楽曲は
ゲーム自体もシナリオに大きくメスを入れ大幅にリメイクされたものに
ちゃんと似合っていたと思います。

PVは何れもとにかく緊迫感がありそうだ。。
でもなんか電波な娘おるんだけど……
男が二人?どっちが主人公?
なんで最後だけ服装違う娘おるん……?
まぁとにかく閉じ込められて溺れそうになるんね。

どうです、ちょっとこのゲームやりたくなってきませんか?
今のうちに言っておきます。
やるなら一切のネタバレを見ないで進めることをおすすめします。
パッケージにある恋愛アドヴェンチャーの肩書に偽り有りです。
(確か今はこの看板は取っ払われているはず)

歌詞はしょうがないので見ていいですよ。
現時点ではよくわかりませんから。
ただなんだかやたら視点を気にするやん?ってことしか。
そして全部終わってからカタルシスを味わいましょう。

このinfinityシリーズは他にも世界観を共有している作品があり
曲的にはこちらもかなりのお気に入り。
最初に聞いたの確か静止画MADだったけど。

Darkness of chaos / 皆川純子


そして、このネタバレを歌詞に仕込む手法
志倉千代丸は以後も多用します。

コンプレックス・イマージュ / 彩音

【Ever17】とどっちが先か論争を巻き起こす【ひぐらしのなく頃に】
こっちにも志倉が関わってる時点でその言い合いは不毛です。
私に言わせればタイムリープしてるかしてないだけで
180度別物じゃんと言い切りたい所存。

まぁこの曲はポップな上に如何様にも解釈できる歌詞ですが、
私はタイトルから察するに古手梨花(※)視点だと捉えています。

だってコンプレックス=複合体と訳せばそんな感じしません?
ローフリケンシー=頻度、とか言ってますし。

あとこれがカップリングだったという事実。
曲的にもこっちのほうが大衆受けしそうなのに。
多分フクマセ成分が薄かったからなんじゃないかと勘ぐってしまいます。
ひぐらしを志倉なりに解釈し直した不気味な表題曲ももちろん傑作。

Find the blue / いとうかなこ

そしてその系譜は今や恒例となった
科学アドベンチャーシリーズ】へ引き継がれます。

もう、この表題曲もそうなんですが
自身でもそういう曲作りを意図的にやってましたと言わんばかりに
劇中バンドに全部説明させてしまうという手法をとります。
榊原ゆいが演じたファンタズムですね。
作曲は別の方(主に林達志)ですが
作中で歌詞通りの出来事が起こってしまう、という逆メタ発言。
もはや意味がわかりません。
でもこれが面白さを増幅させるんですよ……

これの集大成、というか
ゲーム史にもアニメ史にも残る名作を生み出してしまいましたよね。

【STEINS;GATE】

スカイクラッドの観測者 / いとうかなこ

あまりにも有名です。
有名すぎて1が今やろとかイチャモン付けてくる人まで出てくる始末です。
てか神とか収束とか好きよね。
志倉さん【Ever17】みたいなことを自分の会社でもやりたくて
そのためにこのゲーム作りましたよね?と問いたいです。

Ever17はアニメ化絶対不可能だから(※小説でも漫画でも大失敗してます)
似たようなカタルシスをアニメでも可能にするロジックを組み立てるところから始めたでしょ、って。

これもほんと今更アニメ好きな人で見てない人はいないんじゃないかというくらい売れてますが、見てない人はむしろラッキーです。
これからこの感動が味わえるんですから。
どうせなら通常→再編集版と見て、【ゼロ】へ繋がる大胆なエンディングの改変を通ってください。
あれリアルタイムで見てて鳥肌立ちましたよ。

しかも一発では終わらせません。(むしろシュタゲは2発目ですが)
【CHAOS;HEAD】以上の評価を得た、【CHAOS;CHILD】

カオスシンドローム / 鈴木このみ

残念ながらアニメではそこまで話題になりませんでしたが
ゲームは神作(という噂らしい)です。
一部ではシュタゲを超えたとまで言われているようです。
あとまさか鈴木このみまでここに関わってくるとはね。

なんとなく志倉楽曲って音楽的には90年代を思わすというか
小室哲哉や浅倉大介辺りの血を引いてそうというか
エレクトニックを取り入れ始めたビートロックを感じさせます。
個人的にはFavorite BlueとかTWO-MIXっぽいと思うんですが賛同者はいますかね。会ったことないんでいないんでしょうけど。

そして、Ever17とかシュタゲとか、
叙述トリックやタイムリープっぽいゲームを語らせると
古参から必ずもう1つ対抗馬として挙げられるゲームがあります。
それが【YU-NO】

【CROSS†CHANNNEL】もその枠に入れていい気もするんですが
結局どちらにも志倉千代丸が関わっているというね。
もうこういうゲームはすべて救済すると言わんばかりの手の広げようです。
制作会社倒産等の憂き目に作品のファンは悲しむしか出来ないので
その行動はまさに救世主です。
志倉さん、Ever17をKIDから"掬い"出してくれてありがとうございます。


いつか還るべき志倉へと

時は遡って、とある日。
日課でまんだらけで物色をしていたら
Game Music Collection -SONY Computer Entertainment Japan BEST-
なるものを見つけます。
なんと、こちらにずっと探し求めていた音源、
【DEVICE REIGN】のteensが収録されているではありませんか。
これは買わない選択肢はありませんでした。
嬉しすぎてウキウキしながら歌詞カードを開きます。
おーこんな歌詞だった!
てかやるドラシリーズの曲も入っててラッキーだわ!

そこで初めてteensのクレジットを知るわけです。
(ゲームやってたときはそんな意識持ってませんからね)
そこにはなんとも特徴的で覚えやすい名前、志倉千代丸。

……あの曲も、おまえだったのか。



【J-POPやアイドルへの関与】

よく見たら水樹奈々にもちょこちょこ提供しています。
たまに表題曲より好きになる中二病なカップリングとかあったけど
そのことごとくが志倉千代丸じゃないの。Trinity CrossとかNoctuneとか。
シングルでもトップクラスに好きなSECRET AMBITIONも志倉千代丸ですし。
chronicle of skyや十字架のスプレッドに至っては志倉千代丸×菊田大介。
最効か!

十字架のスプレッド / 水樹奈々


LeMUにかんしては、そもそもKAORIの喉に引っかかるような声が好きすぎて
川菜翠時代も含めて漁りましたね。
そうこうしてたら大好きな作品である【ARIA】にも抜擢され
狂喜乱舞しておりました。
もちろんアニメ版も最高に作品に似合ってて好きですが
ゲーム版はそれはそれで明るい内容に沿ってて素晴らしいのです。
一時期こればっか聴いてた時期があったな……(Last.FMの再生数がすごい)

BLUE BLUE WAVE / KAORI


こう書いてるとゲームソングばかりやんってなりますが
(そしてそれは結果的に間違ってないんですが)

コンビニで流れていて気に入ったアーティストがいます。

海風のブレイブ / fumika

わー爽やか~。
うんうん、ブリーチの曲歌ってたのね。知らなかった。
でもこれまでの経歴を見るとタイアップはバッリバリJ-POPって感じやね。
涙三部作?よくわかんないけどいいじゃん。
この曲は……おや、【ROBOTICS;NOTES】
見たことはないがなんかこの字面見覚えがあるぞ……真ん中にセミコロン。
――やっぱり。
志倉千代丸、またおまえか。

J-popといえば
鳴かず飛ばずだったZweiを救済してくれたのは嬉しかったですね。
かっこいいんだけどパンチ力が足りないな……と感じていたら
いつの間にか彼女らも志倉一族に加わってました。
確かにAyumuの声質、彩音とかいとうかなこと遠くないもんな、
志倉千代丸こういう声好きだよなぁと妙に納得したものです。

イナンナの見た夢 / Zwei


あと、なんかアイドルが好きみたいで
過去にはゆうこりんこと小倉優子にも楽曲提供してますが
桃井かおりアフィリア・サーガ・イースト、からの純情のアフィリアっていうユニットもプロデュースまで始める始末。

それだけが、生きる意味なんだ / 純情のアフィリア

まぁどんな形であれシンフォニックポップが増えるのは喜ばしいことです。

その手の作品で好きなのは【セントールの悩み】のOP。
可愛らしさの中にクラシック音階をサンプリングしてて
作品に沿った知的さ(?)を付加しています。

教えてダーウィン / ピュアリーモンスター


最後に。
さっきちらっと浅倉大介の名前を先走りましたが
私が音楽遍歴を語るとどこかで西川貴教にぶつかる現象が起こります。

そう、この志倉千代丸。
西川貴教と乙女ゲームプロジェクトを始めています

永久パラダイス / B-PROJECT

是国竜持は俺の嫁。
実は私のLINEの画面は彼に着せ替えされています。かわいい。

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このビープロ、おそらく過去に携わった
Lucian Bee's】というシリーズで培った知識で初めたと思いますが
アニメ化もしたしアニサマ出演まで行ったので
乱立し始めた男性声優アイドルの中でも成功した部類ではないでしょうか。
その【Lucian Bee's】の曲もまたべらぼーにかっこいいの。
私は宮野真守の音源を漁ってるときに発掘しました。
てか今見るとすげーメンツ……一人だけ知らないけど。
(鈴木達央、寺島拓篤、梶裕貴、日野聡、宮野真守、TAKERU)

仮面の下のバラッド / ROMANXIA


Afterword

一時期、極初期のボカロにハマっていた経緯があるんですが
それはまさしく商業的な歌詞や音楽性にとらわれないそのスタイルが気に入っていたからかもしれません。
それこそ若干否定的な書き方をした「うっせぇわ」はその系譜を受け継ぐものなので、当然好きな部類です。

インディーズ音楽シーンと言えば
かつてMuzieというサイトが有りました。
そこで気を吐いていたfripSideとAsrielをメジャー―デビューさせたのが
誰でもない志倉千代丸。

flower of bravery / fripSide

とくにfripSideのアニソン・ゲーソンへの浸透力を思えば
その功績は偉大ですよね。
先述のEver17にしろZweiもそう。
色んなものを地下にとどめておくにはもったいないと掘り起こす、
その行動がかっこいいです。

アニメやゲームの主題歌となると一分半で世界観を説明する必要があるため
音数は多くなり歌詞もしっかり意味が込められているものが多いです。
そしてこの志倉千代丸が推し進める科学アドヴェンチャーともなると
必要以上に複雑怪奇なストーリーに合わせて
さらにそこに謎を仕込もうとする豪華仕様。

あまり手法としては良しとされない、
第一人称が少なく熟語がふんだんに使われたそれは
まさしく私の溜飲を下げるものでした。
うん、詩的でかっこいい。
曲も特徴的ですが、それ以上に歌詞で「これ志倉っぽいな」と感じる
珍しい作家でもあります。

共感する歌詞は別のアーティストに求めてるので
是非アニソンはこうして緻密に構築された作品であり続けてほしいですね。



最後まで長文お読みいただき誠にありがとうございました。 つっこみどころを残してあるはずなので 些細なことでもコメント残してくれると嬉しいです!