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インドのユニコーン企業情勢~ユニコーン企業がユニコーン企業を生む!?~

はじめまして。Rebright Partnersの重松です。
今年の9月に大手銀行を退職し、現在はRebright Partnersのアソシエイトとして、インド・ASEANのスタートアップへの投資活動に従事しています。
何故、大手銀行からVCに転職できたのかに関してはいずれか書くつもりですが、現在の仕事にJoinして2カ月の私から見てインドのスタートアップはこんなにも熱い!!ということをお伝えできたらなと思います。

それでは早速、第1弾!!

ユニコーン企業がユニコーン企業を生む!?

インドのユニコーン企業の増加背景に関して説明していきたいと思います!

 NASSCOM 2019 Reportによると中国やアメリカに次いでインドが世界で第3位のユニコーン企業数24社となったことが報告されました。新興国ではよく見られる現象でありますが、インド24社のユニコーン企業のほとんどがコンシューマーサービス向けであり、この背景にはインド国内の中間層の可処分所得の増加によるセクターの成長や投資家からの人気から生じていることが報告されています。
また、インド人の技術的優位性や起業文化を背景にインドのスタートアップ企業の成長スピードは非常に早くNASSCOMの調査によると2025年までにインドのユニコーン企業が95社~105社程度まで増加すると予測され、今後は元来GDP構成比の高いモビリティ・ヘルスケア・EdTechに資金が注がれ、サービスセクター以外にもB2Bのユニコーン企業が誕生すると指摘されています。

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(引用:NASSCOM startup Report 2019)

 そこで今回は、イギリスやドイツの名だたる先進国を抜いてなぜユニコーン企業数が増えているのかを以下の構成でインド現地メディアの情報や書籍等からを紹介させていただきます。大きく理由は2つあります。

 1つ目に『フリップカート・エフェクト』です。2018年に世界最大小売大手のウォルマートのフリップカート買収によって、資本の拡大再生産とインドスタートアップへの関心の高まりにより、インドスタートアップへの投資額が増加しスタートアップエコシステムをより加速的に構築させたこと。
2つ目に『スピンアウト現象』です。中国のインターネット大手企業たちが相次いで子会社をスピンアウトさせ、ユニコーン企業数を増やしているのと同様にインドでもスピンアウト現象が起きていること。

以上の2つが要因として挙げられます。

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(引用:NASSCOMレポートより筆者作成)

■『フリップカート・エフェクト

 いくつかの報告書では『スタートアップエコシステム』の形成要素として➀技術力(大学)②大企業との連携③VCや投資家による資金力④法整備⑤起業数等が紹介されています。
 2018年にインドではそのうちの③資金力と⑤起業数においてブレイクスルーが起きました。それは世界の小売最大手、米国ウォルマートによるインド国内の最大手Eコマースのフリップカート買収です。その金額はその年の全世界の全セクターのM&A金額において最高値の約2兆2千億円でしたが、それによってインド国内のスタートアップエコシステムでは、資本の拡大再生産が急速的に進みました。テクノロジー思考:蛯原健著 ダイヤモンド社では『フリップカート・エフェクト』について下記のように紹介されています。(筆者が一部抜粋)

 買収されたお金が主要投資家であるVCはもちろんのこと共同創業経営者であるサチン・バンザルとビニー・バンサルを筆頭に何十人もの同社役職員の銀行口座に着金したのである。これはスタートアップエコシステムの拡大生産にとって極めて重要なことで、この大金が将来同じことを成し遂げようとするインドのスタートアップへ、エンジェル投資等の形でどんどん流れ込む。あるいはそういった資金を手にした彼らのうち少なからぬ数がシリアルアントプレナーとして企業する。フリップカートの買収は象徴的な意味でも実際的な意味でも、インドのスタートアップエコシステムの成長速度を大きく速めるだろう。

というものです。(あくまで一部の抜粋なのでご関心ある方はぜひ一度読んでみてください。)この傾向はインドから始まったものではなく、アメリカ・中国でも生じており、アメリカではインテルの成功で手にした資金がアップルに注がれ、その後にグーグルやフェイスブックを生みました。中国でもAlibabaがAlipayを運営するフィンテック企業であるAnt Financialに出資をし、スタートアップエコシステムの成長の拡大に寄与しました。

 インド国内に関しても、ユニコーン企業創設者からのスタートアップ企業への再投資が起きています。具体的には、Googleから注目されているAI顕微鏡を開発し、血液等の生体サンプルのデータをディープラーニングによって分析するミドルウェアを開発した『SigTuple』や日経新聞でも紹介されたことがあるサーモカメラで撮影した画像をAIの解析し、乳がん検知を行う『Niramai』の両社はフリップカートの創業者であるサチン・バンザル氏が投資家となっています。

   サチン氏が投資家となっているNiramai社の企業概要

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 (筆者作成)

 特に、インド国内のヘルスケアスタートアップ企業への関心は非常に高く、早期から出資を行いインドのスタートアップエコシステムを盛り上げています。

 最近では、資金調達に関しても日本企業からもインドスタートアップ企業への関心や実際にアーリーステージ企業への投資も増えています。インド国内全体でもスタートアップ企業の資金調達額は2018年と比較するとアーリーステージの資金調達額が大幅に増加傾向でした。着々とユニコーン企業の候補となりえるスニコーン企業が、これらの資金投資額を基ににユニコーン企業となる環境が整いつつあります。

             

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ユニコーン企業による『スピン・オフ』

 世界最大級のモバイル広告ネットワークを運営するInMobiがインドの最初のユニコーン企業となり、それ以来インドでは、ユニコーン企業が多く誕生しました。

先程紹介したFlipkart・日本ではPayPayで有名になったPaytmを運営するOne97 CommunicationsやOYO Rooms、ANIテクノロジーズが運営するインド版UBER Ola cabsなど現在では約24社のユニコーン企業が誕生しています。2019年にOla Electric含め、7社がユニコーン企業の仲間入りを果たしましたが、見逃せないのは中国と同様、巨大企業の子会社がユニコーンになっているケースです。

 ユニコーン企業がユニコーン企業を生むという傾向は中国で始まりました。中国のHurun 研究所によると「世界中のユニコーン企業の4%(約20社)は巨大ユニコーンのスピンオフよって誕生した。」と報告しています。
中国では20社のスピンオフした企業のうち18社のユニコーン企業化に成功しており、Alibaba・平安(PingAn) ・JD.comなどの中国企業がスピンオフのトレンドをリードしました。

       中国のスピンオフから生じたユニコーン企業紹介

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(引用:Hurun Resarch Institute)

 そしてインド国内においてもEV自動車の製造やリース事業を行うOla ElectricとオンラインマーケットプレイスのPaytm Mallの2社は既存のユニコーン企業からスピンオフして生まれたユニコーン企業となっています。これらの企業はANIテクノロジーズやOne97 Communicationsが100%出資している子会社ではありません。
 下記の資金調達表で示している通りに、外部の投資機関からの資金が入っており、各社とも上場計画を持っています。

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(出典:yourstoryとCrunchbaseより作成)

 こうしたユニコーン企業がユニコーン企業を生むという背景にはインドのスタートアップメディアであるYourstoryによると、中国・インドでスピンオフが加速する背景には、巨大なユニコーン企業の信頼性を利用した資金調達が行われていることが指摘されています。今後ともインドのスタートアップエコシステムは技術的な優位性や起業文化によって、ユニコーン企業がユニコーン企業を生むというこの傾向は止まらないと報告していました。

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(引用:yourstory)

最後に
 上記の要因以外でも、インド国内ではユニコーン企業による関連事業への参入が相次いでいます。
インドの配車サービス大手であるOlaはOla Foodsというフード事業に、PaytmはPaytm First Gamesというゲーム事業だけでなく、旅行・観光業、エンタメ事業などに参入しています。この流れはユニコーン企業は絶え間ない『事業機会の探索』と『巨大なマーケット』によって進められ、今後とも益々、ユニコーン企業を作るエコシステムの構築が進むと思います。
 インドのスタートアップ企業の成長スピードには日々目を見張るものがあり、弊社の投資先企業にも従業員が1年前は120人だった会社が今年は300人とインド国内のスタートアップ企業のスピード感は非常に面白いものがあります。引き続き、インドのスタートアップ等に関してご紹介していきたい。

参考文献:
【書籍】
蛯原健(2019)”テクノロジー思考“ 技術の価値を理解するための「現代の教養」
【レポート】
NASSCOM 『Indian Tech Start-up Ecosystem』

【Web】
https://yourstory.com/2019/11/unicorns-breed-unicorns-india-startup-story?utm_pageloadtype=scroll
https://www.fortuneindia.com/bengaluru-buzz/can-ola-electric-mobility-make-it-big/103018
https://www.hurun.net/EN/Article/Details?num=A38B8285034B

重松 秀樹(しげまつ・ひでき)
Rebright Partners Pte Ltd Associate-Japan
慶應義塾大学卒業後、三菱UFJ銀行に入社。現在、Rebright Partnersのアソシエイトとして、インド・ASEANのスタートアップへの投資活動に従事し、更に日本企業とスタートアップ連携をつくっている。

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