教室のアリ 第41話 「6月3日」②〈救世主〉
オレはアリだ。長年、教室の隅にいる。クラスは5年2組で名前はコタロー。仲間は頭のいいポンタと食いしん坊のまるお。
社会のテストが始まって20分、ダイキくんは早めの休憩(睡眠)に入った。このテストでダイキくんが平均点を取れなければ野球ができなくなるかもしれない。オレたちの【ダイキくん元気復活プロジェクト】の山場だ。
「どうだ?サクラちゃんの答えは見えるか?見えたら教えてくれ」オレは大声で蝿に叫んだ。
「おう!よく見えるぞ!準備はいいか?」蝿は答えた。
「いつでも💩出せるぜ!」まるおはスタンバイオッケーのようだ。
「(1)は(ウ)だ!アリ、聞こえたか?」まるおは頷くと、素早くダイキくんのテストの上を歩き(ウ)の少し横に💩をした。アリにとってはかなり臭いが、おそらく人間にはわからないだろう。
「(2)は、(2)は…よく見えない…くそっ。えっと…」蝿は答えを見ようとサクラちゃんの上をぐるぐる回った。少し疲れたのか、壁に張り付いた、その時!
「バシッ!!」ヒラヤマ先生が丸めたノートを振った。蝿は力無く床に落ちた。ティッシュで優しく包まれ、黒板下のゴミ箱に捨てられた。蝿を巻き込んでしまった申し訳なさと、このままではダイキくんを救えない危機感でオレたち3匹は混乱した。
「ごめんな、蝿」まるおが呟いた。
「やばいぞ、これはやばい」ポンタは今をどうするかを考えている。オレはだらしなく、ボーッとしてしまった。2分ぐらい経っただろうか、どうするべきかわからず、窓の方を見ていると、見たことのある飛び方で知り合いが飛んできた。
「どうやら、うまくいってないみたいね、アリさんたち。心配だから見にきたら、案の定ね」オレたちはその美しい羽の動きに、少しの希望を感じた。
「あなたたちの悪だくみはわかっているわ。誰の答えを見ればいい?」蝶々さんは聞いてきた。
「廊下側にピンクのリボンをしている子がいるよね。あの子の答えを教えてほしい」
「わかったわ。でも、私は蝿と違って目立つの。ここにいれるのは数分よ」
「短い時間でもいい。答えを教えてほしい」オレが頼むと、蝶々さんはサクラちゃんの上を飛んだ。
「(2)は(イ)。(3)も(イ)よ」聞いたまるおはブリブリと💩をした。
「これくらいが限界よ」
「(4)は?」オレは聞いた。
「もう無理。子どもたちみんなが私を見ているわ」ヒラヤマ先生の手にはまだ丸めたノートがある。蝶々さんは蝶のように舞い(蝶だけど)カーテンの間を通り帰っていった。
「まだ、3問しか💩が出来てない!」まるおは焦りを感じさせる大声を出した。ポンタは新たな作戦を考えているように見えた。ダイキくんはまだ寝ている。サクラちゃんはだいたい答えを書き終えたようだ。テスト開始から35分が過ぎた。残りは10分。スズキセイヤに憧れている少年にはこの10分がとても重要なのだ。オレは覚悟を決めた。
「オレが登る。サクラちゃんの机に登る」
「いや、オレが登る」まるおは言った。時計の針は動き続けていた。💩をして身が軽くなったまるおはダイキくんの机を軽い足取りで降り、壁際を進み、サクラちゃんの机を登り始めた。
「コタロー、ポンタ!💩は頼むぞ!」オレとポンタは頷いた。
先生はまだ、ノートを手にしていた。