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忙しい脳を癒す - Dr. ロミ・ムシュタックが語る慢性ストレスとの向き合い方

ロミ・ムシュタック博士のTalks at Googleでの講演内容をまとめます。


現代社会において、慢性的なストレスは多くの人々が直面する深刻な問題となっています。特に、Google のような高度な技術企業で働く人々は、常に高いパフォーマンスを求められる環境にあり、慢性的なストレスやバーンアウトのリスクにさらされています。この問題に取り組むため、神経学者であり統合医療の専門家でもあるロミ・ムシュタック博士が、Talks at Google で「忙しい脳」の問題とその解決策について講演を行いました。

ムシュタック博士の経歴と専門分野

ロミ・ムシュタック博士は、神経学、統合医療、マインドフルネスの分野で20年以上の指導経験を持つトリプルボード認定医です。南アジア系移民の娘として育ち、イリノイ州の小さな町の公立学校で学んだ後、医学部に進学し、脳科学の分野である神経学を専攻しました。彼女は、脳神経科医のわずか5%未満しか女性ではなかった時代にこの分野に進出し、キャリアの中でバーンアウトと救命手術の両方を経験しています。

現在、ムシュタック博士は受賞歴のある講演者であり、全米で認められたウェルネスの専門家として活躍しています。フォーチュン500社のリーダー、プロのアスリート、世界的な協会で、個人とチームのパフォーマンス、リーダーシップ、メンタルヘルスについて講演やコンサルティングを行っています。

「忙しい脳」の問題

ムシュタック博士は、Google の従業員を含む多くの高性能な専門家が「忙しい脳」の状態にあると指摘しています。この状態は、慢性的なストレスによって引き起こされ、以下のような症状を伴います:

  1. 睡眠障害

  2. 集中力の低下

  3. 不安

  4. 疲労

  5. ADHDの症状

これらの症状は、新しい仕事、結婚、離婚、その他の人生の出来事など、様々な要因によって引き起こされる慢性的なストレスの結果として現れます。

慢性的なストレスの影響

ムシュタック博士は、慢性的なストレスが脳に及ぼす影響について詳しく説明しています。具体的には、以下のような影響があります:

  1. 神経炎症: 慢性的なストレスは、脳の視床下部に神経炎症を引き起こします。

  2. 概日リズムの乱れ: 神経炎症は体内時計を狂わせ、睡眠覚醒サイクルを阻害します。

  3. 認知機能への影響: 記憶力、処理速度、集中力が低下します。

  4. 気分の変化: 不安やイライラが増加します。

  5. 身体的健康への影響: 慢性的なストレスは、甲状腺ホルモン、ビタミンD3レベル、インスリン抵抗性など、身体の他の部分にも影響を与える可能性があります。

さらに、ムシュタック博士は、多くの人が「刺激剤と鎮静剤のサイクル」にはまっていると指摘しています。これは、日中はカフェインなどの刺激剤を摂取し、夜はアルコールなどの鎮静剤を必要とするというサイクルです。このサイクルは、実際には慢性的なストレスや神経炎症を悪化させる可能性があります。

brainSHIFT プログラム

これらの問題に対処するため、ムシュタック博士は「brainSHIFT」と呼ばれる8週間のプログラムを開発しました。このプログラムは、ハイパフォーマンスで成功志向の専門家を対象としており、慢性的なストレスが脳に与える影響を軽減し、仕事のパフォーマンスや健康状態を向上させることを目的としています。

brainSHIFT プログラムは、以下の5つの重要な領域に焦点を当てています:

  1. 睡眠

  2. ホルモン

  3. 炎症マーカー

  4. 食物と燃料

  5. テクノロジー

プログラムの具体的なステップは以下の通りです:

ステップ1: brainSHIFT テストで現状を把握する
まず、神経心理学に基づいたストレス度診断テストを受け、自身の脳のストレス状態を客観的に把握します。このテストは20の質問からなり、睡眠、集中力、気分、身体的健康など、慢性的なストレスが脳に与える影響を測定します。

ステップ2: 7日間睡眠チャレンジ
7日間、規則正しい時間に就寝・起床し、質の高い睡眠を確保することに集中します。就寝前に「ブレインダンプ」を行い、仕事やプライベートのTo Doリスト、感情などを紙に書き出すことで、頭の中を整理します。就寝1時間前は、デジタル機器の利用を控えます。必要に応じて、マグネシウムグリシネートや5-HTPなどのサプリメントを医師に相談の上で摂取します。

ステップ3: 就寝前のデジタルデトックス
就寝1時間前は、電子書籍リーダー、テレビ、スマートフォン、パソコンなどのデジタル機器の利用を控えます。代わりに、五感を落ち着かせるようなリラックスできる活動、例えば食器洗い、散歩、ペットと触れ合うなどを行います。

ステップ4: マイクロブレイクとサウンドヒーリング
集中力が途切れた際は、短い休憩をこまめにとります。マインドフルネス瞑想に加え、サウンドヒーリングやバイノーラルビートといった音による癒しを取り入れることで、より深いリラックス効果を得られます。

ステップ5: 食事は「喜び」と「血糖値コントロール」を両立
ストレスを軽減するために、極端な食事制限ではなく、自身が「喜び」を感じる「comfort food」を積極的に食事に取り入れます。ただし、血糖値の急上昇を抑えるために、1時間以内に糖分とカフェインを同時に摂取するのは避け、どちらか一方に絞ります。

ステップ6: 良質な脂質を積極的に摂取
オメガ3脂肪酸を豊富に含む良質な脂質(オリーブオイル、魚油など)を毎食1〜2食分摂取することで、脳の機能を高め、集中力やエネルギーを回復させます。

ステップ7: ホルモンバランスを整える
慢性的なストレスは、甲状腺ホルモンやビタミンD3レベルなどに影響を与え、集中力の低下や不安感などを引き起こす可能性があります。身体の不調を感じたら、医療機関を受診し、必要があれば血液検査を受けてホルモンバランスをチェックします。

ステップ8: 継続可能なbrainSHIFTを見つける
8週間後、再びbrainSHIFTテストを受けて変化を確認します。プログラム終了後も、自分に合ったbrainSHIFTを1つ以上継続することで、長期的な効果が期待できます。

職場での実践

ムシュタック博士は、brainSHIFTプログラムを職場で実践する方法についても提案しています:

  1. チームまたは組織全体でプログラムを実施し、参加者同士で進捗状況を共有したり、励まし合ったりすることで、モチベーションを維持しやすくなります。

  2. ブッククラブ形式で、書籍『The Busy Brain Cure』を読み合わせながら、プログラムを実践していくのも有効です。

  3. 組織の文化や従業員のニーズに合わせたプログラムを検討し、柔軟に取り入れていくことが重要です。

希望の担い手になること

ムシュタック博士は、人々が互いに「希望の担い手」になることの重要性を強調しています。彼女は、人々が互いに支え合い、希望を与え合うことで、困難な時期を乗り越えることができると信じています。特に、高ストレスな環境で働く専門家にとって、この相互支援は非常に重要です。

ムシュタック博士のTalks at Googleでの講演は、現代社会における慢性的なストレスの問題とその解決策に焦点を当てています。彼女の提案するbrainSHIFTプログラムは、科学的な根拠に基づいた実践的なアプローチを提供し、特にGoogle のような高度な技術企業で働く人々にとって有益なものとなっています。

このプログラムは、睡眠の質の向上、デジタルデトックス、適切な栄養摂取、定期的な休憩、ホルモンバランスの管理など、包括的なアプローチを採用しています。これらの習慣を日常生活に取り入れることで、慢性的なストレスによる脳への悪影響を軽減し、より健康的で生産的な生活を送ることができるようになります。


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