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『ヒトラー兄弟の誓い』悪の代名詞となった姓を引き継ぐ最後の世代に迫る

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ヒトラー家の複雑な家系図を紐解くとアドルフの甥の存在が浮かび上がってくる。ウィリアム・パトリックはヒトラーの異母兄弟(兄)の息子、つまりアドルフの甥の立場を利用してナチ党に籍を置くようになる。一時は偉大な指導者の親族として恩恵にあずかるも、次第に叔父から疎まれドイツを離れる。第二次大戦の真っ只中。アメリカに渡ったウィリアムは民衆の注目の的となる。戦中は反ナチスの講演者、のちには自ら志願して衛生兵として従軍する。しかし戦後になると忽然と表舞台から姿を消し、ヒトラー姓を隠して生活を始める。監督は今でも存在するヒトラーの血筋を探すためウィリアムの足跡をたどる。

この作品は映画というよりもテレビ向けドキュメンタリーだ。大部分の時間はアドルフ・ヒトラーの甥、ウィリアム・パトリックの半生を扱っている。ウィリアム・パトリックとその母親は第二次大戦中にアメリカに渡り、反ナチを掲げて全米を講演して回る。さらに彼は米国と共に戦うためにFBIの入念な身辺調査をパスして軍に入隊する。元ナチス、それもアドルフの甥となればマスコミは放っておかない。人々の注目の的となったことを当時の新聞が伝えている。戦後は一転してヒトラー姓を隠して小さな町で暮らしたそうだ。これだけであれば「こんな人物がいたんだ、知らなかった」と漠然とした感想しか持たなかっただろう。しかし終盤に進んでいくにつれてこの作品が結構な問題作であることが明らかになる。

監督は表舞台から消えたウィリアム・パトリックの消息を追うなかで、彼の3人の息子たちの存在を突き止める。名前だけを頼りに地元の学校を頼り、残っている年鑑から本人の顔写真を入手。更にはウィリアムの息子と仲の良かった友人にインタビューを敢行する。友人は3人の息子たちがある秘密の誓いを立てていると語る。それこそがこの作品のタイトル『ヒトラー兄弟の誓い』なのだ。息子たちは「子どもを持たないことでヒトラー家の血筋を途絶えさせると誓った」とされている。監督は息子の1人に突撃取材を試みるがあっさり断られてしまう。3人はあらゆる取材を拒否し、カメラを向けらても語ろうとしない。地域社会で静かに暮らし、真相を墓場まで持っていくのだろう。

望んでヒトラー家に生まれたわけではない人々が、その特殊な血筋ゆえに追いかけられるのは心が痛い。その一方で彼らが何を思っているのか知りたい、という好奇心もある。ドイツを遠く離れて静かに暮らすヒトラー家の人々。彼らにのしかかる重圧は想像を超えている。この作品の最後にはある専門家が”3人の誓い”に対して1つの見解を示している。ヒトラーの血が不純だとして根絶やしにするのは、ヒトラーが唱えた優生学そのものだと指摘する。ヒトラー家を途絶えさせるための誓いが孕む危険性。その血筋を引く人々の行き場のなさにただ悲しくなる結末だった。

この作品は2度見ると良いかもしれない。1回目は純粋にヒトラー家への好奇心を満たすために。2回目は好奇心の対象となっているヒトラー家の人々の気持ちになってみる。人の血筋を扱う作品は、描き方次第でとんでもない差別を生み出すことになる。この作品を見た視聴者がヒトラー家の血筋に何を思うのか。一人ひとりの良心が試されているのかもしれない。

原題:Le serment des Hitler 監督:エマニュエル・アマラ(2014年)


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