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『イントゥ・ザ・インフェルノ:マグマの世界』活火山の上で科学と信仰が交わる

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ケンブリッジ大学の火山学者クライブ・オッペンハイマーを案内役に北欧・東南アジア・太平洋・アフリカ・朝鮮半島などの山々を巡る。火山学や考古学の知見を紹介すると共に、世界各地の火山と暮らす人々の信仰のあり方を示す。

日本人が火山について学ぶのはおそらく中学生の頃ではないだろうか。活火山・休火山・死火山という名称や火山の形状について学んだ記憶がある。しかし気象庁のサイトによると火山は歴史だけで休火山や死火山と断定することはできないそうだ。長年噴火の見込みがないと思われていた山が突然火を吹くことも無きにしもあらず。一般市民の知らないところで専門家が日夜モニタリングしている。

Netflix制作のこちらのドキュメンタリーは世界各地の山々を紹介している。今なおマグマが吹き出す山もあれば、かつて大きな噴火があったとされる山も登場する。火山がテーマのドキュメンタリーという謳い文句だったので、科学的な側面や噴火に対処する方法を扱っていると思い込んでいた。しかし冒頭から「火山と信仰」というテーマがかなりのウエイトを占めていた。バヌアツの火山と精霊信仰。アイスランドで起きた火山噴火を描いたと思われる中世の写本。インドネシアの火山にまつわる儀式や民間人が建設する教会。極めつけは中朝国境地帯に跨る白頭山と金正日の伝説。

考えてみれば人間が遭遇する自然災害の中で最も予測できるのが火山の噴火かもしれない。科学的な自然観測ができない時代に台風や地震は突如として降りかかる災いだったはずだ。対象的に火山の噴火は一度起きれば必ず次の世代に語り継がれただろう。口伝の言い伝えを受け継ぐうちに人々は山を拝み、山をなだめ、山を畏れる風習が生まれてきたのかもしれない。

文化や言語が違えど火山と信仰を結びつける営みが生まれるのは興味深い。そしてこのドキュメンタリーのタイトル自体が『イントゥ・ザ・インフェルノ』。ダンテの神曲に登場した地獄のイメージをマグマに重ねているのだ。地獄と言いながらも真っ赤なマグマが洪水のように流れる景色には美しさを感じる。リスクを承知で火山と暮らす人々がいる。火山が持つ多面的で奥深い姿を教えてくれる作品だった。

原題:Into the Inferno 監督:ヴェルナー・ヘルツゥオーク(2016年)


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