一般社団法人を使った相続税対策スキームはオワコンになってしまったのか?
一般社団法人等は設立が容易であり、持分が存在しないことなどから、同族オーナーグループが実質的に支配する一般社団法人等に財産を移転した後、役員の交代によって支配権を移すことによる相続税回避の財産承継を行うスキームが一部において横行していたことは、会社を経営している方だと耳にしたことは多いと思う。
しかし、平成30年度の税制改正で、この一般社団法人等を使った節税スキームを防止するため、相続税法66条の2「特定の一般社団法人等に対する課税」が創設されている。
これにより、一般社団法人等の理事(同法人等の理事でなくなった日から5年を経過していない者を含む)が死亡した場合において、この一般社団法人等が特定一般社団法人等に該当するときは、この死亡した理事の相続税の計算において、この特定一般社団法人等がその被相続人からこの特定一般社団法人等の純資産額のうち一定額を遺贈により取得したものとみなし、相続税が課されることになった。
「一般社団法人を使った相続税対策スキーム」はもうオワコンとなってしまったのか?今回は、その点について解説していく。
なお、この記事は、2018年1月5日の肥田木会計事務所ホームページ記事をアップグレードして掲載したものである。最後に、追加のアップグレード情報も記載しているので、併せて読んでいただきたい。
一般社団法人の相続税回避に防止策
2018年度税制改正において、一般社団法人の設立を利用した過度な節税にメスが入ります。
社団法人の節税とは、社団法人は企業の株式に当たる持ち分が存在しないことから、相続税がかからない制度を利用したものです。
(例えば、親が代表者となって社団法人を設立し、資産を移した後、子どもを代表者に就かせ、法人の支配権を継承すると、資産には相続税がかからず、非課税で資産を相続できることになります。)
一般社団法人の設立を利用した過度な節税の防止策
税制改正大綱によると、節税封じ策として、
まず、個人から一般社団法人又は一般財団法人に対して財産の贈与等があった場合の贈与税等の課税については、役員等に占める親族等の割合が3分の1以下である旨の定款の定めがあることなど、贈与税等の負担が不当に減少する結果とならないものとされる現行の要件のうち、いずれかを満たさない場合に贈与税等が課税されることとし、規定を明確化します。
次に、特定の一般社団法人等に対する相続税の課税として、「特定一般社団法人等(*1)」の役員(理事に限り、相続開始前5年以内のいずれかの時に役員だった者を含む)が死亡した場合には、その特定一般社団法人等が、その純資産価額をその死亡時における同族役員(被相続人を含む)の数で除して計算した金額を被相続人から遺贈により取得したものとみなして、その特定一般社団法人等に相続税を課税することとします。
(*1)「特定一般社団法人等」とは、(1)相続開始の直前における同族役員数の総役員数に占める割合が2分の1超、(2)相続開始前5年以内において、同族役員数の総役員数に占める割合が2分の1超の期間の合計が3年以上、とのいずれかの要件を満たす一般社団法人等をいう。また、「同族役員」とは、一般社団法人等の理事のうち、被相続人、その配偶者又は3親等内の親族その他その被相続人と特殊の関係がある者をいう。
つまりは、現行は相続税がかからない社団法人について、親族が代表者を継いだ場合は非課税の対象とみなさず、社団法人に相続税を課税するように見直すことになります。
この改正は、2018年4月1日以後の一般社団法人等の役員の死亡に係る相続税について適用されます。
ただし、同日前に設立された一般社団法人等については、2021年4月1日以後の一般社団法人等の役員の死亡に係る相続税について適用されます。
一般社団法人の設立を利用した税務スキームは、税制改正されるとどうにもならないものでしたので、そもそも手を出すべきものではなかったものです。
個人から一般社団に資産を移す際の譲渡所得課税が無駄になますし、一回移せば今後は相続税はかからないというコンサルタントの口車に乗せられて、借金して資産を移しているケースも聞いておりました。
このケースに限らずこのような無責任な提案をし膨大な報酬をいただいている悪徳コンサルティングは少なからず拝見しますので、納税者の方々は気を付けていただければと思います。
~以下、追加アップグレード情報~
平成18年の公益法人制度改革以来、一般社団法人や一般財団法人は相続税を大胆に節税するために利用できる法人として注目されてきた。便利な節税手法として雑誌や書籍、専門家のブログなどで盛んに紹介された。
一般社団法人は公益性が要求されず、登記だけで誰にでも設立が可能で、事業目的にも制限がない。
そこで、一般社団法人に財産を保有させ、家族で代々、実質的な資産の承継が行われる可能性がある場合には、同族理事の死亡を課税時期として、一般社団法人に相続税を課する制度が創設されることになったのが、平成30年度税制改正による一般社団法人に対する相続税課税の創設である。
制度のイメージとしては、下記の通りである。
相続税法66条の2 が新設され、具体的な要件は以下のようになった。
一般社団法人等(公益社団法人、非営利型法人などを除く。)の理事である者(当該一般社団法人等の理事でなくなった日から5年を経過していない者を含む。)が死亡した場合において、その一般社団法人等が特定一般社団法人等(次に掲げる要件のいずれかを満たす一般社団法人等をいう。)に該当するときは、その特定一般社団法人等が、その被相続人の相続開始の時における当該特定一般社団法人等の純資産額をその時における同族理事の数に1を加えた数で除して計算した金額に相当する金額を被相続人から遺贈により取得したものとみなして、当該特定一般社団法人等に相続税を課する。
イ 相続開始の直前における同族理事数の総理事数に占める割合が2分の1を超えること。
ロ 相続開始前5年以内において、同族理事数の総理事数に占める割合が2分の1を超える期間の合計が3年以上であること。
要件を箇条書きにすると次のようにまとめられる。
1.公益社団・財団法人、非営利型法人は規制の対象外
2.相続開始直前に同族理事の割合が2分の1を超える一般社団法人もしくは、相続開始前5年内において、同族理事の割合が2分の1を超える期間の合計が3年以上の一般社団法人(特定一般社団法人等)が対象
3.同族理事が死亡した時に課税
4.同族理事には、理事でなくなってから5年を経過していない者を含む
1については、法人税法における非営利型法人になれば、今回の相続税課税の対象にはならないということだ。今後、一般社団法人は非営利型にするというのが実務での課題の一つになる。
2については、同族理事が過半数を占める一般社団法人が課税の対象ということだ。判定は理事のみで行い、社員や監事は含まれない。また、5年縛りが設けられていて、同族理事の死亡直前に親族外の理事を入れて、同族支配を外す租税回避を防止している。相続開始前5年以内に同族支配の期間がトータルで3年以上だったら課税対象となる。要するに同族支配をしてきた一般社団法人が同族理事を2分の1以下にしても、そこから2年以内に相続があれば特定一般社団法人等に該当するということになる。
3は、課税のタイミングであり、それは同族理事の死亡時としている。
4については、死亡直前に理事を辞任して課税を逃れることが考えられるので、同族理事には、理事でなくなってから5年を経過していない者を含むことになっている。
具体的には、一般社団法人は、死亡した理事の相続税申告書に納税義務者として登場する。一般社団法人の純資産は理事の遺産に加算され相続税の総額が計算される。純資産はすべて一般社団法人に遺贈されたものとみなすので、按分計算によって純資産に係る相続税は一般社団法人に割り振られる。ただ、純資産によって相続税率が押し上げられれば、相続人が負担する相続税にも影響がでる。
当然ながら、基礎控除の計算では相続人にカウントされないし、2割加算の適用もある。
なお、理事交代時の贈与税課税がない
ちなみに、理事の追加や交代時に贈与税課税はない。それに対し,株式会社だと株式の移動には売買や贈与が必要なので、税負担が生じる。
例えば父親は早めに退任し、子、孫を順に理事にして理事の死亡が起きないようにすれば、相続税課税はいつまでも起きないことになる。余裕のある段階で理事を交代し5年縛りに抵触しないようにすることはできる(人はいつ死ぬか分からないので、この方法にもリスクは残るが…)。
なぜ理事の交代時に贈与税を課税しないのかというと、理事交代時の贈与税課税は無茶だからだろう。仮に理事になった家族がすぐに病気で退任し別の家族が理事になった。このように短期間で理事が交代する場合、その度に贈与税を課税するのは酷なのだ。課税当局としても贈与税を課さないことにしたのはやむを得なかったのだろう。
なお、息子を理事にして資産管理のための一般社団法人を設立し父親は理事にはならない。これは有効と思われる。株式会社でも息子を100%株主にして設立することは一般に行われているからである。
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