空き家再生プロジェクト(その1)
近所の廃屋の解体
2020年、現在、全国の空き家率は現在、約13.6%と言われていますが、地域によってばらつきがあり、過疎地に行くと、空き家率は高まる傾向にあります。お近くの横須賀市では、アクセスしにくい谷戸の山の上などに空き家が集中しています。私の住んでいる逗子市は22.9%という数字が公開されていますが、別荘も統計上の空き家に含まれるため、実際の空き家は恐らく全国平均レベルくらいではないかという気がします。
今回は、私がこれまで行なってきた「空き家再生プロジェクト」について、以下、数回に分けてご紹介していきたいと思います。私が行っている「空き家再生プロジェクト」は、知り合いなどから相談を受けた空き家の改修を、地域の方々の手を借りながらお手伝いする「コミュニティDIY」の活動です。
空き家再生の活動で素晴らしい事例は沢山あります。中でも、アレックス・カー氏が監修した小値賀島の空き家再生は、歴史的な資産価値が高い古民家を選んで、町への寄付をお願いしてまわったという面白いケースです。写真は「旧藤松家住宅」ですが、古民家レストランとして再生され、活用されています。カー氏の選択眼はとても確かで、再生されている古民家はどれも立地といい、建物の質といい、納得のいく良いものばかりが選ばれています。このように、残すべきものをきちんと残したり、使う価値があるものをうまく使えるように直していくのが空き家再生の基本だと思います。小値賀島の空き家再生は、助成金など多額の公金を使った自治体主導の活動ではありますが、結果的に地域の文化をうまく保存活用した好事例です。このプロジェクトが無ければ、再生された古民家が廃屋となり失われてしまっていたと考えれば、プロジェクトが果たした文化的役割はとても大きいと言えます。小値賀島はとてもアクセスに時間のかかる場所ではありますが、再生された古民家は一棟貸しの古民家ステイや古民家ゲストハウスとして実際に宿泊可能ですので、興味のある方は無理してでも訪ねる価値は十分にあると思います。ぜひお勧めしたいと思います。
長年住み継がれてきた歴史のある古民家はそれだけで愛おしく、できれば残して有効活用したいという気持ちが、私が空き家再生プロジェクトを続けている原動力です。
しかし一方で、修繕されても有効に使われず、またすぐに空き家に戻ってしまうのはもったいないことです。程度の悪い空き家や、立地が悪く使いにくい空き家は、まちの断捨離と思い切って、解体処分するという方向性もあるのではないかと思います。そこで、「空き家再生プロジェクト」をご紹介していく前に、敢えて、実際に私の住む逗子市の小坪地域で行った廃屋の解体についてとりあげ、ご紹介したいと思います。
空き家は、放っておくと倒壊の恐れがある廃屋になり、火事や犯罪の起きる可能性が高まったり、景観的にも衛生的にも問題のある状態になったりする可能性があります。地域全体の雰囲気も悪くなり、廃屋があるために地域の資産価値が下がってしまうということも起こり得るため、地域の住民が、自分たちの課題として取り組むことも重要です。
しかし、空き家の持ち主と連絡がつかなかったり、何らかの事情があって所有者が同意しないため何もできないという状況もよく見られます。こうした状況を反映して、行政代執行という手続きを取ることができるよう法整備も行われました。行政代執行とは、危険な状態の廃屋を行政が代行して解体処分し、その費用を所有者に請求することができるという制度です。
写真は、最近、私が住む逗子市小坪のご近所で、住民たちの手で解体された廃屋です。戦後間もなく建てられた平屋で、10年以上も空き家になっていた間に屋根が抜け建具が外れ、雨が中に吹き込み、台風などがあるたびに少しずつ何かが周辺に飛び、危険な状態になっていました。本来は、所有者の責任で解体するべきものですが、元の居住者が亡くなった後、相続人は20名を超え、なかには海外に住んでいて連絡が全く取れない方もいるということでした。行政代執行を行うこともままならない、こうした状況は全国に多数あるようです。この廃屋も、子供達の通学路にあり、まだ小さかった娘は近くを通るのを怖がっていました。
このケースでは逗子市や自治会などの協力のもと、地域住民が自分たちで解体しようと立ち上がり動きました。まず、草刈りと片付けを行い、出たゴミは自分たちで運び、仕分けしたうえで、市の協力を得て処分しました。上の写真は半日かけて15名ほどの地域住民がボランティアで参加し、清掃した後の状況です。大きな木材は電動鋸で切り、鉄部材はグラインダーで切るなどして運べるサイズにし、釘が刺さったままの木材に気をつけながら処分の作業を進めました。廃屋は倒壊の危険があるため中には極力入らないようにし、建物周りを中心に清掃しました。
その後、近隣の工務店の協力を得て住民たちで解体しようという計画だったのですが、この段階で、地元の工務店の方の判断で、周りの建物に倒れかかるなどの危険があるため、すぐに解体するのは難しいということになり、作業は暗礁に乗り上げてしまいました。この状態で放っておくのも危険で、困ったなぁという状況でした。地域でも手分けして、解体業者の方に見積もりをとってみたりしていたのですが、費用の負担をしていただくことができる所有者の方も不在で、重機が入らないため解体費用も嵩み、どうするべきか頭を抱えていたところでした。
そんななか、逗子市の協力で、なんと消防署の職員の方々が動いてくださいました。
写真は、消防署の方々による解体作業の様子です。まさか、消防署の方が解体作業をしてくださるなど、建築家として考えたこともありませんでした。解体工事=解体業者という業界の固定観念が頭にあったからだと思います。考えてみれば、確かに、火事場で延焼を防ぐために周辺の建物を解体する必要などもあるのだと思います。消防署の方からすれば、通常業務にはない異例のお仕事だったのだと思いますが、本当にありがたいことでした。
写真は消防の方々が解体作業をしてくださった後の状態です。材木や木端、トタン板などが積んでありますが、これをまた、住民の手で仕分けし、片付けていきます。
実は、この廃屋は、2017年に仲間と企画して行った、「小坪路地展」のテーマ「City Repair Day」の中で、プロジェクトを立ち上げ、自分たちで解体しようと計画したことがあったのです。この廃屋は2017年の時点で既にかなり荒廃しており、これを自分たちの手でなんとか綺麗に解体して、その活動自体を一つのアート作品にしようという計画でした。
https://www.facebook.com/cityrepairday/
私は仲間と市役所に行き、空き家の状況を聞き、所有者の一人にお会いして話を聞いたりしました。その方から所有権が複雑に絡み合っていること、自分一人の判断では解体の許可が出せないこと。自分もあの廃屋の片付けなどは何度も行っているが、手を焼いていることなどを聞きました。勝手な判断で解体作業を進めると、親戚との関係にも影響するということだったため、その時は、その方の個人的な事情を尊重して解体作業をご遠慮することにしたのです。
今回の解体の主導者は自治会でも活躍されている地域の住民ですが、我々が諦めた状況に対し、もっと積極的に取り組まれ、解体を実現するところまで漕ぎ着けました。私が前に計画していたこともご存知で、お声がけくださり、お手伝いさせていただいたのですが、自分達が不可能と判断して諦めていたことを、根気強く取り組むことで現実されたことに、今回とても感心しました。「やっぱりやればできるんだなぁ」という感想と、とにかく熱意と行動力が大事だなという気持ちを新たにした出来事でした。
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