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空き家再生プロジェクト(その4)

鹿児島県岸良の古民家再生(2014〜16年)第2回改修ワークショップ

第2回改修ワークショップはちょっと欲張りなリクエストからスタートしました。「テラスが欲しい。できれば車椅子でも建物に入れるようにスロープも作りたい。」というのです。デイサービスのイベントスペースとしても使われるため、利用者には車椅子の方がいらっしゃいます。前回作ったゆったりした階段でも中に入るのには一苦労、行事などする際に困っているということで、なんとか叶えて差しあげたいリクエストでした。

外構スケッチ2

すでに一度行って建物や敷地の実測も行っていたので、事務所でスケッチや図面を描き、必要な材料をリストアップして送り、事前に準備しておくようにお願いしました。上のスケッチにはまだスロープが描かれていませんが、その代わり、周りをめぐる綺麗な用水を引き込んだ行けを作る提案をしています。何度かやりとりして、池をやめ、テラスをもっと広げ、そこにアクセスするスロープを計画しました。テラスはできるだけ広くしようということになり、最終的には建物内の座敷と同じくらいの広さになりました。

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写真は到着した時に撮ったものです。お願いしていた地元産の杉材が積まれています。地元の皆さんが、可愛らしい花壇を作り、「きしたんカフェ」という看板を立てくださっていました。周りに転がっている丸太は屋外でカフェなどのイベントをやる際の椅子。巨大な糸巻きのように見えるのは木製の電線用ドラムをもらってきてテーブルがわりに使っているんだそうです。こういうワイルドな発想と廃品利用のアイデアもなかなか。やるな、さすが「DIY先進地岸良」。DIY先進地と呼ぶことにしたのは、前回体験したDIY地域格差の実感から、こう理解することにしたからです。地名は岸良(きしら、と読みます。きしたんカフェのきしたんとは地元の岸良弁で「岸良の」とか、「岸良の人」というような意味らしい。まるでアメリカとアメリカンの関係みたいです。

また、テラスが長持ちするためには簡易にでも屋根が必要です。ウッドデッキは雨がかかるとどうしても腐りやすくなってしまうからです。南側なので、屋根で部屋の中が暗くならないように、できれば半透明の波板素材がいいということで地元で探していただいたところ、畜産などで使う塩ビの波板が安く手に入ることがわかりました。おそらく耐久性はポリカーボネート板には劣るけど、数分の1の値段が魅力で、これを使うことにしました。

大床造り(うどこづくり)

今回も、古民家のバリアフリー化がテーマです。鹿児島の古民家は、南国だからでしょうか、本州のものより高床で、床レベルは、地面から80センチほどありました。そのためか、床下には、通常は屋根を支えるのに使うような立派な梁材が渡してあります。上の写真、ちょっとわかりにくいのですが、縁の下の写真です。奥に丸太の太い梁のような部材が写っています。現地の方にお聞きしたところ、この梁のことを「うどこ」と呼ぶと教えてくださいました。事務所に帰って調べてみると、大床造り(うどこづくり)という床の作り方だそうで、古いこの地域の古民家に見られるものだそうです。床下の作りにも地域性があるのだと勉強になりました。

平面図4

この高い床に玄関から上がるのは確かに厄介で、そのために前回のワークショップでは緩い階段を別に取り付けたのですが、車椅子用のスロープとなるとできれば12分の1程度の勾配にしたいため、10メートル近くのスロープが必要ということになります。古民家でバリアフリー改修をするケースが少ないと書きましたが、理由は恐らく、このスロープを確保する場所が取りにくく、また、あまり大きなスロープを作ってしまうと、古民家の玄関周りの本来の雰囲気があまりに変わってしまうから諦めるケースが多いからではないかと推測します。

今回の改修では古民家本来の形にこだわるというよりは、新しい古民家のあり方をデザインしたいと考えていたので、スロープは、テラスと一体的に作ることとしました。上の図面で一番下にスロープが描かれています。左側から右に向かって上り、テラスの床レベルに上がります。テラスと座敷の床レベルはほぼ同じなのでこのまま建物の中に入ることができます。

また、スロープは、全て木材で作ると地面に接する部分はいつも湿った状態になってしまい腐りやすくなります。そこで、スロープの一番低い部分はコンクリートで作り、その上に木製のスロープが連続するデザインを考えました。

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もう一つ、バリアフリー化の困難は、玄関回りです。

テラスから、既存の玄関にアクセスする計画としたため、玄関にある建具を一旦外し、80センチ持ち上げて取り付けることとします。これも、古民家のバリアフリー改修事例が少ない理由だと思いますが、上の写真は既存の建具を外し、欄間に当たる建具上部の壁を、床が上がる分、開口し、一旦取り外した玄関の建具を持ち上げて取り付けるための準備をしているところです。古民家では玄関部分の屋根が低くなっているものが多く、このように建具を持ち上げる余裕がないものが多いのです。鹿児島のこの古民家ではたまたま、玄関の上に垂壁があり、そこの屋根が下がったりしていなかったため、開口を作ることができました。

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上の写真は、新しい床レベルに合わせて、敷居を設置している様子を部屋内から見たものです。この敷居の上に、元ついていた建具を取り付けることになります。また、踏み込みの部分には座敷と同じレベルになるように床を張り、下は床下収納としました。これはちょっと大変な作業になるかなと思いましたが、大工経験のある地元のIさんたちが、ノミなども使いながら腕を振るってくださり、丁寧に仕上げてくださいました。

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完成すると、スロープから玄関に入り、居間を通ってそのままゆったりとした便所や手洗い場にもアクセスできるバリアフリーの動線ができました。写真は車椅子を借りて来て、ワークショップ参加者の学生が体験してみているところです。

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