許すたび海の広がる星にいてきみは鯨になってしまった
許すたび海の広がる星にいてきみは鯨になってしまった/藤井
2024.6.20うたの日「海」
「許す」という行為は、0から1になったものを0に戻すことではなく、自分の中の器を2に広げることだと思う。
許しがたいことが海だとして。
許すというのは、その波が引いていくことではない。
海になってしまった陸地を諦めることだ。
陸を海へと差し出すことだ。
もちろん海にもさまざまな大きさがある。
LINEの返事を忘れていたとか。
靴下を裏返しのまま洗濯したとか。
他の人を好きになってしまったとか。
ひどいことを言ってしまったとか。
私にとってはささやかな水たまりほどの言葉が、あなたにとっては海の底に沈んでしまうような重さを持っていたりもする。
そして、どんな大きさの海が許されたとしても、そこはもう陸地には戻らない。
一度放った言葉を飲み込むことはできないから。
過ちを起こす前に時間を巻き戻すことはできないから。
じゃあずっと海と陸が追いかけっこしていられるかというと、そういうわけにもいかない。
星は丸いから、果てなく続く陸地なんてない。
永遠に差し出せる陸地はないんだよ。
それぞれの星は、お互いにちゃんと守らないといけない。
守っていたい。
私がこの先、溺れるほど無闇に許してしまわぬように。
あなたがこの先、自分の星で、ちゃんと陸地に立って呼吸ができるように。
そんな祈りを込めて。
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