足の裏のへんなところにマメがある どうしてきみにぼくなんだろう
足の裏のへんなところにマメがある どうしてきみにぼくなんだろう/藤井
うたの日 2023.2.23『変』
彼女と温泉旅行に行った。
温泉が好きな彼女は、でもすぐにのぼせてしまうので、全身ではあまり浸からずに身体を少しずつ外に出しながら温泉に入る。
そして露天風呂にて。私の前に岩があり、岩を挟んで向こう側に彼女がいた。
彼女が例によってばしゃりと脚を外に出し、くるぶしを岩に乗せたとき、足の裏が私の正面に来た。
へんなところにマメがある。
中指のすぐ斜め下。
へんなところにマメがあるね、と言うと、そうかも、と彼女は返した。
そういえば、足の裏を見るのは初めてだな。と思った。
でも、足の裏って普通、あんま見ないな。とも思った。
そこで急に、この人は私の彼女で、私はこの人の彼女なんだという事実が、温泉のお湯のように大きな質量で私を包んだ。
恋人という関係性でなければ、私はきみの足の裏を見ることは一生なかっただろうし、きみの足の裏のへんなところにマメがあることも知らないままだったんだろう。
そう思ったら、この人と付き合っているという漠然とした事実と、この人と温泉旅行に来ているという具体的な事実が一度に押し寄せてきて、湯あたりしたみたいな、くらりとした感情に陥った。
私はきみに足る人間なのかな。
きみは私でいいのかな。
どうしてきみに、私なんだろう。
そんな私の湯あたりはそっちのけで、彼女は私のかかとのひび割れを見て、おばあちゃんみたいと笑った。
笑ったけれど、私の手がひどく荒れていた時には、ハンドクリームと塗る絆創膏、手荒れを防ぐ手袋をくれた彼女。
かかとなんて、一生ひび割れていればいいのだ。
きみが笑ってくれるなら、心配してくれるなら、私は一生、きみのそばにいられるから。
ちょうど、足の裏を覗けるくらいの距離で。
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