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魔法少女リリカルなのは Reflection 26

 さしものクロノも焦っていた。
「これだけ警戒して、おめおめと先手を取られるなんて……!」
 隊員とともにオールストン・シーへ取って返す。
 まさかオールストン・シーを急襲してくるとは、予想だにしなかった。
 逃走中のキリエたちがわざわざ遊園地を襲撃することに、何の意味があるのだろうか。オールストン・シーに管理局が拠点を置いたと知っているのなら、なおのこと。
 そのうえ、想像を上まわる戦力を投入してきた。
 なのはやフェイトの力に固執したのも、夜天の書で『コピー』を作り出すためだったらしい。ただ、いかに夜天の書とはいえ生命の複製はできないはず。それはプレシア=テスタロッサ事件でも証明されたことだ。
「夜天の書を媒介にして、何かに形を与えたか……」
『まずいよ、クロノ君!』
 エイミィから緊急のコールが掛かる。
『これじゃ結界を展開できない!』
「わかってる」
 クロノたちの作戦をよそに、最悪の事態となってしまった。すでにシャマルたちも防衛に駆り出され、結界を構築するどころではない。
 それ以前に、あれほど巨大な機動外殻が同時に三体も出現しては、結界で覆いきることができなかった。オールストン・シーを守りながら戦うほかない。
(なぜだ? 遊園地を壊して何になる?)
 疑問に疑問を重ねていると、ユーノから通信が入った。
『もうじき着く! 少しでいいから持たせてくれ』
「すまない。あてにしてるぞ」
 状況は厳しい。それでもユーノが来れば、防衛のほうは目途が立つだろう。
 クロノは急ぎながらも頭をフル回転させ、ひとつの推測を弾き出す。
「こいつは陽動か?」
『それだけじゃないよ。今わかったことがある』
 ユーノの表情は確信に満ちていた。
『僕たちと戦うだけなら、結界の中でも構わない。脱出の手段さえあればね。でもイリスには、オールストン・シーに結界を張られちゃ困る理由があるんだ』
「なんだって?」
『結界を張られたら、本物のオールストン・シーの中には入れない。つまり……』
 エイミィの大声が割り込む。
『永遠結晶はオールストン・シーにある!』
 まさかの真相だった。
 クロノは驚愕するも、すぐに冷静な思考を取り戻す。
『でも永遠結晶なんて、オールストン・シーのどこに……ずっと工事してたんだから、もう誰かが見つけてるんじゃないの?』
「エイミィ、オールストン・シーの関係者に繋げないか?」
『え? ええと……次長に中継してもらえば、月村さんかバニングスさんには』
 今は一秒たりとも時間が惜しかった。
「あの子たちは? なのはの友達の」
『それならすぐにでも……あっ、あの子たちも逃がさなくっちゃ!』
 エイミィは異論を挟まず、オールストン・シーのアリサとすずかに通信を繋ぐ。
『きゃっ! クロノ君?』
『こっちが着替え中だったら、どうするのよ』
「すまない、緊急事態なんだ。教えて欲しい。オールストン・シーに永遠結晶があるとしたら、どこか、心当たりはないか?」
 アリサとすずかは不思議そうに顔を見合わせ、はっとした。
『アクアリウムの巨大鉱石!』
 永遠結晶を巡り、イリスたちとの競争が始まる。

                ☆

 三体の機動外殻を迎撃すべく、総員が出撃。
 バックアップのはずのシャマルも前線に出て、灰燼のトゥルケーゼに挑んだ。
「もう少し食い止めて、シグナム!」
「承知!」
 指輪の形のアームドデバイス『クラールヴィント』で敵の内部を覗き込んで、機動外殻の全制御を司っているらしいコアを発見。
「見つけた。そこね」
 クラールヴィントがシャマルの手首から先を、その内部へ転移させるとともに、数メートルの大きさにまで拡大させる。
 シャマルの『手』がトゥルケーゼのコアを鷲掴みにした。
「捕まえた! 全身を制御するためのコアパーツ……シグナム、あとはお願い!」
「ああ! レヴァンティン!」
 シグナムが垂直に跳躍し、トゥルケーゼの真上を押さえる。そして魔剣と呼ぶに相応しい愛用のアームドデバイス、レヴァンティンを両手で握り締めた。
 カートリッジをリロード。
「紫電一閃!」
 足場のベルカ式魔法陣を蹴り、墜落するような勢いでトゥルケーゼに斬りかかる。
 上から下へ鋭い閃光が走った。
 トゥルケーゼの左半身に対し、右半身がずれ落ちる。一刀両断。
 機動外殻の巨体が海面を膨らませながら沈む。

 ヴィータ班も城塞のグラナートと熾烈な攻防を繰り広げていた。こちらはトゥルケーゼよりもオールストン・シーに近いため、防御の一回ごとに隊員は肝を冷やす。
「ヴィ、ヴィータさん! もう持ちません!」
「だらしねえぞ、根性見せやがれ! ……ちっ、弾切れか」
 ヴィータは電磁ランチャーを投げ捨て、愛用のグラーフアイゼンを手に取った。
 シグナム班の戦いぶりから、今回の機動兵器に魔法が通用することはわかっている。ならば『鉄の伯爵』ことグラーフアイゼンで砕けないはずがない。
 奮戦するヴィータのもとへ、シャマルからの通信が届いた。
『そっちにザフィーラが行ったわ! コアの位置はザフィーラに教えてあるから』
「おっし! あとは任せろ」
 その通信が終わらないうちに、ザフィーラが持ち前の俊足で駆けつける。
 彼は人間の姿となって、右腕に渾身の力をたわめた。
「うおおおっ!」
 単身でグラナートの猛攻をかいくぐり、豪快な拳打を叩き込む。
 グラナートの装甲に大穴が空いたところで、さらにザフィーラは間髪入れず、魔法で異物を挟み込ませた。装甲は再生を妨げられ、稼働中のコアを露出させる。
「でかした、ザフィーラ! 行くぞ、アイゼン!」
 グラーフアイゼンがフォームを大槌に変えた。柄も伸ばし、旋回半径を拡大。それをヴィータが水平に二回、三回と降りまわす。
 遠心力に遠心力が乗り、遠心力が重なった。
 グラーフアイゼンの後部がバーニアを噴かせて、推進力も合わせる。
「ぶ・ち・く・だ・けーッ!」
 破壊。
 一点集中の破壊の力が、グラナートの巨体に横殴りを直撃させた。装甲は砕け、コアはホームランのようにかっ飛ばされる。
 それは上空のシュテルを横切ると、轟音とともに爆散した。
「大したものです」
 グラナートを失っても、シュテルは眉ひとつ動かさない。