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魔法少女リリカルなのは Reflection 22

 オールストン・シーのホテル、最上階に近いスイートルームにて。
 なのはたちは一堂に介し、違法渡航対策部門・本部長のレティ=ロウランから通信で、アミティエの容態について聞いていた。
『重要参考人の治療は無事に成功。今はもう普通に話が出来る状態になったわ』
 アミティエと最初に接触したはやてが、ほっとする。
「随分早い回復ですねえ」
『簡単な治療処置のあと、エネルギー補給をしてもらったら、あっさり治っちゃったそうよ。食事を十人前平らげたと聞いた時は、驚いたけど』
 なのはとフェイトは顔を見合わせる。
「すごいね」
「うん。量もだけど、食べるだけで怪我が治るなんて……」
 短いとはいえ休息のおかげか、シグナムたち守護騎士勢も落ち着き払っていた。
「人工的に身体を強化したのかもしれん」
「あのスーツや武装が使えるように、かよ? とんでもねえの」
「キリエ=フローリアンも同様と考えるべきだ」
「でも本当に危なかったのよ? 処置が遅れたら、どうなっていたか」
 ほかにリンディやアルフ、アリサとすずかも同席している。
「レティ。アミティエさんの聴取はすぐにでも?」
『そのつもりよ。ただ……彼女ね、取調べするなら、聴取担当者を指名したいって』
「指名?」
『ええ。フェイトちゃんを』
 意外な形で名指しされ、フェイトは少し戸惑った。
「私……ですか?」
 はやてもなのはも首を傾げる。
「なんでフェイトちゃんなんやろ?」
「ええと……優しそうだから?」
 ヴィータが大袈裟な溜息をついた。
「そこのド天然……今、真面目な話をしてっから」
「ええ~?」
 生温かい視線に囲まれ、なのはは苦笑い。
 フェイトははきはきと応じた。
「聴取は誰かがやるんだし、アミタさんの希望なら、私にやらせてください」
『了解よ。作戦会議が終わったら、別室へ移ってちょうだい』
 映像がレティからクロノに切り替わる。
『みんな、揃ってるか』
 一同は顔を引き締め、頷いた。
『はやてもクールダウンできたみたいだな』
「そう言われると、ちょっと居たたまれないんやけど……」
 はやての目配せを受け、すずかが微笑む。
 なのはやフェイトにも迷いの色はなかった。緊張感が立ち込める中、クロノが次の作戦を説明し始める。
『僕もそっちへ行く。目下の急務はキリエとイリスの捜索だ。そこで――』
「待って、クロノ君」
 それを制したのは、はやてだった。
「編成のほうは私に任せてもらえへんかな」
『君が? 案があるなら聞かせてくれ』
 クロノは二つ返事ではやてにフォーメーションを一任する。
 はやてはてきぱきと今夜のチームを分けていった。
「本局からの応援は五十人やったね。シグナム班、ヴィータ班、シャマル班で十人ずつ、あとはクロノ班に二十人でどうかな」
 そう話しながら、なのはやフェイトにも視線を投げる。
「フェイトちゃんはシグナム班、なのはちゃんはヴィータ班に入って。シグナム班とヴィータ班は東京湾を中心に、キリエたちの捜索を頼むわ」
 シグナムとヴィータは誇らしげに合意した。
「問題ありません」
「おうよ!」
「ザフィーラはシャマル班で、シャマルのサポート。ええか?」
「お任せください。主」
 銀狼のザフィーラはすっくと立ち、シャマルの傍まで移動する。
「シャマル班はみんなの捜索をフォローしつつ、結界の準備を。キリエたちとはまた戦闘になるやろうから、いつでも展開できるようにしといて」
「わかったわ」
「あと……リンディさんとアルフには、ここで情報の中継をお願いできますか?」
「任せてちょうだい」
「了解。みんなのアームドデバイスは私が届けるよ」
 そこでクロノが口を挟んだ。
『ユーノもそちらに向かってる。もうすぐ到着するはずだよ』
「まあ、本当に?」
「心強いわね」
 リンディやシャマルの声が弾む。
 それもそのはず、防御魔法においてユーノの右に出る者はいない。彼の防壁なら、キリエのシステムオルタの支離滅裂な猛攻にも対抗できるだろう。
「クロノ君は臨機応変に動いてもらってええよ」
『ああ、その編成で行こう。なのははちゃんとヴィータの指示を聞くように』
 皆の前で釘を刺されてしまい、なのはは頬を膨らませる。
「なんで私だけ~?」
「へへっ。肝に銘じとけよ、なのは」
 クロノの冗談でいくらか和んだものの、一同はすぐに姿勢を正した。
『キリエ=フローリアンとて、あの怪我だ。そう遠くへは行ってないだろう。僕たちに拠点を捕捉されるのは時間の問題と踏んで、今夜中には動き出す可能性が高い』
「そこを確実に押さえる。次こそ止めような、みんな」
 人海戦術を用いてのキリエの捜索。彼女の凶行を食い止め、夜天の書を取り戻すためにも、今夜が正念場だった。
 映像の向こうでエイミィがクロノを促す。
『クロノ君。例の件』
『っと、そうだった。ところで……シグナム。君たちにとっては思い出したくないことかもしれないが、聞きたいことがあるんだ』
「遠慮はいらん。何でも聞いてくれ」
『助かる。闇の書事件の時、君たちは色んな次元でページを集めてただろ? その際、どうやって次元を跳躍してたのか、確かめておきたくてね』
 シグナムはヴィータやシャマルと頷きあった。
「夜天の書の力を借りて転移した。そうだったな? ヴィータ」
「おう。一番遠くへ行くやつが夜天の書を持って、帰りに仲間を回収していく感じだ」
「夜天の書そのものに次元を超える力があるのよ。守護騎士の私たちは夜天の書とリンクすることで、単体でも多少の距離は飛べるかしら」
 ザフィーラがクロノの意図を読む。
「われわれなら夜天の書の在り処、つまりキリエ=フローリアンの居場所へ直行できると思いましたか? 執務官。申し訳ないが、今は漠然としか気配を感じ取れません」
『いや、そうじゃないんだ』
 クロノはシグナムたちの話に納得した様子で打ち明けた。
『さっきユーノやエイミィと話しててね。キリエには惑星エルトリアへ帰る手段がないんじゃないか、と』
 守護騎士たちのみならず、なのはやフェイトも訝しげに瞬きを繰り返す。
「帰れないのに来ちゃったの? あれ?」
『アミティエの事情聴取が終わったら、みんなにも説明するよ。フェイト、アミティエにはここへ来た方法と、どうやって帰るつもりかも聞いてくれ』
「うん。大事なことみたいだね」
 続けざまにクロノは夜天の書の主、はやてに問いかけた。
『それから……はやて、『永遠結晶』という名に心当たりはないか? どうやら夜天の書に関わるものらしいんだが』
 はやてはリインフォースとともに首を傾げる。
「ないよ。夜天の書の解析は、充分したはずやけど……」
「夜天の書のデータは大半が、闇の書事件の際に失われてますから」
 シグナムたちも感傷の入り混じった調子で口を揃えた。
「闇の書の闇は先代リインフォースとともに、か」
「あの子なら、永遠結晶を知っていたかも」
「かもな」
 やりきれない沈黙が流れる。そんな中、クロノが作戦会議を締めた。
『みんなはキリエの捜索を始めてくれ』
 映像の脇からエイミィが顔を出す。
『装備は更新が終わり次第送るから、空の上で受け取ってね』
「了解や。リイン、行こか」
「ハイです~!」
 リインフォースも戦線に復帰。
 今夜はまだまだ長くなりそうだった。

                ☆

 技術部の一室にて、シャリオはレイジングハートの調整に入る。
「これがあなたの構想してる改修プラン、ね……」
 高町なのはの紅玉は、ビーカー型のカプセルの中でスキャンを受けていた。
『difficult ?(難しいですか)』
「アミティエさんの協力とクロノ君の許可があれば、理論上は可能かな。でもそれなりに時間が掛かるから、しばらくなのはちゃんと一緒に戦えないよ?」
『I fully understand(わかっています)』
 キリエの魔導解析やシステムオルタに対抗するべく、強化を優先したいらしい。そのプランの内容にシャリオは半ば呆れ、レイジングハートを軽く窘める。
「まったくもう……カートリッジシステムを欲しがった時といい、強引なんだから」
『Thank you for your time(お手数をお掛けします)』
 ただ、これは技術部が考案中の管制型ユニット『フォートレス』の企画を、一気に進展させるものだった。
 アミティエのフォーミュラを応用すれば、突貫でも数時間で形にできるだろう。
 だからといって、いたずらに力を与えるわけにはいかなかった。力を得れば、なのははさらに過酷な戦いへ身を投じかねない――その懸念はシャリオにもある。
「あなたは『魔導士の杖』として、なのはさんの信頼に応えたい……そうだね?」
『exactly(はい)』
「それは、アームドデバイスとしての義務感?」
『No. This is "Pride"(いいえ。誇りです)』
 しかしレイジングハートの矜持は信じるに足るものだった。シャリオは肩を竦めるも、すぐに気合を入れなおす。
「やれやれ、マスター想いというか、似た者同士というか……わかりました。不肖シャリオ=フィニーノ、全力でサポートしちゃいますよー!」
『Thanks』
 レイジングハートがきらりと輝いた。