今日、臓器を一つ失くした
はじめに
母が子宮全摘したという話(私が知らなかっただけで数年前の出来事)を聞いたとき、私は涙が止まらなかった。
子宮がないということの意味、その母体の精神的な苦しみを、私はきっと知っているから。
かつて、私は子宮の欠損がどうしても認められなくて、子供が生めないという事実が悔しくて、めちゃくちゃに病んだことがある。
手を繋いで歩くカップルを見て、ああ、この人たちは子供を生めるんだろうなって思って街中に泣き崩れたことがある。
お腹の膨らんだ女性を見て、電車内でぼろぼろと涙をこぼしたことがある。
民家の明かりを見ただけで、そこにあるだろう家庭を想像して耐えきれなくなって、ついに地面だけを見て帰ったことがある。
そんな風に、子宮の欠損というのは人によって深刻な問題なのである。
それはそうと、睾丸を摘出してきました。
いきさつ
私が性同一性障害なのは置いといて、まず人体についての予備知識。
ホルモンバランス
男性ホルモン値と女性ホルモン値、血中のそのバランスが崩れると色々死ぬ。
メンタルが死ぬ。頭痛が痛い。めっちゃ眠くなる。その他人によって色々。
賢者モードとかも男性ホルモンが出ていったせいだし、生理前に怒りっぽくなるのもメンタル崩壊のせい。
私たちの人体は繊細なホルモンバランスの上に成り立っているのだ!
ホルモン治療
私は女性ホルモンを投与しているが、それには<錠剤>と<注射>の二種類がある。
以下にメリットデメリットを書いた。
<錠剤>
・安価(まあ高いが)
・毎日飲む(私は24時間毎だが、8時間毎とか面倒なケースもある)
・肝臓にダメージが入る(これが問題)
<注射>
・肝臓には優しい
・二週間に一回とかで良い
・高価
このような状況で、選ぶべきは勿論注射だ。お金さえあれば肝臓の平和がちょっと守られる。
一生の付き合いとなるのだから、人体の長期的生存を考えると注射にアドがある。
しかし、私は<女性ホルモン注射>に加え、ピルという名の<抗男性ホルモン剤>を服用していた。
これは肝臓に悪い。ひじょーーーに悪い。ので、男性ホルモンを根本から消滅させて、注射だけにするのが合理的なのだ。
ってなわけで、睾丸抜いてきました~☆
当日の様子
朝から準備をして、高速バスに乗って隣県へ。緊張などは特になく、前日に下の毛の処理で疲れてしまったのでぐっすり眠れた。
特に何の説明も聞いていないので、朝食や水を摂って良いのか知らなかった。知らないから、まあ我慢するか~って気持ちで、空腹と戦う移動時間。
着いたのは滑って転んで大分県。道中が何もない山中だったので、まさかの街があることにびっくり。九州に福岡以外の街があるとは、現代文明だ。
バスが予定より早く着いたことに加え、どうせ私は迷子になると信じていたことで、予約時間には随分と早かった。しかも迷わなかった、まっすぐ歩いたら着いた。
出迎えてくれたのはきれいなお姉さん、第一声が「髪すっごい綺麗ですね~!」。えへへ、まあね。
問診票を渡されると、いきなり困ったのは[名前]の欄。これ本名? それとも通称名で良いの? って困って、とりあえず名字だけ書いて放置。猫屋敷とかいう名字だったら面白いだろうな~とか考えてた。
[本日の相談は何?]
まぶた、傷痕、刺青、胸部、色々あるが、その他。睾丸を取りに来ました。
そこから本来の予約時間まで待つことになったので、Twitterでも見ながら待機。いざ呼ばれてみると、かっこいい先生。院長さんだ~!
ここを切って開いて、中のここを切っちゃうね~って感じで説明。明日からシャワーokで、一週間は無理しないでね~、何かあったらこのメアドに写メ送ってね☆彡 みたいなノリで終了。
手術代16.5万円(税込)をそっと渡すと、いざ勝負! たいよろ!!
手術だよ
下だけで良いから脱いでって言われて、ブラウス一枚で歩く変態が完成。手術台に乗ると、彼女さんから貰ったお守りをぎゅーっと抱いた。
「それお守り? かわいいね~」って言われたから、「えへへー、彼女さんから貰ったんです。手術するって言ったらなんと速達で」みたいなことを言おうとしたんだけど朝から何も飲んでないせいで声が出ない。変な声出そうになったから黙った。
最初にアレをテープで腹部に固定して、麻酔の注射。ちくーーーっとするのかと思ったけど、ホルモン注射と特に変わらなかった。なんか刺さってるのは分かるけど、痛くはない。
しかも看護婦さん? がよしよしって頭撫でてくれて、"ママ"を感じながらの極楽浄土。
電気メスって言うのかな、はんだ付けの機械みたいなのを経由して、患部から白い煙。よく見えないから体を起こさない程度に体をひねってたら、看護婦さんが鏡をくれた。
邪魔にならない範囲ならいいよ~って、"ママ"。
時々ズッッッと来る刺すような痛み? 熱? があったけど、痛いです……って言ったら適宜麻酔追加してくれた。痛かったら言うのです。すぐに楽になれるよ。
みんなの知ってるしわしわのあれの中に、何か膜みたいなものがあって、それを裂いたら中から鶏レバーみたいなもの。
精巣があって、鶏皮みたいなのが体内まで伸びてるの、結構伸びてる。精索って言うらしくて、動脈静脈精管とかがある経路で、8cmくらいはあった。長かった。
それを紐で縛って、縛って、縛って、縛って、縛ったところでちょきちょき。切り取ったやつポイって投げて、バットの中で「ベチャッ」って音がしてた。鶏肉をまな板に投げたときの音。
切ってるところは痛くないんだけど、掴まれてる精巣が痛い。痛いというか、精巣を掴まれてる感覚だよ、伝われよあれだよ。でも"ママ"が撫でてくれるからへーき。
反対側も同じようにちょきちょきびよーん、縛って縛って縛って縛って縛ってちょっきーんってしたらベチャッ。鶏肉。
あとは縫合なんだけど、溶ける糸なんだって。良い感じになったら溶けて抜けるから、抜糸は特に要らないってさ、最先端を感じるね。
糸を通して、ぎゅって結んでぎゅって結んでぎゅって結んでぎゅって結んでちょっきん。それを繰り返して傷口を縫い合わせていくよ。
裁縫の玉結びみたいなのなくても抜けないの? って思ったけど、全体を一気にぬいぬい~ってするんじゃなくて、一ヶ所に一本使ってるからそりゃ抜けんわな。
それが終わったら手術完了! アレを止めてたテープ剥がしたときが一番痛かった。皮膚、皮膚……
あとずっと鏡を持ち上げてた腕が痛い。好奇心猫を殺すとはこのこと。よく頑張ったね~ってなでなでしてくれるの、"ママ"。
おしまい
術後は安静にしろとのこと。重力で患部に血が行くから、座るのはやめて寝ましょう。ごろごろ生活に免罪符。
バイトもしばらくおやすみ貰ってるし、完全にニート生活します。術後だもん、仕方ないね!!!!
手術に向けて暖かい言葉をくれたみんな、大好きな彼女さん、本当にありがとうね。
次の手術はすっごく大きなやつになるし、いつになるか分からないけど、そのときはまた支えてくれたら嬉しいです。対戦ありがとうございました。
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