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【書評】『最賃審議会の全面公開を実現した 鳥取県の経験から 最賃制度のあり方を考える』

文献:『最賃審議会の全面公開を実現した 鳥取県の経験から 最賃制度のあり方を考える』
著者:藤田 安一
月刊全労連 2017年12月号


1.本書選択理由


 これまでに最賃の決定方法について、「何を根拠に引き上げ額を出したのか、議事録を見ても不明であり、根拠を示すように求めても明らかにしない。哲学を持たず、時々の政治状況によって揺れ動くからではないか」と批判してきた藤田氏が鳥取地方最低賃金審議会の会長を務めた経歴もあり、新たな角度で研究を進歩させるために選択した。

2-1.要約


 本来、賃金は真面目に働けばそれで生活するに足りる額でなくてはならない。しかし、これまで日本の最低賃金は家計補充的賃金とみなされているため、賃金が低いのは当然だと考えられている。

① 日本の最賃額の低さとその上がり方の遅さ
②最賃が地域間格差を広げる要因になった
③事実上、経営者の賃金の支払い能力が優先されている
④審議の過程、特に最賃額の決定過程が不透明である 

 が課題として挙げられた。

2-2.審議会運営の民主的ルールとして鳥取方式の特徴


① 審議会を全面公開、フルオープンとする
「会議は原則として公開とする。ただし、公開することにより、個人情報の保護に支障を及ぼすおそれがある場合、個人若しくは団体の権利利益が不当に侵害されるおそれがある場合又は率直な意見の交換若しくは意思決定の中立が不当に侵害されるおそれがある場合には、部会長は会議を非公開とすることができる」

② 意見聴取の実質化
審議の参考のため労使双方から意見聴取が行われるが、特定の労使組合から紙に書かれた意見書が提出されるだけであったため、参考人意見陳述を開始し労働者側、使用者側共に15〜20分程度意見を述べ質疑応答を行うようにした。

③ 傍聴の自由化
鳥取県の場合、聴取は1グループにつき六人までだった。多くの人が来ると審議に支障を及ぼすのではないかとされていたが、審議妨害時は会長が規定により退室を命じることができるため、固定概念を覆すことが必要
④ 水面下での交渉禁止
審議会以外の場で、使用者と労働者が密かに協議を行った利、調整が行われていた。そのため、意見の食い違いがあればその場で出すことを重んじることで審議会の意味を、審議会の場で審議できる環境にした。

2-3.効果と影響


 効果としては、審議会を全面公開にしたよりも審議会の水面下でのやりとりを中止したことに影響があったと分析した。
賃金の決定を労使の話し合いだけに任せておくと、労使の力関係によって、賃金が時には労働者の生存が保障されない程度にまで切り下げられてしまう。これでは人間の基本的人権である生存権が侵害される。その場合には、国は社会政策の一環として労働者の生存を保障する最低額の賃金を決定し、それを使用者に義務づけることができる。わが国では、日本国憲法第25条がその法的根拠になっている

3.批判・感想


 水面下での交渉禁止は、会議自体の意味合いを見つめ直すためにも必要な方式である。
一方、会議のフルオープンに対する影響について直接的にはなくても、今後他県での展開や分析を行うためとしては、意義があったのではないか。
 今後の課題として、審議会の構成員の幅を広げることの必要性も書かれていたが、労働者と使用者の中間的立ち位置(公平さ)を作り上げていくことが重要ではないか。

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