一安心。
電車に乗り込む。かなり混み合った車内。運良く席を見つけ座ることができた。一安心。しかし、しばらくしてふと気がつくとなぜか自分の両サイドだけ、人が座っていない。
これは不安だ。謙虚な私は何か自分に理由があるに違いないと思い始める。何だ?
①挙動
そうか!落ち着かない目線、切符をなくさないよう忙しなくポケットを確認する仕草。なるほど傍から見たらいかにも怪しいやつに見えたかもしれぬ。それに発車時間に間に合うようかなり急いで来たからな、汗をかいているのも余計に怪しく見えたに違いない。落ち着け自分。できるだけじっとして、なるべく普通に見えるようにするのだ。
いや待て。私の向かいに座っている中年の男、あれは先ほどから間違いなく、あからさまに鼻毛を指で引っこ抜いているぞ。それでも隣に人が座っている。
②匂い
見た目でないとすれば、目に見えないものかもしれぬ。考えたくはないが私の体臭、ないしは口臭がきついのかもしれぬ。隣に座るのが憚られるほど。そういえば今着ているトレーナー、生乾きだったかもしれない。最近天気悪かったしさあ。それか指摘されたことはないが口が臭いのか?家族や友達、今まで付き合ってきた人たちは気を使って言わなかっただけで、実はめちゃくちゃ臭いのか。
下唇を前方に大きく突き出して口から吐いた息を上に向かうよう操作し、なんとか口臭を嗅ごうとする。前髪がふわふわ揺れる。だめだ、こんなことしていたら挙動不審さMAXだと気づいた。
分からん。何故かは分からんが、私の隣に人が座らない。気になる、がどうしようもない。疲れたので目を閉じることにした。
目的の駅名のアナウンスが聞こえてきて目を覚ました。危ない、寝過ごすところだった。おや、両側に人が座っている。なんだ、私の隣にも人は座るのか。一安心。