フランスパン

職場の近くにパン屋がある。
小さな店だが人気のようで、雑誌のパン特集にも何度か載っていた。
一番人気はフランスパン。フランスからの留学生が、故郷の味を求めて買いに来るという触れ込み。
焼き上がるのは開店直後の早朝ではなく、昼頃なので、休憩時間になって職場から飛び出すと、その香りに打たれたようになる。
そして買う。
毎日のように買ってしまう。
もちろんフランスパン一本をまるまる食べきれない。
食べさしを家に持ち帰るが、翌朝になったって食べきれない。冷凍する。
私の一人暮らしの家の冷蔵庫は、冷蔵室には作り置きのおかずのひとつもないにも関わらず、冷凍室は押し込められてへしゃげた、凍ったフランスパンだけで溢れかえっている。
それなのに焼きたてを買う。ゴミよりひどい目にあわすのに、今日も買う。
職場で、「今日も焼きたてのパン食べてて素敵」と言われ、私も笑顔で返す。
焼きたてのパンは抱えると生き物のように温かい。
胸を暖めようと強く抱える。

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