にんじん

にんじんで刺された。
遂に刺されたかと思った。
彼女に背を向けているときいつもどこか想像してる。
キッチンでサラダを作っていて、彼女の気配は感じていた。
立っている。何も言わずただ僕の背中を見てる。
にんじんは僕の背中にめり込んで、ふたつに折れて床に転がった。
にんじんといえど痛い。
中学の時掃除の時間にふざけてて、箒で突かれたとき並に痛い。たぶん内出血くらいはしてる。
僕は小さく呻いてしゃがみ込んだ。
セロリを切っていた僕の手には包丁が握られている。

友達に、常に「早く別れろ」って言われる。
すでに、僕がおかしいってことにもなってる。
どうして彼女はにんじんで刺したのか。
そのにんじんは僕がスーパーで形や重さを確かめて買ったんだ。
どうして彼女はこうまでなっても、僕を包丁では刺さないのか。
僕はとっくに頭がおかしい設定で、彼女は僕を呪っているけれど、それでも僕を愛していると思う。

にんじんは洗ってちゃんと食べた。
僕は彼女の分を皿に盛って、彼女は皿ごと投げました。

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