雑煮の餅を啜る音。


今年の4月で地元鹿児島から大阪へ出てきて10年経った。

いつか地元へ戻ろう。そんな気持ちは正直今のところない。

大阪へ出てくる時は地元へ帰る前提で出てきた気がするが、私は今住んでいる街が好きだ。

10年前の年末。

大阪へ行こうと決めたのはいいが、両親へ何と言おうか、賛成してもらえるだろうか、毎日そればかりを考えていた気がする。反対されるだろうか、どう返事されるだろうか。不安もあった。年末には大学で関西へ行った弟が帰省し家にいたので、先に弟へ話をした。元旦の朝家族全員揃う為、その時に話そうと思うと。弟も「親がなんて言うかねー」と言っていた気がする。

元旦の朝

タイミングを見計らっていた。

明けましておめでとうございます。挨拶をしおせちを囲む。ここで私は早々と「話がある」と正座をし、切り出した。父は「なんよ?」と尋ねてきた。

「4月に大阪へ行こうと思う」と言った。

ズズズーッ。

「お前も一度は出てみたいんやろ」

お雑煮を啜りながら父は言った。

まるで私が考えていた事を見透かしていたかのようであった。

前日からいよいよ親へ話すんだと思うと緊張で中々寝付けずであったと言うのに、あまりにもひょうひょうとしていたので、一気に力が抜けた。反対もされず、心配もされず、アッサリと許可が降りたのだ。弟も少し驚いていた気がする。恐らく弟もこの時関西への就職が決まっていたので、親も近くに身内がいるならと思ったのかもしれない。

父も地元を出てみたいと思った事があったのだろう。

しかし私とは違い、彼は地元が好きで堪らないようで転勤で他県へ出向く事が何度かあったが、最終的には辞表を出して帰ってきた。

今はそんな父と思考に相違を感じる事が多々あり、距離を感じるが、父が食べていた雑煮の餅を啜る音は今でも記憶に残っている。




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