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BOOTH3Dモデル市場概況(2023年)

 BOOTH で販売されている、VRChat 向けの3Dモデルの市場概況について考察を述べていきます。

 ちなみに、一昨年昨年に同じ内容のものを書いているので、今回は「数字がどう変わったか」とか「顔ぶれがどう変わったか」という内容が主になります。

 考察の内容については、昨年の記事も見ていただけると嬉しいですが、忙しい人のために要約を貼ります。

※以下の引用は「2022」年 12 月時点のものです。

・アバターの販売数は約 6,700 体(前年比 2.5 倍)
・うち 99 % が ¥10,000 以下
・ボリュームゾーンは ¥3,000 ~ ¥4,000

・アイテムの販売数は 19,000 点(前年比 3 倍)
・うちほぼ 100 %が ¥4,000 以下
・専用衣装のボリュームゾーンは ¥1,000 付近

・専用衣装は上位モデルに極めて集中している
・定番モデルは短期的には寡占状態に見えるが、長期的には流行による新陳代謝が起こる

・アバターの販売には、モデルのクオリティだけではなくサポートの充実や維持が求められ、そのコストは増加傾向にある

※データはすべて 2022 年 12 月の解析に準拠

 では、2023 年ではどうなったか見ていきましょう。根拠となるデータはすべて、私が開発した Web サービス Avatar Network を基にしています。また、データは、2023 年 12 月時点のものです。

アバター本数&価格

 現在、10,619 体のアバターモデルが販売されています。昨年が、6,700 体だったので、約 1.5 倍に増えています。

 これはサブカテゴリが「3Dキャラクター」となっている販売商品の数です。ただし、厳密には集計漏れがあります。サブカテゴリ設定前に販売開始をして、登録をし直していない商品は「その他」のサブカテゴリになっているからです。(昨年も書いた)

アバターの販売価格と商品数のヒストグラム

 ヒストグラムです。横軸が販売価格。縦軸がその価格帯に含まれる販売アバターの数です。10,000 円以上のアバターは極めて少ないので除外しています。一番多いのは 0 円以上 1,000 円未満で、基本的には値段が上がるごとに少なくなりますが、3,000 円以上 4,000 円未満の価格帯で少しだけピークがあります。

アイテム本数&価格

 現在、39,293 個のアイテムモデルが販売されています。昨年が約 19,000 個だったので、約 2 倍に増えています。これも、アバターと同様にサブカテゴリで判断しており、サブカテゴリが「3D衣装・装飾品」になっている商品の数です。

 今年は技術的な進歩により、アイテムの中の「衣装」と「非衣装」を分けて分類できるようになりました。ここでいう「非衣装」とは、カテゴリが「3D衣装・装飾品」になっているものの、ボーンとの連動がない小物、例えばテクスチャやアクセサリなどを指します。技術的な詳細はまた後に述べますが、とりあえずヒストグラムを先に載せます。

アイテムの販売価格と商品数のヒストグラム。青は非衣装、赤は衣装。

 全体として、一番多いのは 0 円以上 1,000 円未満で、基本的には値段が上がるごとに少なくなります。

 衣装だけに絞ったヒストグラムは以下になります。

アイテム(衣装)の販売価格と商品数のヒストグラム。

 500 円以上 1,000 円未満、及び 1,000 円以上 2,000 円未満にピークがある分布を描きます。それぞれのピークの値は、3,518 個、3,482 個になります。このあたりが衣装のボリュームゾーンであることがわかります。

 無料~低価格では非衣装の割合が多く、販売価格が上がるにつれて衣装の割合が増えていくことがわかります。

対応数ランキング

 皆さまが一番気になるところだと思います。今年も対応数 Top 10 およびその 3 年分の推移を見ていきます。

 2023 年終了時点での対応数トップは「桔梗」氏でした。昨年末の段階でもダントツでしたが、更に倍以上に増えています。その他、人気アバターも倍増しているものが多く、アバター市場は規模を増しているようです。

 気になるのが、上位の顔ぶれの変化が少なくなったことです。2022 年末では、上位の 10 人のうち 7 人の顔ぶれが変わっていました(新規に入ったモデルは赤枠をつけています)。しかし、今年は上位 10 人のうち 4 人しか顔ぶれが変わっておらず、交代の速度が下がっているのかもしれません。(今年、新規に入ったのは、萌、マヌカ、森羅、ライム、の 4 名です)

 例えば、今から超人気アバターが出たとして、対応アイテム数 4,000 を 1 年で超えるかと言われたら、かなり難しい気がします。「対応数=アクティブユーザーに実際に使われる数」ではないので、実際に VRChat で見かける割合とかはわかりませんが、少なくとも対応数の上位はしばらくは揺るがないかもしれません。

 ちなみに売れ筋の変化は相変わらず KAWII 美少女です。これは 3 年間 1 ミリも変わりませんね。「森羅」だけは少し中性的なニュアンスがありますが、おおむねすべて KAWAII 系と言って差し支えないと思います。あと、やっぱり胸は大きい子が多いです(現代のアバターだと可変式が多いですが)。

考察

 毎年、環境の変化が大きいのもアバター界隈や VRChat の特徴です。とは言っても、本体の変更は Unity のバージョンのアップデートぐらいで、エンドユーザーの体感としてはそこまで大きなものではないです(裏で悪戦苦闘しているワールドやギミックの作者さんがいたらごめんなさい)。

 大きな点としては、以下の要素があると思います。

Modular Avatar のリリース

※正式版のリリースは 2022 年 11 月 28 日なので、区分としては去年の話になるかもしれませんが、普及のタイミングなどを考え、2023 年の話とします

 bd さんが、アバター改変支援ツールである Modular Avatar をリリースしました。これまでユーザーが個別に対応していた着せ替えやギミックのといった改変を、非破壊で統合的に管理するというコンセプトのツールです。豊富な機能を揃えており、今後アバター改変のデファクトスタンダードになりえるツールだと思います。

 販売商品においても、商品名や説明文に「MA対応」としている商品が増えています。とは言っても、よほど変なヒエラルキーをしていなければ自然に対応してくれるはずなので、このためにわざわざ専用のセッティングをするというよりは、確認しているという方が実態に近いと思われます。商品の作者にとっては、ユーザーの改変(≒購入)への敷居を下げさせるために必要なセールスポイントとなっていくことが予想されます。

BOOTH のギフト市場

 アバターやアイテムには、自分で利用して楽しむ他にも、プレゼントとして送るという楽しみ方もあります。むしろ、一人で何体ものアバターや何個ものアイテムを持っているヘビーユーザーにとっては、そちらの方が主流になっている人もいるかもしれません。

 また、公式の機能も

  • 昨年 12 月…ギフト機能実装

  • 今年 9 月…スキリスト機能実装

  • 今年 12 月…スキリスト公開可能

 と、どんどん充実していき、今後、アバターやアイテムにおけるギフト市場はますます活発になっていくことが予想されます。値の張るアイテムは普段使いではなく贈答用で……という考えも出てくるかもしれません。お歳暮かな? 

 なお、ギフトとスキリストの連動はまだ実装されていませんが、今後ギフト市場が活発になっていくにつれて、そのような機能も実装されていく可能性もあります。

 販売側の戦略としては、ギフト用の需要も見越して……ということになりますが、じゃあどのようなアバターやアイテムがギフトの需要が大きいかという点については、まだ確定的なことは言えません。そのアバターやアイテムがユーザーの間で話題になれば自然に需要は出てきますが、そもそも自由に流行らせることができるなら苦労はしないですし。

 特に、アバターについては、ギフトを送るのはハードルが高い行為だと思います。アイテムに比べて価格が高いというのもありますが、そもそもアバターを送るということは、そのユーザーの外見的アイデンティティの変更を強いる行為です。相手に事前に確認を取る方がいいでしょう。(この点はアイテムでも同じですが、アバターだと特に)

 反面、アイテムのギフトはハードルが、アバターに比べると低いと考えられます。よって、ギフトの主戦場はアイテム、というか衣装と考えて良いでしょう。このとき、対応アバターの有無は、ギフト用衣装として考える時に重要な点となります。送る側のユーザーは、送られる側のユーザーを使うアバターを具体的に想定しているはずなので、そもそもそのアバターに対応していないとギフトの意味がないからです。どのようなユーザーが送るかわからない以上、使用ユーザーの多い有名アバターを揃えておくことが、ギフト用衣装に選ばれやすい条件になるかもしれません。身も蓋もない話ですが。

結論

 今回の解析で得られた知見をもとに、冒頭で引用した結論を更新します。

・アバターの販売数は約 11,000 体(前年比 1.5 倍)
・ボリュームゾーンは ¥3,000 ~ ¥4,000

・アイテムの販売数は 39,000 点(前年比 2 倍)
・アイテム全体のボリュームゾーンは無料〜¥ 500
・衣装に絞ると、ボリュームゾーンは ¥1,000 付近

・専用衣装は上位モデルに極めて集中している
・定番モデルは短期的には寡占状態に見えるが、長期的には流行による新陳代謝が起こる
・昨年に比べると、新陳代謝の速度は低下している

・アバターの販売には、モデルのクオリティだけではなくサポートの充実や維持が求められ、そのコストは増加傾向にある
ギフト市場、特に衣装のギフト市場が活発化している

※データはすべて 2023 年 12 月の解析に準拠

宣伝

 昨年に引き続いて、宣伝です。

対応アイテムからアバターを探せるサービス「Avatar Network」

 対応アイテム数からアバターを探したり(一週間分の増加で調べることもできます)、

 アイテムから対応アバターを探したり、

 お気に入りフォルダーを作って公開することができます。

 もちろん、昨年から進化しています!

Discord 認証

 旧 Twitter が Twitter でなくなってしまったので、急遽 Discord 認証にも対応しました。一応、現状でも旧 Twitter で認証が通りますが、マジでいつ使えなくなるかわからないので、既存ユーザーには Discord の認証追加、新規ユーザーには Discord での登録を推奨します。

フォルダー使い分け

 フォルダーに登録したアバターやアイテムが「欲しいもの」か「そうでないもの」かを明示的に分けて登録できるようになりました。公式の方がギフトを実装したりで、万が一にも事故が起こりづらいようにという気持ちです。現状、結構使いづらい部分が多いと思うので、今後、公式と競合しない方向で(重要)使いやすくしていきたいと思います。

AI による衣装診断(未実装)

 2023 年は ChatGPT がリリースされたという意味でも激動の年でした。当サービスは、新たな試みとして、AI を使った衣装・非衣装診断システムを実装しました。

解析の様子

 解析の仕組みは以下になります。登録されているアイテムに対して、商品名と説明文を入力として、ChatGPT の API にリクエストを投げます。リクエストの内容は以下の通りです。

3Dデータの商品のデータが与えられます。
商品は、体にまとう「衣服」か、防止・靴・小物・飾り等の「非衣服」に分かれます。
あなたの役目は、次の情報からこの商品が「衣服」か「非衣服」かを判定することです。
商品名:【実際の商品名】
説明文の冒頭:【実際の説明文】

 この結果、衣服か非衣服かの判定が返ってくるので、それをデータベース化します。言葉にすると簡単ですが、3 万以上のアイテムを処理する必要があるため、解析には数日を要しました。(API 利用料金としても数十ドルが……)

 その結果、間違いはいくつかあれど、人間がやるには現実的でない作業量の診断を AI にこなしてもらうことに成功しました。

 この診断結果は、内部データベース上ではすでに反映が完了しているのですが、Web サービス上ではまだフィルタリング等を実装していません(すいません)。年内にはやろうと思っていたのですが、色々忙しくて。年が明けたら速やかに対応します。

 なお、発展バージョンとして、衣服の露出度を判定してもらう、という試みもしました。こちらは、画像つきの API で料金が激増するため、すべて解析すると 2 桁万円の出費がかかりそう & そもそも精度がそこまで出ないので断念しました。

余談

対応ランキング時系列変化記録システム

 対応数とサイズが比例するようにした一覧表を、一日に一回記録するようにしました。計測開始が 11 月なので、現在まだ 2 ヶ月分しか記録がないですが、来年末には、アバターの 1 年間の歴史が凝縮したような動画が作れるはずです。楽しみに待ちましょう。

支援のお願い

 生々しい話ですが、Web サービスを公開・維持し続けるにはお金がかかります。具体的に言うと、毎月 16 $ほどかかっています。また、データの解析にかかる時間も年々増えています。Avatar Network を長く公開・維持していくために、有料サポーターの登録をお願いしています。

 非常にありがたいことに、現在は維持費をペイできる程のご支援をいただけてますが、今後サーバー代の値上げ等が起こらないとも限りません。また、余剰料金があればある程、今回試みた AI 診断のように、新機能を実験・追加しやすくなります。

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