BOOTH3Dモデル市場概況(2021年)
https://adventar.org/calendars/6466 の24日目の記事です。
BOOTHで販売されている、VRChat向けを想定した3Dモデルの市場概況について結果を考察を述べていきます。なお、以下の解析はすべて2021年12月12日 時点に行った解析を元にしています。
アバター販売本数
現在、2,692 体のアバターモデルが販売されています。
これはサブカテゴリが「3Dキャラクター」となっている販売商品の数です。ちなみに、昔はアバターも衣装も「3Dモデル」という一本のカテゴリに混在していて検索が大変でした。現在は、サブカテゴリが出来たおかげでこのあたりがだいぶ検索しやすくなっています。
ただし、厳密には集計漏れがあります。サブカテゴリ設定前に販売開始をして、登録をし直していない商品は「その他」のサブカテゴリになっているからです。
アバター販売価格
すべての販売アバターの価格をヒストグラムにしました(図1.)。十万円以上の商品は極めて少ないことから(販売避けのダミー価格等も含まれていそうです)、グラフの見やすさのために除外しています。
横軸が価格、縦軸が販売数です。一部のモデル(限定販売等で付加価値を含めているものを含む)では数万円の価格設定をしているものが点在していますが、ほとんどのアバター(98.8 %)が一万円未満で販売されていることがわかります。この範囲をより詳しく見ていきます(図2.)。
最頻値は ¥0~¥1,000 の範囲で、918 体(うち無料のもの 234 体)でした。販売数のおよそ三分の一は千円以下の商品、また販売数のおよそ十分の一が無料商品になります。その次に販売数が多い価格帯は ¥3,000~¥4,000 になりました(466 体)。
アイテム販売本数
アバターに着用させることを想定したと思われる衣装や小物等を本記事では「アイテム」と称します。
現在、6,444 個のアイテムモデルが販売されています。
これも、アバターと同様にサブカテゴリで判断しており、サブカテゴリが「3D衣装・装飾品」になっている商品の数です。
アイテム販売価格
こちらもヒストグラムを示します(図3.)。アバターの場合と同様に、四千円以上の商品は極めて少ないことから結果からは除外しています。
最頻値は ¥0~¥500 の範囲で、約三分の一にあたる 2,516 点(うち無料のもの 294 点)でした。また、こちらはアバターと違って、最頻値をピークに裾が広がるような分布になっています。また、¥4,000 を超える商品は稀です(¥4,000 未満の商品が全体の 99.7 %)。
アバターとアイテムの対応関係(方法)
ユーザー側がアバターで個性を出す手段として、「どのアバターを選ぶか」だけでなく「どのようにアバターを改変するか」も重要です。昨今では、特定のアバターに合わせてスキニングを完了したアイテムのモデル、いわゆる「専用衣装」が盛んになっています。
そのため、ユーザーが改変を行うとした場合、そのモデルに対応した衣装がどれぐらいあるかというのも、重要な指標になってきています。
一方、専用服の販売は、そのほとんどが同人的に行われているものです。そのため、どれがどのアバターに対応しているかというのは、個別に探すしかありませんでした。そこで、筆者は「あるアイテムの説明文に、あるアバターへのリンクがあれば、そのアイテムはそのアバターに対応している」というルールで解析を行いました。
この方法では、一定数の取得漏れ(明らかに専用衣装だが、説明文内にURLの記載がない)が発生してしまいます。しかし、「誤って、対応していないものを対応とカウントしてしまう」ことは稀であることから、一定の信頼性のおける指標になると考えられます。
アバターとアイテムの対応関係(結果)
解析の結果、対応アイテムが多い上位 10 アバターを表にまとめました(表1.)。
表1. 対応アイテムが多いアバター上位10体
日常的にBOOTHでモデルを購入する人にとっては、定番とも言える見慣れた面々が多いのではないでしょうか。
対応アイテム数を横軸に、アバターの数を縦軸にヒストグラムにしました(図4.)。
0点~25点 の範囲に強烈に偏っているので、この近辺をもう少し詳細に見ていきます(図5.)。
対応衣装なし(それがデフォルトなのですが)のアバターが 2,373 体となり、ほとんどはここに含まれます(88.2 %)。一方で人気モデルには数十点~数百点の対応アイテムが販売されているので、専用衣装の人気は上位モデルに極めて偏っていると言えます。
考察(アバター販売)
これまでの解析で得られた結果を元に、あるモデラーが3Dモデルを販売したいと考えた時に、このようなことを考慮した方がよいかもしれない、という点を考察していきます。
まず、3Dアバター販売自体がかなりのレッドオーシャン(過当競争)になりつつあるということです。
現時点で、BOOTHだけでも二千超のアバターが登録されています。普通に販売するだけでは、顧客の目に偶然留まる可能性は極めて低いです。それにしても約 2,700 体とはすごい数です。2019 年夏に人力集計でデータベースを作ろうとしたことがありますが、その頃は 100 体もいなかった……。
また、定番となっている人気モデルは、当然ながら高い技術力を以て魅力的に作られています。それらとクオリティで競うのも大変です。
加えて、「VRChat 向け」を謳っている限り、それにデータの用意や、サポートの手間も必要です。人気上位の商品を見たところ、以下のような項目が確認できました。
・VRCSDKを適用したUnity Package
・ダイナミックボーン設定
・フルトラッキング対応
・改変用PSDデータ
・リップシンクシェイプキー
・表情シェイプキー
・体型変更用シェイプキー
・アイトラッキング対応
珍しいものでは、専用パーティクルや、専用アニメーション、専用ボイス(!)といった設定もありました。
ちなみに、今年の上旬に SDK のアップデート(SDK2 → SDK3)があり、多くのモデラーが対応に追われました。やむなくサポート終了したモデルも複数あります。今後も、このような緊急対応が今後も必要になってくる可能性があります。
価格設定は難しい問題ですが、 上に述べた通りほぼ全てのアバターの販売価格は一万円未満です。一万円を超えるアバターは、(なにか特別な付加価値がない限りは)広く継続的に購入されることは難しいでしょう。
また、無料に近い価格帯を除いたピークは ¥3,000~¥4,000 の価格帯です。
上に挙げたサポートが一通り揃った「フルスタック」の販売アバターのボリュームゾーンがこのあたりになると推測されます。購入側が価格から受ける印象としては、
・¥3,000 よりも安い側がリーズナブル帯
・¥4,000 よりも高い側がハイクオリティ帯
という立ち位置になりそうです。
考察(アイテム販売)
アイテムは、そもそも品数も多く(現在六千点超)、また細かい用途に分かれます。そのため、アバターほど「定番モデル」という概念はないと考えます。よって、競争自体は激しくないですが、多くを販売するという点では、アバター以上に厳しい世界かもしれません。
アイテムの価格の分布は、¥0~¥500 の価格帯をピークに、おおよそ ¥4,000 まで裾を描く形になっています。おおむねこの範囲で価格と作り込みが比例すると考えてよさそうです。アバターの場合と同様に、¥4,000 を超える対応アイテムは(なにか特別な付加価値がない限りは)広く継続的に購入されることは難しいでしょう。
作り込みの目安として、スキニングされているか(いわゆる専用衣装かどうか)が一種の目安になると推測されます。しかし、商品情報だけからそれを厳密に判別することは困難です。なお、簡易的な解析として、名前に「スキニング」または「スキニング」を含むアイテム 95 点を調べました。その結果、販売価格の中央値は ¥1,000、加重平均は約 ¥934 になりました。よって、¥1,000 付近が専用衣装のボリュームゾーンになると予想されます。
考察(専用衣装)
アバターと対応アイテムとの関係に対する解析では、いわゆる「専用衣装」の分布に大きな偏りがあることを明らかにしました。ほとんどの専用衣装は、定番モデルに集中しています。というか、人気のあるモデルは 200 点以上も専用衣装(や装飾品)が作られているんですね……すごい数だ。ちなみに、「舞夜」は販売開始から約2ヶ月という速さで、もう対応アイテム数が200点以上が確認されています。
アイテム販売において多くの販売数をあげることを第一の目的にする場合(これは想定の話であって、自分の作りたいものを作って売るのが一番です)について考えます。その場合、対応アイテムが百点を超えるような人気モデルの専用衣装を作るのが販路的には良さそうですが、それもある種のレッドオーシャンです。
しかし、ここまで集中が激しいと「ある程度人気はあるが他の人気モデルに比べて衣装が揃ってない」という例はかなりあると推測されます。そのようなモデルに対して専用衣装を用意するのは、同じモデルを使用する他のユーザーの改変を手助けするという意味でも、より競争の少ない販路を開拓するという意味でも、合理的であると考えられます。
ちなみに、専用衣装の種類は、
・ハロウィン、サンタのような季節性のもの
・水着のようなシンプルで露出度が多いもの
が多くを占める印象です。これは、宣伝のしやすさや、作成のしやすさからそうなっていると考えられます。
考察(人気モデルの寡占)
定番モデルは小数の人気アバターに占められており、専用衣装のほとんどがそれらに集中している、ということは、ユーザーなら直に感じていることだと思います。これまでの解析結果は、いわばそれを数値によって裏付けるものでした。
以降では、
・そのような寡占状態はなぜ生じるのか
・いつ変化が訪れるのか
ということについて論じていきたいと思います。
実は、定番モデルというのは、わずかながら入れ替わり続けています。3Dモデルの販売は2019年上半期頃から活発になりました。その頃も当然定番のモデルがありましたが、今ではあまり見かけなくなったものが多いです。VRChatの顔だった(※実際にスタッフで使用している者もいて、バナーになっていた)「キッシュ」も、今見ると少し懐かしい感じが……。
逆に、最近のモデルでも、爆発的なヒットを見せて一気に定番の座を確保した者もいます。あとおっぱいが大きいアバターが人気になることが増えてませんか(個人的には好都合ですが)。
つまり、定番モデルというのは長期的なスパンで見れば流動的なものです。では、なぜそのような流動が起こるのか、という点について論じていきます。
考察(流動の原因)
考えられる一般的な原因としては、技術向上により常に最新技術に取って代わられるというものがあります。しかし、これは3Dモデルについてはあまり当てはまらないと考えます。3Dモデルの魅力はユーザーの嗜好性に大きく左右される上に、3Dモデル自体のクオリティ(これも定義が難しいですが)は2019年頃からすでに十分高いからです。
(補足すると、外的要因として、VRChatSDK のポリゴン上限数が 2万 から 7万 に引き上げられたことがあります。しかし、これも本質的な魅力にはあまり寄与しないと考えております)
では、流動を引き起こす原因はなにか。個人的には、それはファッション的嗜好、言ってしまえば「流行」であると考えます。言い換えると、「みんなと同じがいい」という欲求と、「みんなと違っていたい」という相反した欲求が起こす、集団的な嗜好の断続的な変化ということになります。
一度、定番モデルが確立されると、それに集中するような動きが自然的に発生します。「ユーザーが多い→販路が多い」という循環が生み出す専用衣装の集中や、同じアバター使用者同士で集まる「集会」と呼ばれるイベントがそれにあたります。しかし、時間が経つにつれて
・違う装いをしたくなる
・他に気になるモデルが出てくる
という思いを持つユーザーが増えてきます。それが一定数溜まった時に、集団的な入れ替えが発生します。それによって、また新しい定番モデルが生まれます。このような流れが、断続的な新陳代謝を促していると考えられます。この変化の間隔を厳密に測るのは難しいですが、筆者の感覚としては四半期に一回程度そのような入れ替わりが発生していると感じます。(本稿の範囲を超えますが、そのような時系列解析も面白いかもしれません)
実際に、アバターを多数所有している VRChat ユーザーの中には、定期的にアバターを変える人は少なくありません。時節や場所に合わせてアバターを変えるユーザーもいれば、はたまた単純に飽きたから変える(ように見える)ユーザーもいます。「飽きた」というと表現がややネガティブですが、そのような使い方はまさに現実の衣服と相似形です。これは、アバターがまさしくバーチャル世界での「外着」として機能している証左であると考えます。そして、定番モデルの推移とファッションに見られるような流行のダイナミクスには、通底するものがあると推測されます。
考察(今後のトレンド)
では、今後の定番はどうなっていくのか。これは誰にも分かりません。
現状は、BOOTHの販売を中心にKAWAII美少女モデルが席巻していますが、その中で新しい美少女が新たな流行を築いていくのか。はたまた、KAWAII文化とは全く別の文化が新しいスタンダードとなっていくのか。
VR界隈は、今後も大きな変化が予想されます。筆者としては、アバターを媒介としたコミュニケーションが、今まで VR を使用したことないユーザーにも普及して欲しいですが、その過程で現在のようなアバター文化にも変化が訪れるでしょう。少なくとも、「多くのユーザーが獣耳美少女みたいな状況」は良くも悪くも変わると思います。無難な結びですが、色々な文化がお互いをリスペクトしつつ、新しい文化を生み出せていけたらなと思います。
結論
おまけ(アプリ公開しました)
本記事で行った解析法を元に、アバターを対応アイテム数から検索できるWebサービスを公開しました。
https://avatar-network.herokuapp.com/
アバターから対応アイテムを探したり。
アイテムから対応アバターを探したり。
対応アイテムや対応アバターの数を含めた、クリエイターさん別の商品の一覧を見ることができます。