見出し画像

村井知事 再稼働に同意 女川2号機・被災原発で初 3者協議経て正式表明

 東北電力女川原発2号機再稼働について村井嘉浩知事は11日、立地自治体の須田善明女川町長、亀山紘石巻市長と3者協議し、再稼働の前提となる「地元同意」を正式に表明した。東日本大震災で被災した原発に地元が同意するのは初めて。村井知事は「再生可能エネルギーで需要構造が支えられるまで、当面は原発が必要」と述べた。村井知事は早ければ週内にも梶山弘志経済産業相に対し、同意を伝える考え。【山口紘史】

女川原発2号機 再稼働地元同意を正式表明 (76)

村井知事、須田町長、亀山市長の3者が協議し、同意を決めた

 県石巻合同庁舎で行われた3者協議は非公開で進められ、約30分の話し合いの結果、記者会見で村井知事が同意を表明。「安全性の確保が大前提」とした上で「再生可能エネルギー導入を進めつつ、最適なエネルギーミックスの中で原発を再稼働させる必要がある。原発の稼働で地元企業の受注に伴う雇用創出や地域経済の発展にもつながる」と説明した。

 同意理由に2号機が原子力規制委の新基準に合格し、安全性を確認できたと判断したことも挙げた。一方で焦点である重大事故発生時の避難計画は「避難路整備を含む原子力災害の備えに終わりや完璧はない」と強調。「不断の見直しを行う」と考えを述べた。

 2号機は2月に原子力規制委の安全審査に合格し、6月に国の原子力防災会議が地元自治体の避難計画を了承。8月には石巻地方など7カ所で住民説明会を開いた。9、10月には女川町、石巻市の両議会、県議会が再稼働容認の姿勢を示した。9日にあった市町村長会議は再稼働に向けた判断を3者協議に一任した。東北電力は安全対策工事が終了する令和4年度以降の再稼働を目指していく。

 地元同意の表明で市町村長の受け止めはさまざま。重大事故発生時、市域の3分の2以上がUPZ(30キロ圏の緊急防護措置区域)に含まれる東松島市の渥美巖市長は「市町村長会議の総意と、3者協議の結果を基にした知事の総合的判断と受け止める」と談話を出した。

 一貫して反対姿勢を示してきた美里町の相澤清一町長は、取材に対して「避難計画は机上の空論。重大事故時の避難者受け入れもどう対応していいか分からない中での同意。拙速であると言わざるを得ない」と知事の判断を痛烈に批判した。

 賛否を問わず避難計画の実効性を不安視する住民の声が多いことも事実。須田町長は以前からインフラ整備に対する県の前向きな姿勢を求めていた。今後は国や県が安全性の確保に向け、どう具現化させていくのかが注目される。

◆   ◆   ◆   ◆   ◆

知事「判断時期は適切」
議会採決や首長会議重視 立地自治体 安全対策念押し

 東北電力女川原発2号機再稼働の前提となる「地元同意」を正式に表明した村井嘉浩知事は、3者協議後の会見で「議会判断や市町村長会議の総意を重視した」と強調した。須田善明女川町長、亀山紘石巻市長は「避難計画の実効性向上に対する知事の前向きな姿勢が確認できた」として同意了承の経緯を語った。【山口紘史】

女川原発2号機 再稼働地元同意を正式表明 (107)

村井知事 一問一答

―「地元同意」判断のポイントは
県議会や市町村長会議、立地自治体首長の判断を聞き、皆が(再稼働に)理解を示したことが大きかった。

―避難道路整備など県独自で難しい課題の解決は
必要なものは国に相談や要請するが、もちろん県独自予算も活用する。いろいろな力を借り、できる方法を検討する。

―市町村長会議が行われたばかりで、方針がすぐに決まったように思うがスケジュールありきではないか
市町村長会議で「3者協議に一任する」との同意を得ており、逆に早く結論を出さないと市町村長に失礼だと考えた。

―住民投票や説明会の追加開催など他の方策もあったと思うが
住民投票は県議会で否決され、私の力の及ぶところではない。住民説明会の様子はインターネットで公開しており、参加住民も皆同じような意見だったので、理解の深まりや説明会の実施回数に問題はなかったと考える。しっかりとした経過を踏んでいるので、判断は早くも遅くもない適切なタイミングと思う。

―東北電力の安全対策工事完了までまだ2年あるが、この時期に決断した理由は
事前了解が無ければ着手できない工事もある。計画通り工事を終えるためには、このタイミングでなければ支障が出ると考えた。 

安全向上へスタート 須田女川町長

 再稼働の是非の判断材料に①原発の安全性②町議会の決定など地域理解③避難計画など防災対策の妥当性④東北電力の事業姿勢―を挙げ、それぞれ確認してきた。先ほど知事から防災の考え方について、ハード、ソフト両面で全力かつ着実に臨むと約束を得た。

 安全の確立は町としては最優先事項。町議会でも賛否双方から防災の充実と不安の声が上がった。避難計画の実効性を高めることが大前提で、インフラ整備は全自治体の課題でもあるため、全体を代表する意識で県に求めてきた。安全性の充実に向けた「新たなスタート」に立った認識だ。

実効性ある計画を 亀山石巻市長

 原子力規制委の新規制基準審査や安全性検討委の検証で2号機の安全性は確認され、村井知事、須田町長との3者で女川原発も視察した。これらによって東北電力の事前協議に了承した。再稼働も議会の意思を尊重し、総合的に考慮した上で同意の旨を村井知事に伝えた。

 加えて①牡鹿半島部などの広域避難路整備②避難計画の実効性向上③市民の避難先となる27市町村の受け入れ態勢、情報交換体制の確立④避難経路阻害要因調査の課題解消―も要望し、明確な回答をもらった。

◆   ◆   ◆   ◆   ◆

渦巻く賛否 原発抱える市町民
「雇用は重要」「怒り湧く」…脳裏よぎる9年前の福島事故

 村井嘉浩知事が女川原発2号機の再稼働の前提となる「地元同意」を示したことで、石巻地方の住民からは期待や不安などさまざまな意見が聞かれた。中でも東日本大震災後に起こった東京電力福島第一原発事故を引き合いに出し、再稼働を不安視している人が市町を問わず多かった。

■不安な気持ち消えない
女川原発で働く友人もおり、それで生計を立てている人が多数いるのも事実。複雑な問題だけに意見は難しい。
だが東日本大震災から10年を前に、福島第一原発事故の影響は多くの人や土地に及んでいる。幼子を育てる母親としては再稼働にとても不安な気持ち。安全性が確実でない限りこの不安は消えない。
(石巻市住吉町、主婦、佐野亜希さん、44歳)

■事故影響及ぶのは明白
福島第一原発事故で故郷に戻れなくなったり、子どもが不登校になったりと住民生活に多大な影響が出たことを知っているだけに、万が一、女川原発で同様の事故が発生した場合、東松島市にも影響が出るのは明白。避難道路整備や避難先での対応もはっきりしていない中、再稼働を進めることは望まない。
(東松島市浜市、主婦、安倍愛子さん、73歳)

■地域の雇用創出に期待
再稼働は前向きに受け止める。女川が次の10年に進む中、原発再稼働に伴う多くの雇用も重要と考える。
福島第一原発事故を踏まえた広域避難計画や防災対策など、安全性を高めた上での再稼働が地域の安心につながる。人口減少が著しい女川町に活気を取り戻す契機になってくれればと願う。
(女川町旭ヶ丘、会社役員、伊藤俊さん、52歳)

■県民なめた拙速な判断
知事はいかにも民意をくんだ判断のように語るが、それでは不十分。県民の命が大切ならば県民投票を実施し、声をしっかりと拾うべき。県民をなめ切った拙速な判断。怒りしか湧かない。避難計画でもUPZ(原発から30キロ圏)の屋内退避もどれほど効果があるのか分からず、不安は拭えていない。
(石巻市北上町、無職、佐藤清吾さん、79歳)

◆   ◆   ◆   ◆   ◆

共産党が抗議声明 「民意くまず不当」
議会判断にも言及

 村井嘉浩知事らが女川原発2号機再稼働への同意を表明したことを受け、日本共産党の県委員会(中島康博委員長)と県議団(三浦一敏団長)は11日、「われわれが求めた県民投票をせず、民意をくみとる努力をしないまま同意に踏み切ったことは不当」と抗議の声明を出した。【熊谷利勝】

共産党 原発再稼働同意で抗議声明 (3) - コピー

会見した三浦団長(前列左)

 石巻市役所で会見した三浦団長らは「なぜ急ピッチで再稼働を判断しなければならなかったのか疑問」とし、声明で「避難計画は欠陥だらけ。県民の安全を守る責任の放棄」として事故時の被害の大きさを指摘した。

 地元同意を後押しした各議会の判断についても「県民世論と相いれない」と断言。党として大元である国政の場からの「原発ゼロ」を目指し、全国的な署名運動や1年以内の総選挙へ全力を挙げる考えを示した。


現在、石巻Days(石巻日日新聞)では掲載記事を原則無料で公開しています。正確な情報が、新型コロナウイルス感染拡大への対応に役立ち、地域の皆さんが少しでも早く、日常生活を取り戻していくことを願っております。



最後まで記事をお読みいただき、ありがとうございました。皆様から頂くサポートは、さらなる有益なコンテンツの作成に役立たせていきます。引き続き、石巻日日新聞社のコンテンツをお楽しみください。